旅慣れた人は「旨いものが食いたければ、タクシードライバーに聞くのが一番」と言います。そこで、B級グルメに精通する現役運転手・荒川治さんにイチオシのお店を教えてもらいます。

 最近、タクシーの窓を開けると、キンモクセイのいい香りがしてきます。この匂いを嗅ぐと、なぜか食べたくなるのが「たい焼き」なんです。子どもの頃、秋になると、よく寄り道して、焼きたてのたい焼きを買い食いした記憶が蘇るからかもしれません。

 さて、今回ご案内したいお店は、私が大好きなたい焼きの『けんぞう』さんです。板橋区仲宿の商店街の脇道にある、店頭販売だけの小さなお店ですが、TVのグルメ番組で何度か紹介されている、板橋区住民にとっては自慢のお店の一つ。

旨い店はタクシー運転手に訊け! 粉のプロが作る日本一“分厚い”たい焼き専門店『けんぞう』

 その人気の理由は、たい焼きが美味しいのはもちろんなのですが、まずはルックス。正面から見ると、全長約15cmで普通のたい焼きと同じサイズなのですが、厚みがなんと5cm大! 一般的なたい焼きを2つ重ねたくらいの分厚さです。私も似た厚みのカラダをしているので、ものすごく親近感が湧きます(笑)

旨い店はタクシー運転手に訊け! 粉のプロが作る日本一“分厚い”たい焼き専門店『けんぞう』

 かじってみると、たい焼きの皮の部分は外がパリッと、中はふっくら、モチモチッとしていて、粉の旨みがしっかり味わえるタイプ。「たい焼きの皮は薄くてパリパリ系が好き」という人でも、ここのたい焼きを紹介すると「この皮は、かなり美味しいね!」という人がたくさんいるんです。

 ところで、たい焼きは「頭」から食べるタイプですか? 「尻尾」から行くタイプですか? そこは意見が分かれると思いますが、ここのたい焼きは頭にも尻尾にもあんこがギッシリ詰まっているので、どちらからでも大丈夫。なんといっても、尻尾まで5cmの厚みがありますから、あんこがたっぷり入る余裕があるんです。

旨い店はタクシー運転手に訊け! 粉のプロが作る日本一“分厚い”たい焼き専門店『けんぞう』
旨い店はタクシー運転手に訊け! 粉のプロが作る日本一“分厚い”たい焼き専門店『けんぞう』
旨い店はタクシー運転手に訊け! 粉のプロが作る日本一“分厚い”たい焼き専門店『けんぞう』

おデブたい焼きはどうしてこんなに皮が美味しい?

旨い店はタクシー運転手に訊け! 粉のプロが作る日本一“分厚い”たい焼き専門店『けんぞう』

 なぜ、ここのたい焼きは、こんなに皮が美味しいのか。

そのヒミツは、こちらのたい焼き職人のご主人・内藤実さんが、元・製粉会社にお勤めしていた“粉のプロ”だからなんです。店先でお客さんの対応を担当していた奥さまの寿美子さんによれば、

「主人は、いろいろな種類の小麦粉の特徴や美味しさを知り尽くしているので、粉の美味しさを地元の人にもっと知って欲しいと思って、定年退職後にたい焼き屋さんを始めたんです」とおっしゃっていました。

 もともと「粉の美味しさを伝える」ために作られたのが『けんぞう』のたい焼きなので、数種類の粉をブレンドする調合から焼き方まで、ご主人のこだわりが詰まっているんです。

 ところで、こんなに分厚いたい焼きをどうやって焼いてるか興味があって、ご主人が焼いているところをじっと見させていただくと、なんと1回(30個分)焼くのに35分もかかることがわかったんです。ご主人によると、通常のたい焼きは10分程度だと言いますから、その3倍以上の時間をかけてじっくり焼いていくんです。

旨い店はタクシー運転手に訊け! 粉のプロが作る日本一“分厚い”たい焼き専門店『けんぞう』

 見ていると、とっても楽しいので、少しご紹介します。

 まずは、たい焼きの鋳型の片面一列に一つひとつ生地をたっぷり流し込みます。あふれそうなくらいです。次に、そこに1つ1つあんを入れていきます。頭から尻尾までしっかりあんが入っているのよくわかります。

旨い店はタクシー運転手に訊け! 粉のプロが作る日本一“分厚い”たい焼き専門店『けんぞう』

 ぷくぷくと皮がふくれてきて、生地の色が黄色に変わったら、鋳型同士を合わせます。鋳型を合わせるまでにもかなり時間を要します。

旨い店はタクシー運転手に訊け! 粉のプロが作る日本一“分厚い”たい焼き専門店『けんぞう』

 鋳型を合わせると、こんがりきつね色のたい焼きが誕生しました。これで出来上がり? と思ったら、まだまだあるんです。おデブなたい焼きだけに、

「ぶ厚いからね、たい焼きの上と下にもしっかり火を通さなくちゃいけないんだよ。つまり“四面焼き”」とご主人。

旨い店はタクシー運転手に訊け! 粉のプロが作る日本一“分厚い”たい焼き専門店『けんぞう』

 この上と下を焼く状態は、「たい焼きが立って整列している姿」のよう。一般のたい焼きやさんでは絶対見られない光景です。

旨い店はタクシー運転手に訊け! 粉のプロが作る日本一“分厚い”たい焼き専門店『けんぞう』

 最後は、上の面を焼くので、たい焼きくんたちは、逆立ちします。

 というわけで、こんな美味しくて、面白いたい焼きやさんは他にはなかなかないと思います。ご主人も奥様もとても優しくて、たい焼きを買いに行くたびに癒されます。ぜひ、日本一ぶ厚い『けんぞう』さんのたい焼きを食べに行ってみて下さい。

(撮影・文◎土原亜子)

●SHOP INFO

旨い店はタクシー運転手に訊け! 粉のプロが作る日本一“分厚い”たい焼き専門店『けんぞう』

店名:けんぞう たい焼き

住:東京都板橋区仲宿60-3-5
TEL:03-3964-2873
営:9:30~20:00頃
休:不定休

●プロフィール

荒川治さん

東京都内在住のタクシー運転手。B級グルメ好きが高じて、現職に就き、お客さんを乗車させつつ、美味い店探しで車を回している。

中年になってメタボ率300%だが、「死神に肩をたたかれても、美味いものを喰らって笑顔で死んでやる」が信条。写真検索で美味しそうなモノを選び、食べに行って気に入ればとことん通い倒す。でもじつは、自分で料理を作ることも好きで、かなりの腕と評判。

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