地元の人間に旧くから親しまれ続けてきた街の大衆酒場。しかし、長引く不況や後継者不足など、さまざまな要因で、時代の流れとともに暖簾を下ろす店も少なくないようです。
そんな中、東京には一度は幕を閉じながらも、常連客の熱い想いと店主たちの強い意思から、見事に復活を遂げた名物酒場がいくつもあります。今回はそんなお店をご紹介します。
懐かしくて新しい、新生『はりや』の魅力

カウンターと小上がりのみの小体な店は、近隣の工場職員や住民から長く親しまれてきました。昭和6年、墨田区鐘ヶ淵に開店した『はりや』は親子二代にわたって営んできた老舗酒場でしたが、2016年12月、道路拡張のため取り壊しとなり閉店に。85年続いたあの面影は今はありません。

「ドラマティックなことはないんですよ。ただ、やめるのは勿体ないなって」と娘の荘司美幸さんが引き継ぎ、2018年1月に『はりや』は復活しました。場所は旧店舗裏にある自宅兼アパートをリノベーション。解体の時に残しておいたカウンターや古材、縄のれんなど、“歴史”を感じさせる素材を活用した店内には懐かしさと新しさが同居します。

壁に貼られた手ぬぐいに描かれている名物料理「ゲソ天」や「キャベツ炒め」などは先代から味を引き継ぎましたが、美幸さんは再開にあたって「煮卵サラダ」や「牛もつ旨辛炒め」など、新メニューも拡充。どれもが酒の進む肴ばかりで、しかも、安いとくるから毎夜酔客が集うのもうなづけます。

店内には、昔を知る常連に混じって若い女性一人客の姿もあり、言わば多世代交流の場のようです。
(文◎粂真美子 盛岡アトム 撮影◎原 務)
●SHOP INFO
店名:はりや
住:東京都墨田区墨田2-9-11
TEL:03-6657-5359
営:11:30~15:00(14:30LO)、17:30~23:30(フード23:00LO) ※土曜は夜のみ
休:日・祝
※当記事は『食楽』2019年秋号の記事を再構成したものです