今回は、2022年9月16日にオープンした『麺ふじさき』をご紹介します。
同店のロケーションは、JR総武線・亀戸駅の改札から徒歩10分弱。
さて、『麺ふじさき』を切り盛りする店主の名は、藤崎みづき氏。同氏は、茨城県ひたちなか市の出身ですが、ラーメン職人としては、船橋を中心に複数の店舗を展開する『まるはグループ』や、東海神のビッグネームである『とものもと』など、千葉を代表する錚々たる実力店で修業を重ねた腕利きとして知られる存在。
そのようなバックボーンもあって、同店は、オープンする前から、ラーメンマニアを中心に「注目店」として完全にマークされ、9月16日に開業してからも、営業時間中は常時、店の前に行列が連なる状態に。
私が『麺ふじさき』を訪れたのは9月25日のこと。オープンから10日足らずの間に同店の存在、より正確には、亀戸に旨いラーメンを出す店が誕生したことが広く知れ渡ったのか、ラーメンマニアに加え、亀戸天満宮の観光帰りと思しきご夫婦、家族客といった人たちも行列に混ざるようになっていました。

聞けば、藤崎店主がこの地に店舗を構えた理由は、「亀戸天神をはじめ、亀戸の雰囲気が好きだから」とのこと。なので、観光客が『麺ふじさき』を支持し、亀戸天満宮を参拝してその空気感をそのまま店内へと運んできてくれることは、店主にとって、何にも代えがたい励みになるのではないかと思います。
大通り(蔵前橋通り)に面しているとはいえ、マンションのやや奥まったところに入口を構える同店。アクセスを試みる際、到着直前まで店舗が視認できないので、初めて来訪される方は、少々戸惑うかもしれません。エントランスを覆うように掲げられた大きな暖簾も、まばゆいほどの「白」を基調とした清潔感のあるもので、素直に好感が持てました。

待つこと30分程度。入店するとすぐ目の前に券売機が鎮座し、お客さんを待ち受けます。現在(2022年10月1日現在)、同店が提供するのは、「醤油らぁめん」と、そのバリエーションである「チャーシュー醤油らぁめん」のみ。ただし、「塩らぁめん」「つけめん」「ワンタン」の文字が銘打たれたボタンも設置されており、これらは開発され次第、追って提供する予定とのこと。
藤崎店主に「塩」や「つけ」の開発状況を尋ねると、以下の答えが返ってきました。「今は、『塩らぁめん』の試作を進めているところです。塩分濃度やうま味の構成など、様々な要素を熟慮しながら試行錯誤を繰り返している最中です。ラーメンづくりにとって重要なのは、つくりたい味のイメージを自分の中で明確にすること。食べた人に舌鼓を打ってもらえるよう、しっかり腰を据えて開発に取り組んでいます」
真摯な姿勢で紡がれ提供される、「塩らぁめん」や「つけめん」。まだ、この世に誕生していないこれらが商品化される日が、待ち遠しくて仕方ありません。
さて、そういうわけで、現時点で食べ手が選択可能な麺メニュー「醤油らぁめん」をオーダー。私が訪問したその日は、厨房でのラーメンの創作・提供からホール仕事に至るまで、すべての作業を藤崎店主がワンオペでこなしていました。
なので、行列に接続してから店を後にするまで少し時間がかかりましたが、ラーメンづくりにかかわる店主の手際は鮮やかのひと言で、席に着いてからラーメンが供されるまでの体感時間は、あっと言う間でした。
ラーメン官僚を圧倒した「醤油らぁめん」の実力とは?

「醤油らぁめん」のビジュアルを両眼が捉えた瞬間、実食経験豊かな者であれば、たちどころに類稀なほど完成度が高いと確信できるはず。それくらい新店離れした優美な顔立ちです。中でも、特に美しいのはスープの色合い。スープの中に引き込まれるのではないか――と錯覚しそうなほど艶やかな褐色で、思わず魅了されてしまいました。

丼を眺めている内に、「純度100%」とでも言うべき鶏の芳香が、鼻腔を心地良くくすぐり、やがて体を包み込み始めます。口にする前から、期待感はMAXにまで上昇。寸分の無駄もない、芸術作品のように華麗かつ荘厳な1杯。手を付けるのがもったいない!
スープをひと口すすれば、味蕾から口いっぱいに同心円状に拡がる、複数の鶏種のうま味とコク。鶏の上質な風味を大樹の幹のように支える、醤油のフローラルな香りも、食べ手を桃源郷のごとき境地へと誘います。「淡麗醤油ラーメン」の到達点のひとつと言われる、鶏と水だけでスープを紡いだ1杯。
そのスタイルを究め尽くしたスープの味わいは、この店がオープンしたばかりの新店であることを忘れてしまいそうになるほど円熟味を帯びています。

「水は、逆浸透膜によって水分子以外の不純物を徹底的にろ過した『RO水』、鶏は、『名古屋コーチン』、『黒さつま鶏黒王』、『奥久慈シャモ』を採用しました。
との藤崎店主の言葉通り、スープが舌に触れるたびに、圧を伴いながらグイグイ迫る地鶏の羽音と、口腔内で勢い良く渦を巻くカエシの風味。終盤まで右肩上がりに増幅し続けるスープのうま味から、店主の本気がまざまざと垣間見えました。

このスープに合わせるのは、自家製麺。「少々手間は掛かりますが、自分でスープから麺に至るまでのすべてをつくりたかったので、自家製麺を採用することにしました」(藤崎店主)。
麺肌滑らかで、麺本来のコシが十二分に体感できる切り刃20番のストレート麺は、すすり上げると、麦の香が茫洋と立ち上がり宙を舞う逸品。神奈川県で一世を風靡している“神奈川淡麗系”のように、しなやかさを前面へと押し出している点も特筆に値します。
スープの引きの強さと麺のすすり心地の良さ。味そのもののクオリティの高さに、これらの要素がさらにオンされ、ほんの5分足らずで完食してしまいました。食べ終えた後、藤崎店主に今後の抱負を尋ねたところ、こんな回答が返ってきました。
「私のラーメンはいまだ完成途上です。すでにお店で提供している『醤油らぁめん』についても、カエシに用いる醤油の種類から麺に至るまで、まだ考慮すべき要素を完全に把握・理解し腑に落ちた上で作れているとは言えません。なので、今後さらにラーメンづくりの工程を解析し、お客さんに幸福感を抱いてもらえるよう、味に磨きをかけていきたいと思います」。
「実るほど頭が下がる稲穂かな」。藤崎氏ほど、この言葉が当てはまる方もなかなかいらっしゃらないでしょう。「塩らぁめん」や「つけめん」が提供された暁には、万難を排して、食べに伺いたいと思います。
藤崎みづき店主のプロフィール

・茨城県ひたちなか市の出身。『まるはグループ』、『とものもと』など、千葉県内の名店での修業を経て、今般、一国一城の主に。
・修業先である『とものもと』の市原店主のことを、ラーメンの味はもちろん、ラーメン職人としての心構えに至るまで、様々なことをご教授いただいた「師」と仰いでいる。
・自らが目指す味(目標)をしっかりと見据えた上で、その味の実現に向けたビジョンを具体的に描きながらラーメンをつくることを当面の課題として掲げる。その凄まじいまでに真摯な姿勢から、東京ラーメンシーンを支える有力な若手職人のひとりとして、ラーメン好きから大きな期待が寄せられているところ。
●SHOP INFO

店名:麺ふじさき
住:東京都江東区亀戸2-8-11 アドリーム亀戸1F
TEL:非公開
営:11:00~15:00
休:火曜、水曜
●著者プロフィール
田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。