旅先で美味しいものを食べたければ「タクシードライバーに聞くのが一番」と言います。そして実際、運もありますが、かなり高確率で正解だったりします。
先日、友人と栃木県・日光鬼怒川に小旅行したときもまさにそうでした。午前中に日光東照宮を拝観し、鬼怒川温泉に向かうべくタクシーに乗車。運転手さんは、70代くらいと思しき栃木訛りの強い男性。福々しい表情で、いかにも美味しいものを知っていそうな雰囲気です。
そこで、すぐに「鬼怒川方面でご飯を食べたいんですが、運転手さんのおすすめのお店ありますか?」と聞いてみたわけです。すると、「鬼怒川沿いに、『船場亭』っていう川魚を食べさせる店はホント美味しいです。簗漁(やなりょう)で捕れた新鮮なあゆを塩焼きにしていて、その定食がウマいんですよ」と教えてくれたのです。
場所を聞けば、そこから約15km、車で約20分の距離だといいます。さっそく案内してもらうことにしました。道中、そのお店について伺うと、運転手さんのおすすめは、やっぱり「あゆの塩焼き定食」だそうで、「塩焼きが2本ついて確か1300円だった」と言うのです。漁れたて、焼きたてのあゆの塩焼きが、そんなお手頃価格で食べられるなんて!

というわけで『船場亭』に到着しました。降りる寸前、タクシー運転手さんがちょっと気になることを言いました。
「そういえば、料理が出てくるまでちょっと時間がかかりますよ。ここは注文が入ってから焼き場の人がじっくりじっくり焼くから。しかも今日は休日でお客も多そうだから、けっこう待たされるかもしれませんね」と。
焼き上がりまで1時間待ちでも損ナシ! 絶品あゆの塩焼き

『船場亭』は理想的な佇まい、立地でした。風情ある藁葺き屋根。目の前に広がる鬼怒川の清流。見上げれば広い空。のんびりとした田舎の風景が広がり、日光東照宮に負けず劣らずのパワースポットのような印象です。

店の外では職人さんが魚に串を打っていて、窓から覗くと焼き場が見えます。中の職人さんは、魚に塩を振ったり、1本1本の焼き具合を見ています。その魚たちはまるで元気に泳ぐような姿で波うちながら串に刺さっていて、こんがり焼き目も見えます。見るからに美味しそうじゃありませんか!

さっそく、店の中に入ろうとしたときです。
そうなんです。タクシーの運転手さんの言葉通り、ここは注文を受けてから魚を炭火でじっくり焼くので、ものすごく時間がかかるのです。日光東照宮を歩き回ったこともあり、おなかはペコペコ。正直1時間待ちはかなりキツいですが、さっき見たあの美味しそうなアユを食べずに帰るなんてできるわけがありません。
というわけで「あゆの塩焼き定食」(1300円)と「いわなの塩焼き定食」(1700円)を注文し、1時間、庭を散歩してみたり、本を読んだりして待ち続けます。そうして、満を持して登場したのがこちら!

美味しそう! 思わず声が出てしまいます。間近で見るあゆやいわなの塩焼きは、ふっくらしていて、皮はパリッパリ。ピンと尻尾も跳ね上がっていて、見るからに新鮮そうです。あゆは “香魚”というだけあって独特の青っぽい香りが漂います。

串の両端を持ってかじってみると、パリッと皮を破った中の身はふわっふわ。あゆの濃厚な旨み、そして粗塩の甘味が相まって、バランスが最高です。
お米も釜炊きなのか、粒立ちがよくてめちゃくちゃ理想的な炊き具合。あゆ、いわなをおかずにご飯もどんどん進みます。頭だけ残して中骨も内臓も尻尾もあっという間に全部完食です。ちなみに、定食の味噌汁もものすごく美味しいです。

周囲のお客さんたちを見回してみると、やはり塩焼きを頼んでいる方が多いのですが、それに加えてあゆのフライを食べている人も多く、それもかなり美味しそうでした。
というわけで、栃木のタクシーの運転手さんに聞いた『船場亭』は大正解でした! また近いうちに絶対食べに行こうと思います。
(撮影・文◎土原亜子)
●SHOP INFO

店名:船場亭
住:栃木県日光市大渡1057
TEL:0288-21-8933 (予約不可)
営:10:00~19:00
休:無休(※12月~3月は水曜休)