チャーハンは“食感が命”と言います。一般的にパラパラ派やしっとり派、さらに両方を好むパラしっとり派などもいて、時折、論争が起きたりもします。
そんな中、新しい派閥にくみする人がいました。それは友人のH君。自分好みの炒飯に出会うと「ポクポクしている」という妙な表現をするのです。実は彼は、なかなかのチャーハン通でして、旨い店をよく知っているし、以前、『男のチャーハン道』という本も貸してくれました。先日、そのH君に「そのポクポクってどんな感じなの?」と聞いてみたのです。すると、しばらく考えて、「神楽坂の『龍朋』のチャーハンを食べたことがないなら、一度行ってみない?」と誘われたのです。

後日、待ち合わせて『龍朋』に行きました。ちょうどお昼過ぎ。店は気軽な町中華屋というよりも、ちゃんとした老舗中華屋さんといった雰囲気。すでにたくさんのお客さんがいました。入店一番、驚いたのは店内に響く音です。あっちでカチャカチャ、こっちでカチャカチャ。
食べる前から、その美味しい音にテンションが上がります。さっそく「チャーハン」2つを頼もうとすると、H君は「僕は何度も食べているから、今日は回鍋肉にするよ」と余裕の微笑み。とにもかくにも、いざ実食です。
絶品チャーハンの「ポクポク感」とは?

「チャーハン」が登場しました。それは一般的なチャーハンよりもやや濃い茶色で、しかもご飯粒が艶々しており、量は一般的なチャーハンに比べると1.2倍くらいはありそう。その山をレンゲですくうと、中から角切りのチャーシューがゴロゴロと出てきます。

ガバッとレンゲいっぱいすくって食べてみると、ふわりと香る醤油と、得も言われぬ甘み。明らかにこれまで食べていた塩系のチャーハンとは違う味です。ご飯の粒感もしっかりとしていて、一粒ひと粒に油が見事にコーティングされていますが、くどさは全くありません。
そうそう、肝心な食感を確かめねばと、もう一口。ご飯粒同士の間に適度な空気感があるので、ふっくらとして、噛むとご飯粒のしっかりした弾力、こっくりした旨みが押し寄せてきます。

回鍋肉を食べていたH君が、「どう?」と言う顔をして見ています。「確かにパラパラ、しっとりともちょっと違って、ポクポクが一番近いかも」と答えると、嬉しそうにしています。
チャーハンを食べているみなさんが、美味しさのあまりご飯1粒も残すまいと豪快な音を立てているのがよくわかりました。また、供されるスープも、一見、味噌汁のように濃い色をしていますが、旨味の濃い中華スープです。これがまたチャーハンをやわらかく包みこむよう。圧巻のチャーハンです。

私も八角皿の上の米粒全てを食べ尽くし、すっかり「ポクポク派」になっていました。店を出て、「ポクポクの意味がわかった気がする」とH君を称賛。「ところで、回鍋肉はどうだった?」と聞くと、「キャベツはシャッキリしていて、豚肉はプルルンとして、甘みとコクがあって、噛むとポクポクして酢をかけるとまた美味しくなった」とのこと。
え、またポクポク? この人、ひょっとして美味しい食感の表現は全部ポクポクなんじゃないか、との疑念が……。
(撮影・文◎土原亜子)
●SHOP INFO

店名:龍朋
住:東京都新宿区矢来町123
TEL:03-3267-6917
営:11:00~22:00
休:日・祝