美女と野獣、イケメンとオタク女子など、いつの世にも“意外なカップル”というのが存在します。それはそれで微笑ましいのですが、食べ物において“意外な組み合わせ”というのは、人間なかなかすんなりとは認められません。
例えば、塩大福のように、甘いもの×しょっぱいものの相性の良さは認めるとしましょう。しかし、「しらすとバナナ」、あるいは「納豆とプリン」と言われたらどうでしょうか。これはAIの味覚センサーがはじき出した最強の組み合わせらしいのですが、多くの人は「いやいや、それはナイでしょ!」とツッコみたくなるんじゃないでしょうか。
そのほかにも梅干し×牛乳、ロースハム×バウムクーヘンなどなど、多数の組み合わせがあるのですが、味を想像しただけで、筆者は正直言って「ウェッ」となります。

AIが導き出した食材の組み合わせは「甘味、塩味、酸味、苦味、旨味」の5つの基本の味をもとに測定して考案されているそうです。とはいえ、食べ物は味そのものだけでなく、匂いや食感、ビジュアル、記憶などの色々な要素が重なって初めて美味しく感じるわけなので、「味だけで言われても、何だかなぁ」と思ってしまうわけです。
しかし、幼い頃から「食べず嫌いはいけません」としつけられてきた日本人の一人としては、食べもせずに美味しくないと決めつけるわけにはいきません。そこで今回は、AI味覚センサーの勧める食材の組み合わせに実際に挑戦し、本当に美味しいのか検証してみることにします。
味覚センサーAI推奨の組み合わせは意外に美味しい!?

さて、今回、試してみるのは以下の6つの組み合わせ。
1.しらす×バナナ
2.納豆×プリン
3.梅干し×牛乳
4.ロースハム×バウムクーヘン
5.冷やし中華×マーマレード
6.卵×アーモンドチョコ
前述の通り、これらの組み合わせは、いずれもAIが「甘味、塩味、酸味、苦味、旨味」の5つの味をもとに“人が美味しく感じる最強の組み合わせ”として考案したもの。2つの食材を同時に食べ始めた瞬間ではなく、2つの食材が口の中で調和した時の味わいで評価していきます。というわけで、さっそく食べてみましょう。
第1打席:「しらす×バナナ」は美味しいの?

バナナといえば牛乳、しらすといえばご飯。これまで筆者はそう考えて生きてきましたが、まさかのバナナのしらすがけ。
しかし、カットしたバナナとしらすを一緒に口に入れると、しらすの匂いはまったく気になりません。そして噛むこと数回。バナナがしらすとねっとり絡まり一体化していくと…突然、まろやかな旨みが広がっていきます! バナナのねっとりした甘味としらすのほのかな塩味・旨味。この相乗効果により、旨さを強く感じるのです。
……これ、悪くないかも。いや、悪くないどころか、かなり合うんでは? 初打席でいきなりセンター前にクリーンヒットを放ったような感じ。では続いて納豆×プリンに挑戦です。
第2打席:「納豆×プリン」は大丈夫か?

続いて納豆×プリンです。納豆は白ご飯、プリンはカラメルとかフルーツ、というのが鉄則。なのに、納豆×プリンなんて、非常識にも程があります。そしてやっぱり気になるのが納豆の匂いとネバネバ食感と独特の味わい。
そんなふうに少し憤りつつ、納豆1パックにプリンを大さじ1杯ほど入れて、かき混ぜてみます。

箸で3回クルクル混ぜると、みるみる白く泡立ちました。まるで100回近くかき混ぜた時と同じくらいの泡立ち感にビックリ。そしてひと口食べてみると、さらなる驚きが。納豆よりもプリンの味・香りが強いんです。あの個性の塊のような納豆を、大さじ1程度のプリンが簡単に包み込んでいます。
さらにかき混ぜて、両者をよく調和させた後、納豆のタレをかけて食べてみると、ムムム…これまたイイ! 納豆に卵黄を混ぜたようなクリーミーさ。そして、塩味とほのかな甘みで、まろやかな旨味がぐんと際立つ感じです。食べやすくなるので、納豆が苦手な人にもオススメかもしれません。今度はフェンス直撃のスリーベースヒットといった会心の手応えです。AI、やるじゃないか!
第3打席:「梅×ミルク」はいかに?

続いて「梅干し×牛乳」です。お茶に梅干しを入れることはあっても、牛乳に入れたことはありません。
まずはタネを取った梅干し1個に牛乳を100ccほど入れて、ミキサーでガガーッと一気にシェイク!

