シュウマイの聖地、神奈川でシュウマイといえば、『崎陽軒』(の場合は表記は「シウマイ」ですが)。西の聖地、大阪なら、『551蓬莱』。
シュウマイの名店ひしめく東京において、『崎陽軒』や『551蓬莱』のようにテイクアウトができ、誰もが気軽にシュウマイを購入できる名店はいくつもありますが、1店舗のみの場合が大半で、多くても2~3店舗ぐらいの展開。駅近外などでチェーン展開している点心専門店のシュウマイもありますが、シュウマイを看板メニューにし、都内の主要各地で幅広く店舗展開しているのは、小洞天の他にはあまりありません。

具体的には、小洞天は都心部の主要百貨店を中心に7店舗のテイクアウト専門店を展開。加えて、東京の中央部・日本橋にある『小洞天日本橋本店』をはじめ、有楽町、大手町、日比谷エリアに飲食もできる5店舗があり、そのほぼすべてが駅から徒歩数分圏内に立地しています。
何より、小洞天は東京の中心である日本橋の地に創業して70年の歴史を持ち、今もシュウマイを看板メニューとして掲げています。その歴史とシュウマイに対する姿勢、そして東京のあらゆる場所で手に入れやすいという点を考慮し、東京を代表するシュウマイ店として、私は名前を挙げるのです。
もちろん、小洞店のシュウマイ自体の味が、東京を代表するクオリティーと個性を持っていることは、言うまでもありません。

看板メニューの「ポークシュウマイ」は、3センチほどの大ぶりサイズで、見ているだけでぎっしりと肉が詰まっていることがわかり、実際に箸で持つと、その重さを改めて感じます。その密度のためか、中身を見るために箸で割ろうとしても、なかなか割れない。そしてようやく割って口に入れると、納得のがっしりとしたかみごたえ。そしてひと噛みふた噛みと重ねていくと、じんわりと豚肉の旨みが広がっていきます。

肉の旨みと同時に感じられるのが、「甘さ」です。実はシュウマイという料理、「甘み」が他の料理にはない大きな特徴であることは、意外と気づかれていません。そして「ポークシュウマイ」は、他にも増して「甘み」が強い。高い密度が織り成す肉の旨みと、ショウガやネギの香りなどの風味が感じられつつも、食べ終わる頃に甘みがしっかりと残ります。しかもいつまでも口に残ることなく、程よい余韻を残しながらさらりと消える。絶妙な甘みのバランスこそ、小洞天の「ポークシュウマイ」の最大の特徴と言っても過言ではありません。

日本橋本店の総料理長をつとめる山中敏男さんに話を聞くと、創業から続く「ポークシュウマイ」は、甘みを意識的に強めに味付けているそう。他、腕とバラの2種の豚肉の配合、ショウガやネギの配分と、そのレシピは、創業から変わらず今に続いているそうです。
そして大ぶりのサイズ感、そしてみっちりとした食感もまた、創業当時から続く「ポークシュウマイ」の特徴。肉の密度はあえて強めに押し固めることで生まれると言います。
「甘み」「大ぶり」「食感」。この3拍子はまさに、本店が日本橋に創業した当時の、東京の街の「ごちそう」だったと、山中さんは言います。
戦後の復興と共に育まれた東京の味

「当時は第二次世界大戦中や戦後の時代。大空襲で焼け野原になった東京には、今のように外食店が多数あったわけではなく、みんなが“ごちそう”を求めていました。この店のシュウマイも、“ごちそう”と感じてもらうために、本場のシュウマイを日本風にアレンジし、大きく、かみごたえがあり、子供でもわかりやすい甘さを出したそうです」
「ごちそう」感の象徴といえるのが、今も定番メニューとして残る「シュウマイとごはん」(840円)。白ご飯とスープがつく、いわば「シュウマイ定食」ですが、他のシュウマイを名物にする店でも、このスタイルで提供する店は数えるほどしかありません。まさしく、この店にとってシュウマイそのものが「ごちそう」のメインディッシュだった証拠です。

その後、高度経済成長とともに、日本橋界隈はオフィス街として発達。ただそれでも飲食店が今ほど多かったわけではなく、小洞天の「ポークシュウマイ」は、近隣の会社勤めをする人々を中心に、日本橋を代表する「ごちそう」として愛され続けてきました。
「今でもたまに、昔を思い出してポークシュウマイを食べに来る、当時の常連さんもいらっしゃいます。そういう方々に『変わらないおいしさ』と喜んでもらえるのは嬉しいですね。でも味を変えない本当の理由は、味に自信があるから。今でもうちのシュウマイは美味しいと、自信を持って言えます」

実はもうひとつの「エビシュウマイ」も、歴史は20年と「ポークシュウマイ」に比べて若者? ですが、「ポークシュウマイ」に通じる「甘さ」「大ぶり」「食感」の3拍子が揃った、「ごちそう」感が溢れています。
大きさは、「ポークシュウマイ」よりもひとまわり大きめ。

そうしてできあがった「エビシュウマイ」は、食べた瞬間、エビの身のプリプリ感、すり身のしっとり感と、2種の異なる食感が口を楽しませてくれます。そして間髪入れず、2種のエビの異なる甘みと香りが、口のなかにふわっと広がります。3拍子の内容は「ポークシュウマイ」とは異なるものの、「エビシュウマイ」にしか出せない、贅沢な幸福感溢れる「ごちそう」なおいしさと言えます。
その作る手間と具材の贅沢さもあり、「エビシュウマイ」は一個あたり380円!(ちなみに「ポークシュウマイ」の倍以上!!)ただ、その希少さ、高価さをも納得させる味わいが、「エビシュウマイ」には間違いなくあります。テイクアウトもできますが、「ポークシュウマイ」とともに、蒸したてはまた格別。ぜひ店内で食べてみてください。
●SHOP INFO

店名:小洞天 日本橋本店
住:東京都中央区日本橋1-2-17
TEL:03-3272-1071
営:11:00~15:00(LO14:30)、17:00~22:00(LO21:00)土日祝は21:00(LO20:15)まで
休:年中無休(12月29日~1月3日を除く)
http://www.shodoten.com
●著者プロフィール
シュウマイ潤
本名種藤潤。教育大学卒業後、フリーランスのライター、エディター、ウェブプランナーとして活動を開始し、現在はオーガニックと食を中心とした幅広いジャンルで取材執筆を行う。