NCAAのリクルーティングを
利用してアメリカの大学に進学できる!
そのための方法や必要な要素を紹介

テニスキッズを育てる親にとって、子どもの進路は大きな関心の一つだろう。日本からはなかなか情報が入りにくいものの、テニスの実績を使ってアメリカの大学に入学する道もある。
今回はカナダにあるミッションエリートパフォーマンスが行ったワークショップの内容を元に、NCAAリクルーティングによって大学に進学するプロセスを紹介する。

【画像】ブランドン・ナカシマのNCAAでの様子

“NCAA”とはどんな組織なのかおさらい

NCAA(全米大学スポーツ協会、National Collegiate Athletic Associationの略)は、その名の通り、大学間の連絡や管理、試合の運営などを行う組織だ。アメリカではNCAAが運営するスポーツの人気が非常に高く、NCAAの試合を観戦するためのチケットも販売されている。

NCAAの発足は1906年にさかのぼる。当時のアメリカンフットボールではケガ人や死傷者が多く出ており、1904年のシーズンだけでも18人が死亡。また、大学に在籍せずに雇われた選手が大学生アスリートよりも多く試合に出場するなど考慮すべき事態が起こっていた。このような状況を改善すべく発足したのがNCAAである。現在はアメリカンフットボールのほか、テニスやバスケットボールなどスポーツチームを擁する多くの大学がこのNCAAに所属し、規定に基づいて運営されている。

NCAAに所属している大学は非常に多いため、ディビジョン1から3までにカテゴライズされる。ディビジョン1に属する大学は生徒数や予算が多く、奨学金も多く用意できるのが特徴だ。ディビジョン1には350の大学が所属し、約19万人の大学生アスリートが活躍している。

アイビーリーグと呼ばれるアメリカの名門大学8校もこの中に含まれており、学業とスポーツの両方において素晴らしい環境が得られるため生徒からの人気が高い。
とはいえディビジョン3にもMIT(マサチューセッツ工科大学)などの有名校が所属しており、テニスだけでなく学業も得意な学生があえてディビジョン3の大学に進学し、テニスと学業の両方で活躍したいと考える場合もある。

NCAAを通して大学に入学するには
直接コーチとのやりとりからスタート

通常は大学に直接願書を提出することで入学へのプロセスが開始するが、NCAAのリクルーティングを利用して大学に入る場合は、直接コーチとのやりとりから始まる。そのため、コーチとのコネクションや学校に関する知識を持ったエージェントとともに進めることが多い。このプロセスは、アメリカのGrade10、つまり15歳くらいから始めることが推奨されている。なぜ最終年度のGrade12でないかというと、早く始めたほうが多くのコーチと会うことができ、自分に合った学校はどこなのかを見極める時間が十分にとれるからだ。

以下、リクルーティングプロセスにおいて、重要な点を6つ紹介する。

〈できるだけ多くの大学とコンタクトを取って話す〉
大学によって契約内容に大きな違いがあり、多くの大学を見ることで自分が本当にほしい契約を理解することができるのが一つの理由だ。もう一つの理由は、さまざまな大学のコーチと会う中で、いい選手はコーチ間で話題となり、獲得されやすいなどのメリットがあるためだ。

〈希望の大学だけに絞らない〉
ハーバード大学やスタンフォード大学など、有名総合大学はスポーツも盛んで、テニスでもディビジョン1であるため人気が高い。多くの選手が憧れるのも当然である。とはいえ、リクルーティングプロセスにおいては多くの大学からオファーを得るようにしたい。なぜなら、希望の大学から「ほかにオファーが出ている大学は?」と聞かれる場合があるからだ。
自分が多くの大学から来てほしいと思われることは、希望する大学に対して自分の魅力を表現する方法の一つだ。

〈自分を“商品”として考える〉
大きな大会だけでなく、小さな大会であってもどこで誰が見ているかわからない。数多くの選手が大学入学を目指す中、自分は“商品である”と考え、ほかの商品よりも優れた点を大学側にアピールすることは非常に大切である。そして、大学テニスはチームスポーツであるため、どれだけ強くても態度のよくない選手は好まれない、という点を覚えておきたい。テニスの成績だけでなく、総合的な人間性が求められていると言える。

〈SNSには気をつけよう〉
前述の“自分を商品として考える”という点にも通じるが、SNSでの投稿は十分に気をつけたい。近頃は、多くのコーチが気になる選手のSNSをチェックしている。テニスコートやコーチの前では非常に優れた選手であっても、日常は全くの別人だったりするのは問題だ。NCAAのリクルーティングによる大学進学を考えている場合は、過去のSNS投稿も一度チェックしてみることをおすすめする。

〈勉強はとても大切〉
NCAAのプロセスで大学入学を目指す場合であっても当然、勉強の成績は重要である。テニスも優秀、勉学も優秀であれば言うことはないが、テニスが優秀でも勉学が全く……という場合は希望の大学にいける確率が下がってしまう。逆に、アイビーリーグなど、どうしてもいきたい大学がある場合、勉強の成績が少し足りなくてもテニスが補完してくれる、というケースもある。
アメリカの大学入学を目指すのであれば、テニスと勉学のどちらも全力で取り組んでおきたい。当然、英語力も磨いておこう。

