浅草橋駅から歩いて数分、左衛門通りから一本折れた路地に店を構える『西口やきとん』。界隈ではレジェンド的な立ち飲み酒場として知られており、店の口開けとともに、焼き台を囲むL字カウンターは人垣を作り、奥のテーブル席も酒飲みたちの熱気を漂わせる。一部の立ち飲み席には、まだアクリルボードが設置されつつも、その賑わい、活気は、徐々にですがかつての『西口やきとん』の姿を取り戻しつつあります。
※吉田マッスグとは……普段は本誌『食楽』の副編集長。酒場のカリスマ・吉田類氏が名付け親となり、酒場をめぐる時にだけ「吉田マッスグ」を名乗る。ここでは、その吉田マッスグが大衆酒場をテーマに、酒にまつわる物語を紹介していきます。

そんな『西口やきとん』の人気の秘密といえば、安い、旨い、そして酒を飲む気にさせる雰囲気、この3点につきると言っていいでしょう。
炭火で焼き上げる焼きとんは、1本120円。レバー、カシラ、ナンコツ、ガツ、タンといった部位が揃っていますが、どれを頼んだって間違いない旨さ。たとえば、豚の小腸にあたるシロ。鮮度がよくなければ、臭みが際立つ部位ながら、ここのシロは臭みとは無縁。絡めるタレの濃度で素材の味をごまかしている店もありますが、タレはキリッと辛口で、素材の味がしっかりと分かります。つまり、鮮度だけでない、素材に施す下処理がいかに丁寧かを物語っています。それだけで「焼きとん」酒場としての実力がわかるというものです。