「旅先で旨いものが食べたければ、タクシードライバーに聞くのが一番」と言います。そこでB級グルメに精通する現役運転手・荒川治さんにイチオシのお店へ案内してもらいました。
「美人は三日で飽きる」という言葉があります。ラーメンもちょっと似たところがあるのかなと思います。行列ができる店、ラーメンアワードを受賞した店などのラーメンは、もちろん美味しいと思います。ですが、食べるこちら側もなんとなく力が入ってしまい、「行くぞ!」と決意しないとなかなか足が向きません。
ところが、地味で目立たないけれど美味しいと思うラーメン屋さんにはしょっちゅう行きます。基準は味が穏やかで、心が休まるそんな店。私は、そういう店のリストをいくつか持っていて、運転の合間の休憩時間によく利用します。
今回ご紹介するのは、まさにそんなお店です。トラック運転手やタクシー運転手といったドライバーたちに長年愛され続けている東京・板橋区高島平の『江戸前味噌ラーメン』です。
私がここの「味噌ラーメン」を好きな理由は、まさに味噌汁のように体にスーっとしみ込んでいくような懐かしい味だからです。なんだか、ほっとするんですよね。
味噌と豚の旨味の融合があっぱれ!
『江戸前味噌ラーメン』の基本メニューは「江戸前味噌ラーメン」と「北海道味噌ラーメン」の2種類です。

味噌漬け炙りチャーシューは、注文が入ってから炙り始めます。これが、丼に入るのと入らないとでは味が全然違ってくるといっても過言ではありません。

お店の料理人・辺偉 誠さんに声をかけてみると、
「うちの炙りチャーシューは、香味野菜と一緒に寸胴で茹でた後に、味噌を周りに塗って冷蔵庫で2~3日寝かし、注文が入ってからじっくり3~4分かけて炙るんです。こうすることで余分な脂が落ちて、豚と味噌の旨味成分をぎゅっと濃縮できるんです」と教えてくれました。

スープの出汁は、鶏ガラ、ゲンコツ、野菜などでベースを作り、江戸前味噌で作ったカエシと合わせて白濁したスープになります。そこにモヤシ、アサリ、フライにしたネギ、大きな海苔2枚をトッピング。最後に分厚い炙り味噌チャーチュー3枚を載せて丼を覆い尽くします。

スープはやや甘めの味噌で、まろやかな口当たり。そこにアサリの魚介系と動物系の旨みが層を形成し、複雑な味を作っているんです。
さらに、食べ進むとわかるのですが、この炙りチャーシューは、やがてスープの中で崩れて味が溶け込み、刻々とスープの味わいを変えていくのです。味噌と豚の旨みがどんどん濃厚になり、最後の1滴までその味が変化していきます。そして完食後も、味噌の余韻で心身がポカポカしてくるんです。まさに味噌の奥深さを熟知したラーメンだと思います。

辺偉さんによれば、『江戸前味噌ラーメン』の母体は『蔵出し味噌 麺場 田所商店』で、全国・海外に味噌ラーメン店を108店舗も出している会社だそうです。しかも、自社工場で味噌を作り、全国各地に伝承されるご当地味噌を各店舗のそれぞれ主力のラーメンにしているそうです。
ここ高島平店は、12年前にオープンしたときから「江戸前味噌」が売り。一般的な味噌ラーメンよりも甘味やまろやかさがあり、地元の人やドライバーたちの口コミで広がっていったのです。10年以上ラーメン屋を続けるというのはとても大変なこと。客としても、こういうお店をこそ大切にしたいと思わされます。
ちなみに、「北海道味噌ラーメン」のほうが好きな仲間の一人は、「北海道ラーメン」(720円)に「肉ネギ」(150円)を載せて食べるのがイチオシだそう。私も試してみたら、ネギと唐辛子の辛味がスパイシーで、こちらも美味しかったです。

江戸前味噌と北海道味噌、どちらが好みか、試してみるのも楽しいと思います。ぜひ、『江戸前味噌ラーメン』でほっこりしてきてください。
(撮影・文◎土原亜子)
●SHOP INFO

店名:江戸前味噌ラーメン
住:東京都板橋区高島平7-14-16 滝ノ上コーポ 1F
TEL:03-5383-6688
営:11:00~23:00
休:無休
●プロフィール
荒川治
東京都内在住のタクシー運転手。B級グルメ好きが高じて、現職に就き、お客さんを乗車させつつ、美味い店探しで車を回している。中年になってメタボ率300%だが、「死神に肩をたたかれても、美味いものを喰らって笑顔で死んでやる」が信条。写真検索で美味しそうなモノを選び、食べに行って気に入ればとことん通い倒す。でもじつは、自分で料理を作ることも好きで、かなりの腕と評判。