とうとう6月がやってきてしまいました。1年の中で祝日が1日もない月。
肉を叩く音に期待が高まる!
「わらじかつ丼」は、ご存じの方も多いと思いますが、卵でとじず、カツとタレで直球勝負する丼メシです。トンカツが薄くて、巨大なところから草鞋(わらじ)に例えられ、「丼からはみ出ている」「蓋が閉まらない」など、見た目も楽しい名物料理です。
秩父で、わらじかつ丼は蕎麦屋や道の駅など各所で食べられるのですが、今回向かったのは専門店であり、発祥の店として知られる『安田屋』さん。本店の秩父店(小鹿野町)は山奥にあるので少しアスセスに難があるのですが、今回ご紹介する支店『安田屋 日野田店』は、西武鉄道・秩父駅から徒歩10分ほどで行ける、日帰り旅には最適な場所にあるんです。

昼前に到着しても、やはり行列ができていました。並んでいると、ぴったりと閉まった扉の奥から「ペシペシッ、ペシペシッ」という音が聞こえてきます。おそらく豚肉を思いっきり叩いている音でしょう。
この音を聞いていてある光景を思い出しました。ウィーンを訪れた時に食べた「ウィンナ・シュニッツェル」です。現地のシェフが、豚肉を叩いて厚さ5mm程度にまで伸ばし、トンカツ同様、溶き卵、パン粉の順で衣をつけて揚げていました。

蓋カツ載せの贅沢丼
入店すると、カウンターと小上がりの座敷があり、座敷のヘリに座って少々、中待ちがありました。この時、メニュー選びに迷い始めました。
メニューは「わらじかつ丼」オンリーですが、「2枚入り」(1,080円)か「1枚入り」(860円)を選ぶのです。

先客をよく観察していると、「2枚入り」は男性が多く「1枚入り」は女性が多いようです。そして、「2枚入り」組は、丼の蓋をひっくり返して、その上に1枚のカツを載せておき、まずは「1枚入り」組と同じスタイルで食べているのです。

なんという贅沢な食べ方なのでしょう! これを見た私は、我を失いました。女だということも忘れ、自分の胃袋の許容量も忘れ、「2枚入りをお願いします」と口走ったのです。

期待が最高潮に達した時、お店の方がお盆を手にやってきて、私の目の前に置きながら「女性の方なので、食べやすいように下のカツはカットしておきました」
蓋を開けると、カツがどかんと2枚!! ラードと甘辛いタレが融合した香り。1枚目は切れ目がありませんが、箸でめくると、下のカツは確かに一口大にカットされています。なんという気配り!

カツとご飯の接地面が美味しすぎる
巨大なカツを1枚、蓋に移動すると、“両手にカツ状態”になり、目の前は一面茶色です。そして、カツ1切れをひと口。おお、ふわっと柔らかくて、甘い!
揚げたてのカリッとしたカツを甘辛いタレをくぐらせているのでしょう。タレを吸った衣は熱々ですが、しっとり。

そして、何よりも注目して欲しいのは、かつとご飯の接地面。私が「トンカツ定食よりかつ丼の方が好き」な理由は、この “接地面”なんです。甘辛いタレと脂の甘みが渾然一体となって、ご飯に触れた、あの部分。特にわらじかつは巨大なので、接地面が多いのも嬉しい限り!
途中で卓上にあるスパイスを振りかけてみると、山椒と唐辛子が入った“辛シビ系”で、絶妙なアクセントになり、ご飯が進みます。こうして1枚目の「わらじかつ丼」はあっという間に食べ終わってしまったのです。

蓋の上のわらじかつの行方
忘れてはいけません。まだ右横の蓋にいるんですね、もう1枚のわらじかつが。切れ目が入っていない無骨な姿で、私をじっと待っているんです。
しかし、丼にご飯はありません。ここで自問自答しました。切れ目ないこのわらじかつを一口でも食べたら、最後まで食べなくてはなりません。
と、しばらく蓋の上のカツを見つめていたら、お店の方が「お持ち帰りしますか?」と声をかけてくださったのです。渡りに船。

美味しいかつは冷えても旨い
テイクアウト用のプラケースをいただき、蓋の上のカツを移動させました。申し訳ない気持ちもありましたが、立派な“秩父土産”にすることができたわけです。
ところが、これで終わりではありません。『安田屋』さんのわらじかつの“おみや”は、偉大だったんです。
翌日、冷えた「わらじかつ」を、熱々のご飯にのせて、上からお茶をかけていただいてみたのです。そう、名店「とんかつ 新宿 すずや」の真似です。これが大当たり! めちゃくちゃ美味しいんですよ。
というわけで、女性の皆さんも欲張って「2枚入り」を注文してみてください。美味しいかつは持って帰ればいいんです!
(撮影・文◎土原亜子)
●SHOP INFO

店名:安田屋 日野田店
住:埼玉県秩父市日野田町1-6-9
TEL:0494-24-3188
営:11:30~17:00(16:30LO)
休:月