〈UTRは勝ち負けより試合数〉
UTR(世界標準のテニスレベル評価システム)の試合は比較的小さなクラブなどで開催されることも多く、アメリカでも選手があまり好まないケースもあるようだ。とはいえ、UTRでの実績は大学入学に大きな影響を及ぼす。UTRの場合は勝ち負けよりも、試合の数が重視される傾向がある。それは、その選手がいかに競争すること自体が好きかを見るためだ。どんな大会であっても機会があれば出場するようにしたい。

NCAAで活躍するために必要な10の要素

ミッションエリートパフォーマンスが示したNCAAで活躍するために必要な要素を紹介する。これらはつまり、大学のリクルーティングプロセスにおいても重要視されると考えることができる。

(1)競争心
大学テニスでは、チームとして多くの試合を戦うことになる。その間、常に競争心を持って戦い抜くことが必要になるため、競争心の強さは大学テニスで活躍するために最も大切な要素となる。

(2)タフな心
チームとして重要な試合に勝ち切るためにも、タフな心は非常に重要となる。
テニスプレーヤーのメンタルはこのところ非常に注目され、過剰なストレスやプレッシャーが問題視されているが、その分タフな心の持ち主は非常に価値があるとされる。

(3)コーチしやすさ
英語で「coachable」と言われるコーチのしやすさは、当然コーチたちにとって大きな関心だ。どれだけ強いプレーヤーでもコーチの言うことを理解しない、実践しないという選手は好まれない傾向がある。また、「coachable」である選手は、実際にプレーの質も高いことが多いようだ。

(4)ハードワーカー
目標を持ち、そこに向かって努力できることは選手として重要な資質である。テニスの世界で生きていくのは困難の連続だが、その中でも継続的に努力し続けられる選手は、個人だけでなくチームを高みに導く存在となるだろう。

(5)勇気がある
大学テニスでは当然、強い選手が多くの試合に出場することになる。逆に、いつもベンチを温める選手や試合に出場できない選手も存在する。そんな中、チームとして重要なタイミングで突然試合に出場する機会を与えられたとき、その機会を最大限に生かすには多くの勇気がいるだろう。勇気を持って機会を生かし切ることができるかどうかも、コーチが見極めたい重要なポイントの一つだ。

(6)規律がある
チームとして活動する以上、規律は大切だ。アメリカでは大学生アスリートが事件を起こすことも少なからずある。
この場合は当然コーチにも責任が発生するため、規律を持った生徒でチームを構成したいと考えるのは当然と言えるだろう。

(7)才能がある
意外にも上位にランクインしていないのが才能だ。才能に恵まれているに越したことはないが、努力でカバーできる部分も大いにある。特にチームスポーツである大学テニスにおいては、1人の飛び抜けた才能よりも、チーム全体の力を上げてくれる選手が重宝される傾向がある。

(8)チャンスを逃さない
個人でエントリーする場合と異なり、毎回必ず試合に出場できるわけではないため、回ってきたチャンスは絶対につかむ、という心意気が大切だ。いつもベンチを温めていた選手が、たった1回のチャンスをモノにして大きな成果を挙げ、その後Lineup(試合にエントリーする6人から9人の選手)に毎回選ばれるようになった、というケースもある。

(9)成熟している
テニスはメンタルスポーツとも言われ、選手の成熟は直接、試合の結果に反映される。うまくいかない時にすぐ怒ったり、物に当たったりする選手はチームの雰囲気を壊すだけでなく、成績にも影響するため好まれない。たとえ負けても、次の試合のためにポジティブでいられることも、成熟の表れと言える。

(10)責任感がある
ここでは「Take ownership」を「責任感」と訳したが、もっと詳しく言うと「チームヘッドとしての責任を持つ」という意味に近い。企業においても同じことが言われており、たとえ社員であっても経営者としての視点を持つ、ということを意味する。

NCAAでの活躍も夢じゃない!

ディビジョン1から3まで数多くの大学が存在する。
テニスを愛し、日本で練習を積んできた選手が奨学金を得てアメリカの大学でプレーすることだって夢ではない。ただ、そのためには早いうちから目標を持って活動することが大切だ。英語の勉強も、然りである。

アメリカの若手注目株であるブランドン・ナカシマ(世界ランク79位)もヴァージニア大学に所属していた。大学2年時にはプロとしてのキャリアをスタート。大学に戻らないことを決意した彼は、コーチからも非常に温かいサポートを受け、大学テニスからプロへと移行した。長いキャリア形成や精神的なサポートという意味においても、プロを目指す選手が大学テニスを経験しておくことは大きなプラスとなるだろう。大学との契約によっては、在学中にプロを目指すことを決意したとしても、大学に在籍し続けられるケースもある。検討してみる価値は十分にあるだろう。

※ミッションエリートパフォーマンス(https://www.missionelitetennis.com/)では、テニス選手の大学入学をサポートしている。無料で開催されるワークショップは英語で行われるが、質問事項はZOOMのコメント欄に記載できるため、英語での会話に自信がない人にもおすすめだ。
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