「旅先で旨いものが食べたければ、タクシードライバーに聞くのが一番」と言います。そこでB級グルメに精通する現役運転手・荒川治さんにイチオシのお店へ案内してもらいます。
まだ冷える日が続く昨今ですが、今回はそんな寒い日でも食べたくなる絶品の“冷たいそば&らーめん”をご紹介したいと思います。それは、東京・新宿の都庁裏手、熊野神社前の十二杜通りにある『肉そば家 笑梟(ふくろう)』の「山形・冷たい肉そば」(720円)と「山形・冷たい肉中華」(720円)です。
山形名物の“冷たいラーメン”はご存知の人も多いかもしれませんが、それとはちょっと違います。ここのは、大正時代に生まれた山形県寒河江市・河北町の名物料理。地元では、夏も冬もこの「冷たい肉そば」や「冷たい肉中華」を食べるんですって。店主は、まさにその寒河江市出身の森岡宏之さんです。
オープンから10年経っているお店なのですが、実は私が知ったのはつい最近。平日の昼間、タクシーを走らせている時に、行列している様子を見かけたんです。何の店だろうと看板を見ると、「肉そば家」とあります。
タクシーを停めて、昼休憩がてら入店することに。すると、寒い中、並んでいた人たちのほとんどが、「冷たい肉そば」、もしくは「冷たい肉中華」を注文しています。そこで私もその寒河江市名物の「山形・冷たい肉そば」を初めて食べてみることにしました。
冷たい蕎麦と中華麺が美味しすぎる!

登場した丼の中のスープは透明に近く、トッピングは鶏肉とネギのみ。実にシンプルな1杯ですが、スープを一口飲むと、冷たいのに、鶏の旨味と甘みをしっかり感じます。
蕎麦はつるつるとなめらかで、口に吸い込む瞬間に蕎麦の爽やかな香りが立ち、しっかりとした歯ごたえ。そして鶏油がツルンと蕎麦に絡まっていて、う~ん旨い。トッピングの鶏肉は、コリコリッとした硬めの食感ですが、噛みしめるほど肉の脂の旨味が染み出してきます。何だこれ? ラーメンでも蕎麦でもない。脂っこくもないし、さっぱりしすぎているわけでもない。とにかく美味しすぎる。と、一気に完食。これが山形の冷たい肉そばというヤツか……と感激してしまいました。

さて、この連載を読んでいただいている人はおわかりかと思いますが、私は旨いと思った店は集中的に通う癖があり、以来、週2回ペースでお店に行くようになってしまいました。2回目に食べたのは、「山形・冷たい肉中華」(720円)です。

この「冷たい肉中華」は、「冷たい肉そば」とはスープもひと味違うんです。どちらもハイレベルな美味しさですが、ラーメン好きの私個人としては「冷たい肉中華」のほうに軍配を上げたい。まろやかさが立っているというか、醤油の甘さが柔らかいというか、さっぱりしているのに深いコクがあるんです。でもいわゆる“ラーメン”とも違う。ムムム、蕎麦とはスープが違うのかな? と疑問が湧き、店主の森岡さんに聞いてみることにしました。
「よく聞かれるんですが、冷たいスープはそばも中華も一緒なんですよ。麺が違うと、スープの味が違うように感じます。それも、うちの味の特徴なんです」と森岡さん。
ちなみに、スープは鶏をじっくり時間をかけて炊いて旨みを抽出し、さらに山形の醤油で甘味を出しているのだそう。

森岡さんは、地元のソウルフードである「山形・冷たい肉そば」を、多くの人に知ってもらいたいと、大学卒業後に上京し、新宿の都庁裏に店を開業。当時はあまり知られていなかった寒河江の「冷たい肉そば」が、この界隈で評判になり、今では、近隣の方だけではなく、噂を聞いた山形出身のファンもこぞって来店するそうです。
ところで、『笑梟』には、山形の冷たい系の麺だけでなく、温かい肉そば、肉中華やつけそば、つけ中華などもあるのですが、その中で、私が何度か通って見つけた、イチオシの一杯が、「山形・冷たい山椒肉中華」(並・800円)です。

こちらは、「冷たい肉中華」に自家製の山椒油を垂らしたタイプです。低温の油に山椒の実を加え、じっくりと香りを移した山椒油の風味が、鶏のスープをより繊細に仕上げています。また、トッピングに青紫蘇も加わっており、より清涼感を感じる味わい。まるで繊細な日本食をいただいている気分にすらなってきます。夏の暑い時期はもちろん、一年で一番、寒い今もぜひ食べておきたい1杯です。
(撮影・文◎土原亜子)
●SHOP INFO

店名:肉そば家 笑梟(フクロウ)
住:東京都新宿区西新宿4-14-2
TEL:03-3374-2938
営:平日11:30~15:00、18:00~23:00(土祝~22:00)
日11:30~15:00
休:不定休
http://fukurou29.com/
●プロフィール
荒川治
東京都内在住のタクシー運転手。B級グルメ好きが高じて、現職に就き、お客さんを乗車させつつ、美味い店探しで車を回している。