この世には何となく「セコい」行動をする人がいます。
例えば職場で後輩が買ってきた出張土産。
ところで、先日、テレビを観ていたら「丸亀製麺に130円の天丼がある」ということを知りました。なんでも「天丼用ごはん」(130円)だけを注文し、自由にトッピングできる天かすと青ネギを載っけて、さらに天つゆをかけて“天かす天丼”にして食べるんだそうです。まさに「セコさ」を感じる行動です。が、非常に魅力的でした。なぜならその映像が、ものすごく美味しそうに見えたからです。
そこで近所にある『丸亀製麺』に、それだけを食べに行こうと決心したのです。

果たして「セコさ」を貫けるのか?
しかし「セコい」行動と自覚していることを、いい大人がいざ実行するとなると、非常に苦しいものです。見栄を張るほうがずっとラク。例えば「ぶっかけ」にトッピングの天ぷら各種を好きなだけ載せて豪華にするのは簡単です。
しかし「天丼用ごはん」(130円)だけを注文し、何もトッピングせずに会計することは想像するだに恥ずかしく、勇気のいることだと思いませんか。
まず店員さんとのファーストコンタクト。
そこで、せめて一番お客さんがいなさそうな時間、平日17時に訪店しました。

ところが、さすが『丸亀製麺』。幸か不幸か、そんなアイドルタイムでも盛況でした。最初の注文からトッピング、会計までの一連のレーンは行列ができています。
そして最初の関門は、ベースのうどんを注文するおじさん店員さんとの会話。そのおじさんは、俳優の遠藤憲一さんのようなコワモテ。黙々とお客さんをさばいていきます。
遠藤さんもどきの頭上を見上げるとメニューには、「うどんとご一緒に」というコピーと共に「天丼用ごはん130円」の文字をしっかり確認。小声で注文しました。
すると……

筆者:「天丼用のご飯をお願いします」
遠藤店員:「はい??」
聞こえないようです。
筆者:「あの、天丼用ごはんを……」
遠藤店員:「はい??」
聞こえないふりでしょうか。
筆者:「…じゃあ…」
遠藤店員:「ざるですね」
なんと、「じゃあ」と言ったはずなのに「ざる」と聞き間違えられてしまいました。
そう、無理なんです。そもそも「うどんとご一緒に」と定められたサイドメニューだけを注文するなんて、どんなにセコい人間でも、強行突破は難度が高い…。というわけで、やむなく「ざるうどん」をメインにオーダーし、「天丼用ごはん」をサイドメニューとして頼むという奇策に出ました。
すると、すぐさまその2つがやってきてトレーに載せられました。当然ながら、一面、真っ白です。

恥ずかしいので、そのまま一気にお会計に進みたいところですが、前の人が「かしわ天」「いか天」「えび天」「さつまいも天」など魅力的なトッピングメニューをトング片手に楽しそうに選んでいるので、追い抜くことができません。
筆者としては、いち早く無料トッピングの天かすコーナーに行きたいのですが、その場所は会計を終えた先。まるで万引き主婦のようにひたすら下を向き、会計の順番を待ちます。

真っ白なままのトレーなので、恥ずかしさのあまり、お会計のレジの人と目を合わさないようにして「計420円」を支払い、まっしぐらに無料の天かすコーナーへ向かいます。


人目もはばからず、オタマで思いっきり天かすをよそい、続いて同じく無料である青ネギもしこたま載せます。
そうして、そそくさと一番目立たない端っこのテーブルに着席。


“丸亀”の天かす天丼は立派だった!

さあ実食です。天かすはカリッカリ、青ネギはシャッキシャキ。この食感だけでも十分に楽しく、天ダレのほんのり甘くスッキリした味わいがよく合います。天かすをよく噛み締めていると、エビ天やイカゲソ天といった魚介系の味がうっすら染みており、これはもはや“具のないかき揚げ”なのではないかと思うほど。想像した味を裏切りません。
むしろ、仕方なく頼んでしまった「ざるうどん」はすっかりサイドメニューと化し、「天かす天丼」が一発逆転、メイン料理となったのです。
それだけではありません。私は発見してしまいました。
それはポットに入った天つゆ。何度も言いますが、これも無料。そこで、これを小さな茶碗に入れて「天かす天丼」にたっぷりかけてみます。この行為は全く恥ずかしくありません。

かつおダシの効いたおツユが、天かすと出会う。すると、どうなるかわかります? そうです。「たぬきそば」の天かすのように、ツユをたくさん吸ったぶよぶよ天かすに変化し、さらにこの味変は、まるで天丼茶漬けを食べているようで美味しいのです。

たった130円で、かき揚げ丼を彷彿させ、そのあと〆の天ぷら茶漬けも味わえるとは…。恐るべし、「天丼用ごはん」130円。
しかし、くれぐれも注意してください。セコさを貫くのは、見栄を張るよりはるかに辛い。
(取材・文◎土原亜子)