ポリエステルに対する「あなたの誤解」を知れば
マルチフィラメントの魅惑に気付くはず!
「ストリングはポリエステルだけ」というわけじゃない。それどころかポリエステルは、ほんの20年ほど前から台頭してきた新参型で、それまでの長い間、シンセティックストリングといえば、「ナイロン製」であり、「モノフィラメント」「マルチフィラメント」が当たり前であった。
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ところが、ポリエステル系をプロが使い始めたことに加え、「切れにくい」→「耐久性が高い」と宣伝されたために、まるで「ストリングはポリエステル!」といった風潮さえ生まれている。
ポリエステルの伸縮性を十分に引き出すには、「強烈なインパクト」が必要であり、それが可能なのは、一般プレイヤーとはまるで違うスウィングパワーを持つプロや、学生や競技プレイヤーであり、スクール生やベテランプレイヤーには、ポリエステル本来のパフォーマンスを発揮させるのはむずかしい…というか、向いてはいない…と筆者は思っている。
誤解しないでいただきたい。決してポリエステル系ストリングがいけないわけではなく、「あなたにはナイロン製マルチフィラメントが向いていますよ!」というプレイヤーまで、何も考えずにポリエステルを使うケースが多くなっている。
ただ「マルチフィラメントってナニ? 使ったことないし…」というプレイヤーも少なくないだろう。それをコーチに相談しても、コーチが「マルチフィラメントを知らない」ということだって…。だからこそ、もっとラクに飛んでほしいと願うプレイヤーには、マルチフィラメントという「選択肢」があることを知ってもらいたいのだ。
そんな今、マルチフィラメントを得意とするブランド『トアルソン』から、「7年間」という驚くべき開発期間をかけて磨き抜いた「究極の王道マルチ」が発表され、大きな話題となっている。
マルチフィラメントに多種多様な知見を持つ
『TOALSON』の【バイオロジック】スピリッツ
トアルソンのマルチフィラメントストーリーは、1992年の【ザイアックス】から始まった。1998年には、細めのモノフィラメントである「ログファイバー」というマルチ芯でマルチを支え、マイルドなフィーリングにモノフィラメントの弾き出しの速さ(シャープさ)を組み合わせた名シリーズ【バイオロジック】を誕生させ、以降、このモノ&マルチの組み合わせは、トアルソンの「顔」となる。
さらにトアルソンは、ログファイバー自体にも「柔らかさ・弾力性」を与える『TNT(熱放射線照射)技術』を駆使するモデルを生み、ポリウレタン充填マルチフィラメントに2本のモノフィラメントを埋め込んだ【MUGEN】という派生シリーズも送り出して、モノ&マルチ融合に取り組んできた。それがトアルソンらしさであったし、多くのトアルソン愛好者の期待に応えてきたのだが、創業70周年を迎える2025年、【バイオロジック新機軸】とも言える【バイオロジック CR1296】(以降【CR1296】と表記)を打ち出し、あえて「マルチの王道」に挑んだ。
内部構造をすべてマルチフィラメントで構築する「フルマルチ(筆者造語)」は、すでに他ブランドにもいくつかあるため、トアルソンの【CR1296】は、明らかに後発である。
マルチフィラメントの真髄を追求し続け
7年の歳月を費やした、ある男の執念
筆者が知る限り、通常のストリング開発にかける期間は、長くても「2年」である。そこを「超異例の7年」もの歳月を費やした。【CR1296】に取り組んだのは、開発部課長の「轟将弘」氏だった。彼は次のように語る。
「この【CR1296】で目指したのは、これまでトアルソンのメインとしてきたモノ&マルチとはまったく違う、完全なフルマルチです。そこには同タイプの既存品よりも明らかに優秀でなければならないという大きなプレッシャーがありました。でもあえてそこに挑むことが、我々の進歩となると信じ続けました」

