本年(2020年)6月1日、世田谷通り沿いのラーメン激戦エリア(※)に1軒の注目店がオープンしました。その店の名は『タナカロボ』。
事前に入手していた情報によれば、『タナカロボ』では、鯛煮干しから出汁(ダシ)を採った1杯が食べられるとのこと。イワシやアジ、サバの煮干しは、ラーメンスープの出汁の素材としてスタンダードなものですが、鯛の煮干しから出汁を採る店は、なかなかありません。
どんな味のラーメンなのか、非常に興味がある! というわけで、さっそく食べに行ってきました。

お店の場所は、東急世田谷線上町駅から歩いて10分程度。駅の改札を抜けて世田谷通りへと出ます。そして、世田谷通り沿いをまっすぐ進んでいくと、やがて、進行方向の左手に黒字で『タナカロボ』と書かれた黄色い丸看板が見えてきます。
非常に小さな看板なので、見落とさないように気を付けましょう(私も、一度全く気付かず通り過ぎてしまいました)。
余計な装飾をそぎ落としたシックな外観から、すでに作り手である店主のセンスの良さがビシビシと伝わってきます!
食べ手と作り手、両面を知るからこそ辿り着いた独創的な一杯!

店主を務めるのは、田中昌さん。ラーメン職人になる前は、筋金入りのラーメンマニアとして、ラーメン好きの界隈では有名だった方。同店は今、私のお目当てである「鯛煮干しの塩そば」のほか、「豚と鶏の醤油そば」「生姜塩の豚そば」、「焼豚麺(数量限定)」の計4種類の麺メニューを提供しています。
ただし、筆者の頭を一瞬よぎったのは、「『生姜塩の豚そば』も面白そうだな。生姜・塩と豚のコラボレーション。
待つこと数分。提供された「鯛煮干しの塩そば」は、丼が卓上に置かれた瞬間、鯛の芳香が丼からふわりと立ちのぼり、優しく鼻腔をくすぐります。
「このスープには、鯛煮干しを使っています。2昼夜(48時間)かけてじっくり味を染み出させ、鯛特有の芳醇な香りと上質な味わいを余すところなく引き出すよう心がけています」と店主。その理由を尋ねると「試作段階を繰り返して、乾物の持ち味である滋養味を損なわないように心がけたんです」とのこと。確かに、煮干しや昆布などの乾物については、炊き上げるよりも水出しをした方が、素材のうま味や持ち味をより一層引き出すことができます。

スープが口内へと飛び込んだ瞬間、まるで熱気球のように際限なく膨らむ鯛の風味。煮干しラーメンを食べ慣れているはずの私も、その風味の豊潤さに、驚きを禁じ得ませんでした!

その風味を支え、さらなる力を添える相棒は「岩塩」のみ。インパクトがあり味覚中枢のど真ん中を撃ち抜く「岩塩」を、塩ダレの代わりに採用した店主のセンスは「流石!」のひと言に尽きます。
その他、一般的にラーメンに必要な要素のひとつとされる「油」の代わりに「レモンとグレープフルーツの搾り汁」を香りづけとして活用。丼の中央部を、我が物顔で占拠する巨大な角煮(ソーキ)も、食べごたえ満点です。

出汁、タレ、トッピング。すべてが、同店のオリジナル。これまで数多くのラーメンと接してきた店主の経験が、丼の随所に効果的に活かされ、食べ始めから食べ終わりまで、ワクワクが止まりません。食後も、鯛の艶やかな風味が、心地良い余韻として舌の上に残ります。
『タナカロボ』が、世田谷エリアを代表する実力店のひとつとして認知される日が来るのも、そう遠い未来の話ではないのかもしれません。
●店主・田中昌氏はこんな人!


・前職はプロカメラマン。
・カメラマン時代は、仕事として料理等の撮影をメインにこなしつつ、全国各地のラーメンの食べ歩きやラーメンの自作を行っていた。
・ラーメン職人へと転身した理由は、50歳を過ぎて「第2の人生」を歩もうと考えたときに、自分にはラーメン職人の道しかないと思ったから。
・5000軒以上食べ歩いたラーメン店の中で、年に100回以上通い詰めたつつじヶ丘『柴崎亭』で1年3ヶ月間修業し、2020年6月1日、満を持して『タナカロボ』を開業。
・・・・・・・
(※)二郎インスパイア系ラーメンを提供する『らーめん陸』、油そばが人気の『麺屋かまし』など、複数の実力店が軒を連ねるエリアとして知られる。
●SHOP INFO

店名:タナカロボ
住:東京都世田谷区桜3-8-15
TEL:非公開
営:10:30~16:00
休:火曜
●著者プロフィール
田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。