全国有数の小麦の産地、群馬県。上質な小麦を使って、うどんや焼きそば、焼きまんじゅうなど、とにかく粉もののご当地グルメが盛りだくさん。
東京から車で約2時間の群馬・桐生に行った帰り、高速道路までの一般道を走っていると、一瞬、「やぎぱん」と書かれた“立て看”が目に飛び込んできました。気になりましたが、通り過ぎました。だって、そこは繁華街でもなく、フツーの住宅街を抜ける細い道。店などほとんどない所なのです。
でも、「やぎぱん」という文字が頭の中でぐるぐる、ぐるぐる。やっぱり気になる…。こういう時は引き返す性分です。急がば回れ。人生の大半は無駄なことですが、行ってみなければ何も起きません。ハズレも多いけど、たまにアタリもあるのです。そして、今回は大アタリ!
Uターンして「やぎぱん」の立て看のところを右折してみると、フツーすぎる住宅街になり、さらに先に進むと、1軒の店らしき建物。

『やぎぱん』は、小さな町のパン屋さんでした。入る前から美味しそうな匂いが漂い、入店してみると対面販売式。ガラスケースにパンが行儀よく並んでいます。夕方だったので品数は少なかったものの、見るからに美味しそうなパンばかり。お店の人は1人、パン職人の八木潔(やぎ・きよし)さんです。そこで“ヤギさん”にパンの説明を聞きながら、いくつか買ってみることにしました。


乳製品を使ってないのに美味しいマフィン

まず、ルックスから気になる筒状の「マフィン」です。目測ですが、高さ6cmくらいはあるでしょうか。
「これはバター、卵、牛乳を使っていない生地で作ってるんですよ」とヤギさん。マフィンといえば、甘くて、バターたっぷりのカップケーキ系や、朝食で食べるような塩味の効いたイングリッシュマフィンなどがありますが、どちらも乳製品を使うはず。
これはすぐに味見をしなくては。その場でいただくことにしました。

ヤギさんにもう少しお話を伺ってみると、「うち(のパン)は天然酵母の種に、群馬県産の小麦粉を主に使って、溶岩窯で焼いています。マフィンは、そこに菜種油を使っています。ふかふかしているのは、ハード系のパンより発酵時間を少し長めにとっているからです。食パンと同じ生地なんですよ」
ショーケースに食パン(560円)が1本だけ残っていたので、これも迷わず購入! 店の奥には広い厨房が見えます。他にお客さんもいなかったので、お願いしてちょっと見せてもらいました。

厨房には“でん”と大きな溶岩窯がありました。溶岩窯は石窯の一種で、オーブンの内側が溶岩プレートになっているそうです。
さらに天然酵母を見せてもらいました。匂いを嗅ぐと、昔ながらの優しいパンの濃厚な香りがしてきます。こちらは、3年半前のオープン時にレーズンから作った天然酵母を種に、継ぎ足し継ぎ足し、作り続けているそうです。


お話を伺っていると、マフィンや食パンに限らず、こちらでは、ほとんどの“パン生地”は卵やバター、牛乳など乳製品を使わず、さらにトランス脂肪酸のマーガリンやショートニングも不使用だそうです。理由を尋ねると、
「どうしても乳製品がアレルギーなどで食べられなかったり、苦手だったりする方がいらっしゃいます。そういう方たちにも、パンを召し上がって欲しいと思って。乳製品を使わなくても、美味しいパンはいくらでも作れますから。また子どもを連れたお母さんたちもたくさん買いに来てくれますので、健康面にも気を配りたくて……」
そういえば、群馬といえば、名物のうどんや焼きまんじゅうなど、小麦粉が欠かせない郷土料理が多い県。調べてみると、県産の小麦粉は、うどんだけでなく、パンに使われることも多いようで、県内の学校の給食では「ぐんまぱん」という県産小麦粉100%のパンが出ることもあるとか。また、群馬県内は実はレベルの高いパン屋さんがたくさんあるようで、雑誌で特集も組まれているそうです。知りませんでした!

絶品のハード系パンもたくさん!

ところでヤギさんの経歴を伺うと、前職は群馬・前橋のパン屋さんで働いていたそう。
「ここを開くときに、ルヴァンのようにハード系のパンを看板にしたかったのですが、不思議なことにクロワッサンがすごく人気になっちゃって」と笑います。
その日はもう売り切れてしまっていたクロワッサン。残念ですが、ヤギさんの自信作「かんぱぁにゅ」350円と、ドライフルーツとくるみやアーモンドがいっぱい入っているという「ナッツ&フルーツ」370円を買うことができました。


自宅に戻り、さっそく「かんぱぁにゅ」をいただいてみました。外はパリッと香ばしく、中は本当にモッチリしています。その日の夕食は、なんと肉じゃがと焼き魚でしたが、そんな和食にもびっくりするくらい合うんです。噛めば噛むほど、小麦粉の素朴な味の魅力がたっぷり。
そういえば、1歳のお誕生日の「一生餅」(1歳の子どもの成長を祈り、一升分(1.8kg)の餅を背負う)に、特大「かんぱぁにゅ」をオーダーする人も多いとヤギさんが言っていました。さすが“粉もん好き”の群馬です。

今度、群馬に行くときは、まず『やぎぱん』を目指して、買い損ねたクロワッサンをゲットしようと決意。皆さんもぜひ、立ち寄ってみてください。
(取材・文◎土原亜子)
●SHOP INFO

店名:やぎぱん
住:群馬県みどり市笠懸町鹿2450-26
TEL:0277-77-0312
営:10:30~18:30
休:月・火・第1と第3水曜日
※不定休あり
https://www.facebook.com/yagipan2014/