一部でプロ級の舌を持つと噂のタクシー運転手・荒川治さんに教えてもらう「東京B級グルメ案内」。今回は夏休み特別編。
モーレツな暑さが続きますが、学生たちが夏休みに入り、都内はなんとなくのんびりムード。こんな時に思い出すのは海水浴です。今回オススメする民宿『くろえむ荘』は、海水浴場が連なる千葉県の南房総・勝浦市にあります。勝浦市は、黒潮の影響を受ける海洋性気候で、8月でも平均気温が約25度。夜でも30度を超える熱帯夜が少なく、千葉県でも屈指の“避暑地”と言われる場所です。さらに名産は、勝浦漁港に水揚げされる新鮮な魚。ひんやり冷たいお刺身が食べたくなる今の時期にぴったりです。

『くろえむ荘』はそんな勝浦の海から2分の場所にあり、昼も夜も海風がそよそよと抜ける気持ち良い位置にあります。
宿は、田舎の“親戚ん家”といった佇まいで、ガラガラっと扉を開けると、これまた親戚の叔母さんのような気さくな女将・鈴木淳子さんが出迎えてくれます。「こんな民宿にようこそ!」と太陽のような明るい笑顔。

女将さんはいつも「民宿の漁師料理しか出せないんですよぉ」と言います、私にとってはどれもとんでもないご馳走です。
ここを一度訪れた人は確実にリピーターになります。たった8,200円(1泊2食付き)で、あの美味しさ、あの量。東京だったら料理代でも足りないくらいです。それでは早速、その豪快な“くろえむ料理”を紹介しましょう。

まずは刺し盛り。とれたてのカンパチ、シマアジ、カツオ、マグロ、サザエの5点盛りです。どの魚も分厚く切ってあり、色も艶々。口に入れたらさらにその新鮮さがよくわかります。すぐに動き出しそうなくらい、身がピチピチとしているんですよ。
ちなみにマグロは、特に脂(トロ)たっぷりの腹身部分です。同じ大トロ、中トロでも、都内で食べるのとは全く違い、身がプリッと引き締まっていて、口の中で脂がふわりと溶け出してきます。その甘いことと言ったら。刺身醤油も千葉県産で、これがまたさっぱりした塩梅で、脂とよく合うんです。

続いて名物の「金目鯛の煮付け」。金目鯛の旬は冬ですが、夏の時期でも大きくて肉厚の金目鯛の煮付けが1人1匹、出てきます。臭みは一切なく、甘辛く濃い目に味付けされています。特に煮汁は金目鯛のコクがたっぷりしみ出ていて、ほぐしたやわらかい白身をその煮汁につけて食べます。

続いて「トコブシの付け焼き」は、醤油や酒、みりんなどで付け焼きしてあり、味がよくしみていてとっても柔らかいんです。また、「アジのさんが焼き」は、千葉の漁師の郷土料理。新鮮なアジを叩いて“なめろう”にし、味噌、ショウガで味をつけた焼き物。シソの香りも効いていて、夏にぴったりの爽やかな味わいです。

このほかにも、「サザエのつぼ焼き」「伊勢海老のマヨネーズ焼き」などの料理が並びます。私が民宿料理を好きな点は、旅館のように1品1品出てくるのとは違って、一気に料理を並べてくれるところなんです。自分のペースで次々と、がっつり食べられて、何より気が楽です。


こんなにたくさんの絶品料理が並ぶので、連れをはじめ、あっちの部屋からもこっちの部屋からも「食べきれないよぉ」なんて嬉しい悲鳴が聞こえてきます。でも、なんだかんだ、新鮮なお魚料理はペロリといけちゃうんですよ。民宿なのでお酒も持ち込みOK。そして、お腹いっぱいになった翌朝、再びテーブルに朝食が並ぶと、朝っぱらから皆、笑顔になります。

内容は、“ザ・旅館の朝ごはん”。身のたっぷりと詰まった勝浦産のアジの開きや伊勢海老の出汁が効いた味噌汁。そしてちょっと甘めの厚焼き卵もお出汁が効いています。お米は千葉産のコシヒカリで、私はおかず1品につき1杯の飯を食べて、計4~5杯は軽くいけます。
「安くて旨い、そして居心地がいい」。
ちなみに、冬には旬の金目鯛をしゃぶしゃぶで味わう宿泊プランもあって、これも旨いんですよ。初めて訪れた人も、まるで田舎に帰ってきたような気分になる『くろえむ荘』。ぜひ遊びに行って欲しいと思います。
(撮影・文◎土原亜子)
●SHOP INFO
店名:金目鯛と漁師料理の宿 くろえむ荘
住:千葉県勝浦市松部1107
TEL:0470-73-1507
http://kuroemu.net/ryouri.html
●プロフィール
荒川治
東京都内在住のタクシー運転手。B級グルメ好きが高じて、現職に就き、お客さんを乗車させつつ、美味い店探しで車を回している。中年になってメタボ率300%だが、「死神に肩をたたかれても、美味いものを喰らって笑顔で死んでやる」が信条。写真検索で美味しそうなモノを選び、食べに行って気に入ればとことん通い倒す。でもじつは、自分で料理を作ることも好きで、かなりの腕と評判。