出来上がった「梅ミルクシェイク」はほんのり桜色。ここで躊躇したら負けです。一気にグビグビと勢いよく飲んでみると、思わず顔がしぼむほどの酸っぱさ。「酸っぺ~!」。どうやら梅干しを入れすぎたようです。そこで牛乳を100ccほど足して再びシェイク。
すると、梅の酸味がおとなしくなって、程よい酸味と塩味のまろやかな味になりました。そして、舌の感覚を研ぎ澄まして味わってみると、これが不思議とチーズのような風味なのです。納豆×プリンほどの衝撃はないものの、これはこれでなかなかイケます。野球で例えるのも疲れてきましたが、あえて言うなら渋めの内野安打といった感じでしょうか。

このままでも筆者は十分飲めますが、ここに蜂蜜を入れると、よりカドが取れてさらに美味しくなりました。
AIの組み合わせは本当に「ハズレなし」だったのか?

これまでの「バナナしらす」、「納豆プリン」、「梅ミルクシェイク」は、いずれもけっこう普通に美味しいことが判明し、AIの推す最強の食べ合わせにすっかり信頼を置きかけていたのですが、ここで思わぬ落とし穴が待っていました。それは、ロースハム×バウムクーヘンの組み合わせ。
第4打席:「ロースハム×バウムクーヘン」は死球

生ハム×メロンの例をまたず、ハムとフルーツの意外な相性の良さはご存知の通り。これは、ハムの塩味を果物の甘味が和らげ、なおかつ相乗効果で旨味がアップするからだそうです。ならば「ハムとバウムクーヘン」も同じ効果があるんだろうと安心し、ハムでバウムクーヘンをサッと巻いて食べてみたところ…。

結果から言えば、これはかなり苦手な味でした。口の中で何度も咀嚼しても、ハムとバウムクーヘンの味が調和しない。次第に、ハムもバウムもマズいと感じ始めてきて、無理やり飲み込みましたが、これは2度と食べたくありません。三振どころかデッドボールを食らった気分です。
考えるに、バウムクーヘンは果物と違って水分がほぼなく、なおかつ自然な甘味ではありません。これまでの納豆や梅干しなどとは違い、バターや小麦粉も入って作りが複雑な分、ハムと調和しにくいんだろうな、という印象です。もう少し高級なハムやバウムを使ったら美味しかったのかもしれませんが、そういうのはルールとしてどうかと思うので、ここは潔く「マズいぞAI、ふざけんな」と言っておきたいと思います。
ここで少し気づいたのは、組み合わせの良し悪しは、5つの味だけでなく、水分量や食感も影響してくるということ。
第5打席:冷やし中華のマーマレードがけはウマい!

暑くなってきて、冷やし中華をコンビニで買う機会が増えました。この冷やし中華を美味しく食べるのに、AIが導き出した答えは、意外にもマーマレード。マーマレードといえば、パンやケーキはもちろん、スペアリブや鶏・豚肉のソテー、はたまたサラダのドレッシングなど、料理の調味料としても活用できます。そんなイメージもあったので、これはきっと合うに違いないと確信めいたものがありました。
というわけでさっそく、オレンジのマーマレードを冷やし中華のタレに溶かし、これを麺に回しかけて食べてみました。

想像通り、冷やし中華の甘酸っぱいタレにオレンジマーマレードはピッタリです。フルーティな甘味、酸味、オレンジピールの苦味が加わって、いつもの冷やし中華がランクアップしたかのようで、思わず“追いマーマレード”してしまいました。これは打った瞬間にわかるバックスクリーン直撃の特大ホームランと言っていいでしょう。
第6打席:卵×アーモンドチョコの組み合わせは?

最後は、卵とアーモンドチョコ。どうやって食べるの? と少し迷いましたが、厚焼き卵を作る途中に、アーモンドチョコを砕いて入れてみることにしました。

で、アーモンドチョコ入りの厚焼き卵が出来上がりました。卵の香りと甘~い匂いが漂います。
卵焼きの中でチョコレートが溶けて、時折アーモンドがカリカリッと食感にアクセントを出してくれるこの感じは、まさしくクレープです。合わないはずがなく、まさに美味しいスイーツの味わい。生クリームが欲しいくらいです。これは走者一掃のツーベースヒットといった感じでしょうか。

というわけで、AIが導き出した最強の食べ合わせ、6種類を試してみました。感想としては、意外な組み合わせではあるものの、おおむね美味しいことが判明。決め手は、甘み・旨み×塩味・酸味のバランスです。
ただし、「ロースハム×バウムクーヘン」の失敗でよくわかったのは、2つの食材のどちらかの水分がないと厳しいということ。食材の持つ水分と、それが生み出すとろみや粘りといった食感が、2つの食材の味を口の中で調和させてくれるからです。
というわけで、今回の検証をヒントに、AIに頼らず今後は自分でも既成概念にとらわれることなく、“意外な組み合わせ”をどんどん考えてみようと思った次第です。
(撮影・文◎土原亜子)