突然ですが、問題です。『一幸庵』といえば文京区小石川にある和菓子店ですが、では『一幸庵』の和菓子が食べられるお店といえば?

 正解は『cafe竹早72』。

『一幸庵』から歩いて3分ほど。竹早公園の目の前にそのお店はあります。

ふわほわ薄茶orとろ~り濃茶。『一幸庵』の和菓子と一緒に味わいたいのはどっち?

 カフェを切り盛りするのは和菓子職人を父に持つ小松美幸さん。「餡の美味しさや味わい深さをもっとたくさんの人に知ってもらえたら」という思いを伝えられるお店がオープンしたのは今から4年前の春。それまで日本茶専門店や飲食業に携わり、茶道をたしなむなど、着々と準備を整えてきたそうです。

 ここ1年ほどは出産と育児のため休業中でしたが今年5月中旬に待望の再開!「待ってました」と言わんばかりのファンも多いのではないでしょうか。何を隠そう、筆者もそのうちの一人。

ふわほわ薄茶orとろ~り濃茶。『一幸庵』の和菓子と一緒に味わいたいのはどっち?

 店内では一幸庵製の和菓子はもちろん、白玉ぜんざい、葛切り、あんみつなど、カフェでしかいただけない甘味メニューを楽しむことができますが、近年はかき氷を目当てに訪れる人も増えています。

 あんず、黒糖、あずきなど、どれも自家製蜜で提供するかき氷は熱狂的なかき氷マニアをも唸らせる季節限定の人気メニュー。とはいえ、やはりお店の原点であり真骨頂は和菓子。そしてぜひ一緒に味わっていただきたいのが抹茶です。

季節の菓子と薄茶をいただく

 カフェでいただける季節の菓子は常時5種前後。お好みの和菓子1種と抹茶を選びます。

抹茶には、薄茶と濃茶があるのをご存知でしょうか。お店ではどちらか好きな方を選ぶことができます。好みにもよりますが、どちらか迷ったら親しみやすい薄茶がおすすめです。

ふわほわ薄茶orとろ~り濃茶。『一幸庵』の和菓子と一緒に味わいたいのはどっち?

 お湯に抹茶を溶かし、茶筅(抹茶とお湯を混ぜる竹製の道具)でシェイクしたカプチーノ風のものが一般的に抹茶として知られている薄茶です(流派によって異なります)。

 美幸さんの点てる薄茶は気泡がきめ細やかで、ふわふわのメレンゲを彷彿とさせます。一口目にはビールの泡よろしく、上唇に薄緑のひげをつける人もいるとかいないとか。

ふわほわ薄茶orとろ~り濃茶。『一幸庵』の和菓子と一緒に味わいたいのはどっち?

 和菓子を食したのち、優しい泡のあとに抹茶の甘みとかすかなほろ苦さが口の中に広がり、至福の瞬間が訪れます。「上質の茶筅のおかげですよ」と謙遜する美幸さんですが、『一幸庵』の和菓子と一緒にふわほわの薄茶で一服できるのはなんとも贅沢なひとときです。

 ちなみに薄茶、濃茶ともに、使う抹茶やお湯の温度、点て方(点てる人)によって甘い、苦い、渋いなど、味わいに差が出る飲み物です。続いて、濃茶をご紹介しましょう。

初めての人はその濃厚さにただただ驚く!

「薄茶と濃茶が選べるというと、濃茶は濃くて、薄茶は薄めているの? と思う方も多いですね。もちろん比較すると圧倒的に濃茶は濃いのですが、薄茶が単に薄いお茶というわけではありませんし、そもそも点て方も異なります。

 濃茶は抹茶を練って仕上げたまったりとした濃厚な味わいです。本来、格式の高い厳かな茶席でいただくことが多く、あまり日常的ではないため、飲んだことがないという方がほとんどかもしれません。それならばぜひ濃茶を飲んでみたい! という方もいらっしゃいます。

 よい例えかどうかはわかりませんが薄茶が泡立ちコーヒーで濃茶がエスプレッソといったところでしょうか」(美幸さん・以下同)

ふわほわ薄茶orとろ~り濃茶。『一幸庵』の和菓子と一緒に味わいたいのはどっち?

 美幸さん自ら考案した濃茶のプレゼンテーションは、洒落たフレンチの一品のように登場します。スタイリッシュモダンな演出に戸惑う人もいるようで「どうやって飲むんですか?」と聞かれることも多いそうです。

 飲むというよりすするというイメージが近い気もしますが、きれいな例えではないけれど、濃茶を口に含めば緑のお歯黒、いや、お歯緑(?)状態。唇は深緑色のリップを塗ったかのようになる(かもしれない)そんな飲み物です。なにしろ、冷めないうちにいただくのが贅沢。

 また、添えられたマシュマロにはちょっとした遊び心がありました。一般的に濃茶は複数人で順番に回し飲みするのが常です。茶碗の飲み口を拭いてから次の人に渡すという作法がありますが、ここで提供するのは一人分。「飲み口を拭くというよりは茶碗に残った抹茶を最後まで味わってもらえれば。

例えるならお皿に残ったソースをパンで拭うイメージでしょうか。ぜひ最後の最後まで抹茶本来の味わいを楽しんでみてください」。なるほど!

「もちろん、本来のお茶席で濃茶にマシュマロが添えられることはありません(笑)。ただ、ここは茶席ではなくカフェ。ご自由に召し上がってください」と、美幸さん。続けて「堅苦しい作法抜きで、和菓子や抹茶を味わい、そしてゆったりとした時間を過ごしていただければ」。

ふわほわ薄茶orとろ~り濃茶。『一幸庵』の和菓子と一緒に味わいたいのはどっち?

 ふと、壁に飾られたイラスト画の埴輪と目が合いました。「慌ただしい日々の中でせかせかして落ち着かないときもありますが、カウンターの内側からイラスト画を眺めていると、心穏やかに、気負わず、自分のペースでいいんだよと言われているような気がします」。

 それはまるでどこかの茶室の床の間の掛け軸で見た禅語の教えのようにすーっと耳に入ってきたのでした。

●SHOP INFO

ふわほわ薄茶orとろ~り濃茶。『一幸庵』の和菓子と一緒に味わいたいのはどっち?

「cafe竹早72」

住:東京都文京区小石川5-14-2 1階
TEL:080-2247-4567
営:10:00~16:00(L.O.15:30)
休:日・月・祝(土曜は月2回のみ営業)
  ※詳しくはFacebookにてご確認ください

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。太宰治の短篇『不審庵』を読んで茶道に興味を持ち、茶道入門。一方で抹茶はお稽古やお茶会だけのものではないとの思いから、日常生活でお茶を喫する時間を楽しむようになる。

お酒の次に抹茶が好き。

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