“からあげ”というと、鶏のからあげ(トリカラ)を思い浮かべる人がほとんどでしょう。鶏肉以外、例えば牛肉や豚肉のからあげはお目にかかる機会があまりなく、すぐに思いつかないのでは?
しかし豚肉の場合はトンカツがあるくらいなので、からあげにしても絶対美味しいはず。

JR荻窪駅北口から徒歩15分ほどで目指す『ことぶき食堂』に到着。1956年創業の老舗食堂です。こちらの名物「ブタカラ定食」(1000円)は多くのメディアにも取り上げられ、ファンも多数の超人気メニューなのです。

店主の白石徳子さんによると、筆者が訪れたその日は「ほとんどブタカラしか出ていないんです」とのこと。ブタカラ、どんだけ人気なんだ! ランチタイムを外した時間帯に訪問したのですが、それでもほとんどの席が埋まっている状態で、みなさんブタカラを夢中になって食べています。当然、筆者もブタカラ定食を、味変用の自家製タルタルソース(50円)とともにオーダーしました。
思わずご飯で追いかけてしまう美味しさのブタカラ

このブタカラ、豚肩ロース肉に片栗粉をまぶしてラードで揚げたものに、醤油や酢、ニンニク、ショウガなどで味付けしたタレをからめているそうです。待っている間に、肉を揚げる心地の良い音がBGMのように聞こえてきます。そして漂うラードのいい香り。これがまた、どことなく懐かしさを感じる良い香りなのです。
待つこと数分で登場したブタカラ定食、まずはその量に度肝を抜かれそうになります! 200gほどあるそうで、一瞬完食できるか不安になってしまうほどにてんこ盛り。ブタカラと一緒に千切りキャベツが添えられています。しかし添えられている、というよりも波打ち際のキャベツの防波堤に、海から現れたブタカラ軍団が押し寄せているような印象。これはこのキャベツも味が染みて絶対ウマいに違いない!

さっそくひと口いってみます。サクッとした歯ざわりの衣。その先に待っている肉の旨みと柔らかさが相まって“サクトロ”食感とでも表現したくなる噛みごたえです。味はといえば、ラードのコクのある風味が口いっぱいに広がったかと思うと、それが砂漠にまいた水のごとく舌に吸い込まれていきます。旨っ!

あまりの美味しさに、無意識に肉を飲み込んでしまっていた筆者。反射的にご飯で追いかけます。ご飯が進む、というより白米のアシストが必須の味。舌が吸収しきれなかったブタカラの味を、ご飯が見事に集めて胃袋に送り出してくれます。ブタカラ⇒ご飯⇒ブタカラ⇒ご飯…という無限ループが止まりません!

ちなみに、ブタカラにタルタルソースをつけると、こってり感がやや和らぎ、ほんのり甘みも出てきます。
かつお節と煮干しの旨みたっぷりの味噌汁も絶品!

そして筆者がもうひとつ驚いたのは味噌汁の旨さ。定食に付いてくる味噌汁が美味しいと、思わずテンションが上がりますよね。「かつおなど数種類のけずり節でダシをとっています」との店主・白石さんの言葉通り、ダシの旨み・風味が実に爽やかで滋味深い味わいの一杯。こってりしたブタカラとギャップがあり、これまた相性バツグン。ブタカラ⇒ご飯⇒ブタカラ⇒味噌汁…という流れもまた妙なり!

なんのかんの言って、あっという間に平らげてしまいました。まだいけるな…と思いつつ壁のメニューに目をやると「肉特盛 +400円で出来ます!」の文字。ええ~~~! そんなのあったなんて、先に言ってよ~~! と心のなかで雄叫びを上げるも時すでに遅し。そう、よく見ていなかった筆者が悪いんです。
一般に、豚肉や牛肉は鶏肉に比べて水分が少ないため、からあげには向いていないのだ、などとまことしやかに語られたりしますが、イヤイヤ、こんな美味しい豚肉のからあげが食べられるじゃありませんか。まさに国宝級の美味しさでした。
(取材・文◎松本壮平)
●SHOP INFO

店名:ことぶき食堂
住:東京都杉並区桃井1-13-16
TEL:03-3390-0545
営:11:30~15:00(14:30LO)
休:水・日