ある夜、友人のSくんと食事の約束をしていました。さてどこで何を食べるかな? と考えていたところ、「メキシコ料理店の人と知り合ったので行きませんか?」とSくん。

JR烏丸口から繁華街を歩くこと3分。飲み屋がひしめく通りのビル3階に『ドンブランコ』はありました。扉を開けると、Sくんが知り合ったマッシュルームカットの女性スタッフ・渕上さんがお出迎え。素敵な店の雰囲気もさることながら、ここで「チレスエンノガダ」という衝撃的な料理と出会ったのです。
メキシコの伝統料理「チレスエンノガダ」って何?

奥の席に着き、「何かおすすめのお料理ってあります?」と尋ねると、「この時期しか食べられない特別なお料理があるんですよ」と渕上さん。それが、“ポプラノ”という辛くない唐辛子に挽肉を詰め、ソースをかけた「チレスエンノガダ」(スペイン語でクルミの木)という料理でした。
メキシコでは、スペインの植民地支配から独立宣言を行った9月16日を「独立記念日」としていて、お祝いムードのなか、家族でこの郷土料理を食べるんだそう。記念日の時期にはメキシコ中のレストランにも並ぶ、まさに国民的な伝統料理。でも、日本で食べられる店はほとんど見当たらないのだとか……。これは、期待値が上がらざるを得ません!

ビールが大好きな筆者は料理を待っている間、食前酒としてコロナとフローズンマルガリータのカクテル「コロガリータ」を注文。コロナビールのボトルを引き上げ、マルガリータに少しずつ混ぜながらメキシカンな一杯を堪能していると、いよいよ「チレスエンノガダ」が運ばれてきました。

白いソースにトッピングされたザクロの実とパクチーがアクセントになっていて、クリスマスのテーブルに並べたいようなビジュアル! これまでメキシカンに対して抱いてきたワイルドなイメージが、いい意味で覆された瞬間でした。
クルミのソースが絶品&食感が楽しい!

口に入れると、まずソースの濃厚な味わいが広がります。ミルクとチーズのコク、ふわっと漂うクルミの香りが印象的。「お皿を片付けようとすると、まだソースが残っているから、ちょっと待って! と皆さんおっしゃるんですよ」(渕上さん)。わかります! 最後のひとすくいまで味わい尽くしたいほどの美味しさですから。

日本ではポプラノ(唐辛子)が手に入らないので、こちらではピーマンで代用しているそうです。ソースを除けば、まるでピーマンの肉詰め! これに衣をつけて揚げ、クルミのソースがかかっています。

中身は「ピカディージョ」といって、挽肉、果物、クラッシュアーモンドを炒めたもの。リンゴやモモ、干しブドウが入っているので、ほんのり甘みを感じます。シナモンやクローブなど、スパイスも数種類入っているのがわかりますが、辛くはありません。複雑だけど優しくて、懐かしさすら感じさせる味わい。こんな料理があったなんて…至福の味をすっかり堪能しました。
メキシカンクラフトビールとの相性も抜群

料理を堪能しながら「NEGRA MODELO」(ネグラモデロ)というすっきりめの黒ビールをいただきました。
ちなみにこちらのお店は、テキーラの名店で、常時100種類以上の銘柄があります。ぜひ、テキーラのカクテルや飲み比べも楽しんでみるといいですよ。

見た目よし、味よし、香りよしの「チレスエンノガダ」に五感が満たされ、幸福感に包まれたひととき。まさか、こんなお料理に出逢えるなんて、ほんの数時間前まで想像もしていませんでした。このお料理が食べられるのは、ザクロが市場に出る時期だけ。10月末までの季節限定メニューなので、ぜひ味わいに訪れてみてください。
(撮影・文◎雨宮あかり)
●SHOP INFO

店名:メキシコ料理 ドンブランコ
住:東京都港区新橋3-18-7 桃山ビル3階
TEL:03-5401-2466
営:11:30~15:30、17:00~23:30(L.O.30分前)
休:年末年始