抹茶を飲むだけなのに、心得なき者に漠然とした敷居の高さを感じさせ、それゆえに敬遠されがちな「茶道」。
そんなイメージがあるなか、伝統を重んじつつも「茶の湯をもっと自由に! もっと愉しく!」というコンセプトで茶道教室「SHUHALLY(シュハリ)」を主宰する茶道家の松村宗亮さんが有機茶生どらの店『Dolala(どぅらら)』をオープンしました。
場所は人気のスイーツショップがひしめく自由が丘。和洋問わず、老舗店から有名パティシエの店、ショコラや焼き菓子専門店など、甘いもの好きにはたまらない都内屈指のスイーツ激戦区です。

茶道家の松村さんがなぜ生どら焼きのお店を始めようと思ったのかをお伺いしました。
茶道家がお店を始めようと思ったきっかけは?

松村さんが茶道教室を創設したのは2009年。それ以前から茶の湯に関わり、茶歴20年を数えるいま、歳を重ね、家族が増えたことでお茶だけでなく食への思いや意識が強くなってきたといいます。
「毎日飲むお茶だからこそ、身体にやさしくて安心なものを探していたところ、京都・宇治で長きにわたって有機栽培に取り組むお茶の生産者と巡り合いました」(松村さん・以下同)

「抹茶をもっと気軽に飲めるお店を、という構想は数年前からありました。飲みものとしてはもちろん、本当に美味しいと思える有機茶と出会って、この素材をもっと活かしたいと考えたときに行き着いたのが有機茶をたっぷり使ったどら焼きでした」
レシピの監修には和菓子作家「紫をん」の坂本紫穂さんを迎え「昔から親しまれてきた“日本のおやつ”の可能性を追求しながら、小さな子どもも安心して食べられるように」と、小麦粉、卵、牛乳不使用に。

米粉、もち粉、有機茶、豆乳、国産はちみつなどを配合した生地は銅板で一枚ずつ丁寧に焼かれ、北海道産特別栽培小豆をてんさい糖で炊いた餡は、もちもちっとした生地とのバランスを熟考しながら小豆の食感をほどよく残し、絶妙な口当たりに仕上げた特注製。

そこに、軽く滑らかな有機豆乳クリームが加わって、ひとたび口に運べば生地と餡、クリームが三位一体となり、口の中で幸せの三重奏を奏でます。ほどよいサイズ感もあいまって、ついもうひとつと手が伸びるつくりたての美味しさです。

有機茶生どらと一緒に味わいたいドリンクメニュー

お店で提供する有機茶を使ったドリンクは抹茶、抹茶豆乳ラテ、ほうじ茶、ほうじ茶豆乳ラテの4種で、それぞれホットとアイスが選べます。

オーダーが入ると、オープンスタイルのキッチンカウンターでお茶を点てる様子がうかがえ、さながらお点前拝見といった雰囲気。茶道に馴染みのない人には新鮮に映ります。店内利用に限り、ホットは抹茶茶碗、アイスは陶製タンブラーでいただくことができます。
一方、テイクアウトはバガスというさとうきびの搾りかすからできた「WASARA」シリーズのカップで提供。和紙のような質感やスムーズな口当たりのフチなど、ワンウェイアイテムでありながらこだわりぬかれた紙コップを採用したのは、プラスチックを使わず、環境に配慮した紙素材のものでという考えから。

メニューだけでなく、茶碗、紙コップにいたるまでが心を尽くしたおもてなしのカタチなのです。
「茶室」を彷彿とさせる店舗デザインにも注目!
オーセンティックな茶会はもちろん、ときに斬新なアプローチの茶会や異業種クリエイターとのコラボ茶会など、国内ばかりでなく海外でも幅広く活躍する松村さん。空間にも茶人としてのこだわりと遊び心、そして美意識が随所に反映されています。

たとえば、入り口脇の小さなベンチは茶室に席入りする前の腰掛け待合のよう。店内には客人を迎える掛け軸があります。こちらの掛け軸、なんとアイアン製! 組み込まれた飾り台が宙に浮いているような、飛び出て見えるような仕掛けが実に楽しく、フォトジェニック。実物はぜひ、お店でご覧あれ。

かつて、千利休は茶会に使う道具のすべてを専門の職人にオーダーしたといいます。掛け軸はじめ、前述の陶器であったり、店内に流れる音楽、軒先の暖簾、茶缶デザインなどは、ご縁のあるクリエイターがそれぞれ担当しています。
お客さまをもてなし、同じひとときを共有するのが茶の湯の楽しみであるとするならば、茶室を基に構成された空間としつらえ、そしてお茶とお菓子がある『Dolala』は、現代の茶室であり、そこに訪れる人は気づかないうちに茶の湯体験をしている気分になるかも!?
有機茶生どらは、お持ち帰りにも贈りものにも
「焼きたてを食べていただくのが一番ですが、もちもち生地の生どらは冷めても美味しい」と松村さん。美味しいものは誰かにおすすめしたくなるし、誰かと共有したいと思うもの。

また、大切な方への手土産や贈答用にお誂えの風呂敷包みバージョンも。柄は全4種類あり、風呂敷製作はてぬぐい専門店「かまわぬ」によるもの。こちらは来年入荷予定とのこと。

敷居が高いと思われがちな茶道をカジュアルに、そしてときにはポップなアートに昇華させ、お茶の世界に親近感を抱かせる松村さんの創意工夫を具現化した『Dolala』。

「コーヒーもいいけれど、抹茶片手に街を歩く人がいてもいいんじゃないかなと思って」。茶道家がお店を始めた理由は、実はとってもシンプルでした。
●SHOP INFO

店名:Dolala(どぅらら)
住:東京都目黒区中根1-23-5
TEL:03-5726-9830
営:11:00~17:00(売り切れ次第、終了)
休:月・火
https://www.facebook.com/dolala.tokyo/
※10個以上の持ち帰りは事前に電話連絡を。待ち時間が短くなります
●著者プロフィール
笹森ゆうみ
ライター。太宰治の短篇『不審庵』を読んで茶道に興味を持ち、茶道に入門。一方で抹茶はお稽古やお茶会だけのものではないとの思いから、日常で抹茶を喫する時間を楽しむようになる。お酒の次に抹茶が好き。