【バイオロジック CR1296】の開発に取り組んだきた開発部課長 の轟 将弘氏。ストリングの開発期間としては破格の7年間という歳月を費やし、ついに辿り着いたのが「究極の王道フルマルチ」だった
さらに、「その開発には7年間という、開発期間を要しました。マルチフィラメントストリングを基礎から検討し直し、メイン素材となる超極細フィラメントの種類や、ポリウレタン樹脂の種類について基礎研究して、それらをどのように構築・成型すれば、我々が考える理想に近付くかを、幅広い選択肢から選び抜いてきました。その結果として辿り着いたのが『捲縮糸:クリンプドマルチフィラメント』です。この糸ならば、我々が目指した『マイルドな打球感に十分な飛びパワーを与えることができる』と確信したわけです」。
ストリングの開発スパンでは「あり得ない年月」を、基礎研究・試作検討・完成度向上にかけた轟氏の執念の結実が【CR1296】というわけである。
狙った到達点は「ポリウレタン高含有」。
マルチなのにパワフルさを生む「1296本の捲縮糸」
ナイロン製ストリングでは一般的に「インパクトに手応え感があり、俊敏でシャープな弾き感と、飛び感覚ならばモノフィラメント」。「マイルドでソフトな打球感ならばマルチフィラメント」というのが常識だ。ただ、マルチフィラメントは、打球衝撃を小さくしてくれる分だけ、飛びパワーがスポイルされる。つまり「飛びパワー」と「マイルドさ」は対抗的要素となっていた。
トアルソンは長い間、その両立を目指して「モノ&マルチ」を磨き抜いてきたのだが、彼らが未来への目標として掲げたのは「飛びに劣るフルマルチに、モノにも劣らない飛びパワーを与える」ことだった。
言ってみれば「諦められていた常識を完全に覆す」こと。そりゃ7年もかかるわけだ。
研究の中に光を見出したのは「マルチフィラメントに含浸させるポリウレタンの量を増やすこと」だった。そのためにポリウレタンの種類や性質と、マルチフィラメント原糸の太さの組み合わせを徹底的に解析した。超極細フィラメントの太さがどのくらいにすれば、ポリウレタン樹脂がまんべんなく含浸する隙間を確保できるか? どのくらいの粘度のポリウレタン樹脂を選べば、超極細フィラメントの隙間を満たしてくれるのか?
そんな研究開発の日々、あるとき、轟氏の頭に浮かんだのが「超極細フィラメントが縮れていれば、ポリウレタン樹脂を含みやすくなるのでは?」という発想だった。


マルチフィラメントにおける反発パワーのロスを、限界まで小さくすることを成功させたのが「1296本の捲縮糸」。これを束ねてポリウレタン樹脂をたっぷり含ませ、テンションをかけて真っ直ぐに成型したことで、樹脂が隙間なく極細糸の間を満たして、高い反発係数を叩き出した
みっちり詰め込まれたポリウレタン樹脂のおかげで、成型されたストリングとしての伸縮性が高まり、反発係数が向上した……と。
んっ!? 反発係数って……ナニ?
モノユーザーでも満足できる「反発係数」を実現。
マイルドに「掴む」のに「飛び出しパワー」を感じる!
前述したとおり、ナイロン系では「シャープ・飛びならモノ」「マイルド・掴み感ならマルチ」という棲み分けができていたが、逆に言えば、両者間には大きな隔たりがあり、マルチフィラメントはマイルドで掴み感も高いけど、ボールとの衝突エネルギーを吸収するために、その分が飛びパワーとして返っていかない、という宿命を抱えていたのだ。
そんな宿命から解放へ向かわせるカギとなったのが「反発係数」という数値。インパクト前のボール速度に対して、インパクト後に飛び出していくボール速度がどのくらいか? というのが反発係数で、その数値が高いほど「インパクト前後で失われるパワーが少ない」。つまり効率よく反発してくれることを示す。

【CR1296】の最大の価値は、これまでのフルマルチでは実現できなかった反発係数値を叩き出し、「マイルドさ」「掴み感」「飛びパワー」のすべて満足できるレベルに仕上げられたところにある。これにより、ポリエステルユーザーはもとより、ナイロンモノフィラメントユーザーでも「これって、けっこう飛んでくれるじゃん!」という、試打コメントを得た。
轟氏によると、7年の開発期間のうち、じつは5年で「ストリングの成型」まで辿り着いていたという。
【CR1296】を本当に使ってもらいたいのは…
「活き活きテニスをしたい」と願うプレイヤー
インタビューに同席していただいた田中健司工場長は、「今回の【CR1296】は、トアルソンとしても大きな転機となると自負できる、完成度の高い製品です」と語る。
「開発段階では、これまでの【バイオロジック】得意のマルチ+ログファイバーも検討したんですよね?」という筆者の問いに、「いや、それではこれまでと同じになってしまいます。【CR1296】は未来への挑戦であり、あくまでフルマルチでいくと決めてました」と答えてくれた。だからこそ「7年間」も耐えられたのだと筆者は感じる。
さらに「この【CR1296】って、どんなプレイヤーに使ってもらいたいですか?」という問いに対して、轟氏は「幅広いプレイヤーに使ってもらいたい」と答えてくれた。そこには、「自分ではポリエステルが最適!」と思い込んでいるプレイヤーでも、じつは【CR1296】に満足感を感じる可能性も十分にある! というメッセージを感じ取った。
「硬い・厳しい・飛ばない」ポリエステルに対して、究極のマルチフィラメントである【CR1296】は「柔らかい・優しい・よく飛ぶ」という位置付けになる。強烈なパワーで叩き続けることができる競技プレイヤーが使うべきポリエステルとは対極的なストリングとして、活き活きと、楽しく長くテニスを楽しみたいプレイヤーには、ぜひ試してもらいたい【CR1296】である。あなたのテニスに、新しい道が開けるかもしれない。

TOALSON BIOLOGIC CR1296
●太さ:1.25mm
●材質:ナイロンマルチフィラメント、ポリウレタン
●カラー:ナチュラル
●品番:7212510N
●長さ:12.2m
●価格:4,180円(税込)
●原産国:日本
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文=松尾高司
1960年 生まれ。