時にコミカルに、時にシリアスに。八面六臂の芝居で観る者を惹きつけてやまない遠藤憲一さん。
「この顔がコワモテな役を連想させるのかもしれませんが僕自身が普段、落ち着きがない男なので無理して重厚な雰囲気を出しています(笑)。訓練で居住まいを重々しくすることができるようになりましたけど、この作品でも苦労しました。矢能は受け身ながらも、そこにいるだけで絵になるような男なので」
そう話しつつ始終笑顔を絶やさない。現場では必ず笑顔で挨拶するそうで、矢能のバディである7歳の黒木栞役を演じた白鳥玉季さんがすぐになついたのもうなずける。

「撮影期間中は、ずーっと僕にくっついて歩いていてかわいかったですよ。一方で、彼女は芝居に対してかなりストイック。撮影当時は栞と同年齢でしたけど、きうちかずひろ監督の言葉を『はい、はい』と真摯に聞いて、監督の理想に近づけていくんです。だから僕は矢能にとって栞が、女房みたいな存在だと捉えて演じることができました。矢能はタガが外れる性質を持っていて、そこを鋭く見抜いて栞が手の平で転がすので。しゃぶしゃぶを作って帰りを待つ姿なんて女房そのもの。
ところで、7歳当時の遠藤さんはどんな子供でしたか? と聞いてみると。
「小学2年生から電車通学をしていたんです。たまプラーザから戸越公園まで。やんちゃな子供だったと思いますよ。学校が終わったら馴染みの駄菓子屋にカバンを預けて紙芝居を見に行ったり、卓球をして遊んで、まっすぐ家に帰った日がありませんでしたから。ヤクルトスワローズのファンクラブに入ったのも小学生の時。本当は巨人が好きだったけど安かったから入って(笑)、野球観戦をして夜10時半頃家に帰る日もありました。親も放任してくれていたんです。僕がやりたいと言ったことを止められたことがありません。役者をやると伝えた時も、目標を持ったと喜んでくれました」
幼少期の下地が、独特のキャラクターを生み出したといえるだろう。本作の共演者も個性派俳優ぞろいだ。
「今回は監督の意向で、台本のセリフを一言一句変更禁止だったんです。

遠藤憲一/1961年6月28日生まれ。東京都出身。1983年、NHKドラマ『壬生の恋歌』でデビュー。風貌からシリアスな役のイメージが強いが、コミカルなキャラなども自由に演じてみせる個性派俳優。「アウト&アウト」では探偵・矢能政男役を主演。
下積み時代を支えた食と驚きの庶民派な食生活とは!?

遠藤さんの活躍は本作での主演のみならず、ドラマやバラエティ、CMと多岐にわたる。だが、20代の頃は下積み時代を経験している。
「21~29歳まで、風呂なし共同便所の四畳半の安アパートに住んでいました。24~25歳から役者一本で食べられるようにはなりましたけど、ギャラは8万円ぐらい。家賃が3万5千円だったから、ギリギリの生活でした。25歳の頃に出会った今の女房を、アパートに呼んで手料理をふるまったこともあるんです。小さな炊飯器でご飯を炊いている間に、もやしを炒めて卵を絡めるだけのメニューなんですけど。食べさせたら『美味しい!』と喜んでくれるのがすごくうれしかった。でも結婚後、『実はすっごくまずかった!』と言われまして(笑)。土臭かったって。その時に言ってくれたらよかったのに、あとで言われて愕然としました(笑)」
事務所社長でありマネージャーである奥様は、遠藤さんにとって「もっとも大切な存在」だという。その奥様からのお達しで映画で演じた矢能同様“足を洗った”ものがあるそうだ。
「はしゃぎすぎて女房にコテンパンに叱られて、今年1月9日から酒をやめました。以来、ノンアルコールビール以外は1滴も口にしていません。
断酒して以降、食の好みにも変化があったという。
「甘いものが好きになったんです。今は毎晩、寝る前にアイスクリームを1個食べています。一番好きなのはその場で作ってくれるソフトクリームなんですけど、店が空いていない時間に食べるからコンビニで買っています。好きな味は、バニラといちご。コンビニ、毎日通っています(笑)。体質が変わったらしく、大嫌いだったあんこも好きになったんです。もなかの皮もあんこも嫌いだったのに、差し入れを試しに食べたら『コレうまいじゃん!』とハマりました。さっき控え室でも饅頭を2個、食べちゃいました(笑)」
コーヒーも甘党だ。
「ウォーキングの後、喫茶店で読書をしながらコーヒーを飲むのが息抜きなんです。ホットでもアイスでも、ミルクと砂糖かガムシロップを入れないと飲めませんが。コーヒー2杯で1時間半ほどすごします」
では、日頃の食生活を聞いてみると。
「大戸屋ならしょうが焼き定食、やよい軒なら和風ハンバーグ定食かホッケ定食かしょうが焼き定食。この2軒での食事は、僕にとってごちそうです(笑)。温かい蕎麦も好きで、食べるなら立ち食い蕎麦屋。天ぷらをのせたり、コロッケの時はうどんにします。初めて1人で外食をしたのが立ち食い蕎麦屋で、美味しくてクセになったんです。朝食は、コンビニの温める蕎麦かおにぎりで十分満足です」
意外と(?)庶民派! だが“最期の晩餐”に関しては違うのでは?
「すんごい旨い味噌ラーメンと炒飯が食べたい(笑)。美味しい味噌ラーメン屋さんは少ないから、探すのが難しそうですけどね」
何と、最期まで庶民派だった!
最後に、主演作について聞いた。
「矢能と岩井拳士朗君が演じた池上数馬、鶴丸清彦が逃げずに、真っ向勝負をしているところが僕は好きなんです。奇をてらうシーンはないし、アクションもそれほど多くはありません。
(取材・文◎内埜さくら)
●DATA

「アウト&アウト」
劇場:11月16日(金)よりTOHOシネマズ 新宿ほか全国ロードショー
(C)木内一裕/講談社 (C)2017「アウト&アウト」製作委員会
【キャスト】
遠藤憲一
岩井拳士朗 白鳥玉季 小宮有紗
中西 学 酒井伸泰 安藤一人 渡部龍平 渋川清彦 成瀬正孝 阿部進之介
竹中直人 高畑淳子 要 潤
【スタッフ】
監督:きうちかずひろ
原作:木内一裕「アウト&アウト」(講談社文庫刊)
脚本:ハセベバクシンオー きうちかずひろ
企画:加藤和夫 プロデューサー:菅谷英智 キャスティングプロデューサー:福岡康裕
(映画公式サイト)http://out-and-out.jp/
(映画公式Twitter)https://twitter.com/out_n_out_movie