「あんな長い行列見たことがない!」
というのは、昨年6月末、六本木アークヒルズにあったカレー屋『FISH』の閉店が決まったときのこと。多くの人たちがその味を惜しみ、連日100人以上が並びました。
『FISH』は、1986年のアークヒルズ誕生と同時に出店して以来、8席しかないスタンドにも関わらず、ランチだけで300食を売り続ける“怪物店”でした。
そんな『FISH』が、今年6月11日、西新宿でひっそり店を再開したというのです。どうして?? ということで、さっそく食べに行ってきました。
シルキーなキーマカレーにうっとり
西武新宿駅から徒歩5分ほどの雑居ビルの2Fに『FISH』はありました。天井が高く壁一面ミントグリーンに塗られた店内は、厨房との隔てがなく、本場のインド食堂のような空間。

必食のキーマカレーがうまい理由
オーダーの前に。こちらの店の、あるエピソードを知っておくとメニューを決めやすいと思います。 実は、『FISH』は、アークヒルズに出店する前、杉並区の片隅にあった小さくて、目立たないカレー屋さんでした。そこに偶然、立ち寄ったのが料理評論家の山本益博さん。「キーマカレー」を食べて感動し、すぐに常連客になったそうです。この偶然の縁で、『FISH』は、山本氏にアークヒルズを紹介され、都心に出店。じわじわと人気店になっていったのです。
というわけで、「キーマカレー」は必食。
「大辛チキンカレー&キーマカレーライス」1,200円

「白身魚&キーマカレー」1,300円

さっそく「キーマカレー」をいただくと、鶏挽肉がふわふわで、口の中で溶けていくような滑らかさです。様々なスパイスの中に、じんわりと玉ネギの優しい甘み。時折、カルダモンの香りがす~っと際立ちます。これは確かに今まで食べたことがない上品でシルキーなキーマです。

続いて、大辛チキンカレーは、ゴロゴロと大きなチキンが入り、かなりチリが効いたパンチのある辛さです。チキンはほろほろと口の中でほどけ、何十種類ものスパイスが立体的な味となって押し寄せてくる、これまた絶品! ルーにはトマトの酸味や玉ネギの甘みもぎゅっと詰まっています。

最後に白身魚のカレー。カレイの大きなフライがドカン、ドカンと入っていました。こちらはミルクと生クリームが入ったカレーで、一見マイルドそうですが、こちらもグリーンチリやクミン、コリアンダーなどの爽やかな香辛料が効いています。キーマカレーと混ぜてみるとまた違う味わいに。両方のいいところが合わさり、一層リッチなコクと香ばしい3つ目のカレーができました!

伝説はまだまだ続く

ファンが味の歴史を紡ぐ
無我夢中で食べていたので、うっかり聞くのを忘れるところでした。「なぜ、1年経って新宿で再始動したのか?」についてです。
「実は、私が『FISH』の大ファンだったんです。閉店の話を聞き、どうしてもここの味を残したくて、前オーナーに譲り受けることを承諾していただいたんです。『FISH』で16年間、料理長を務めたディパックさんにも、新しい店の料理人を務めてくれることを了承いただき、レシピもそのまま受け継ぐことができました」

そのレシピの決め手は、やっぱり玉ねぎ。一日中、大量の玉ねぎをみじん切りにし、飴色になるまで炒めることの繰り返すのだそうです。旧店長さんから受け継ぎ、新店長が担います。この重労働なくしては『FISH』のカレーは成り立ちません。さらにディパックさんのスパイス使いは、“神レベル”だそう。20種類以上のスパイスを魔法のようにパパッと配合。しかも尋常じゃない量を使うのだとか。
「うちのカレーは6種類のカレーがありますが、基本のルーというものがありません。ですから、全種類、全部別に作っているんですよ。

丁寧な仕事と経験による神業からできる『FISH』のカレー。食べれば納得。この誠実な美味しさが、永遠に続いていく理由がわかりました。ぜひ、みなさんも食べて欲しいと思います。きっと誰もが「伝説の味」にならなくて良かったと思うはず。まずはキーマカレーからどうぞ。
(撮影・文◎土原亜子)
●SHOP INFO

店名:FISH
住:東京都新宿区西新宿7-5-6 新宿ダイカンプラザ756 2F
TEL:03-5937-6322
営:11:30~15:00、17:00~23:00(L.O 22:00)
休:日