超人気ブランドに、「ちょっとだけ似てる!?」ポークフェイス!
大手テニスメーカーは、半期に一度、独自に展示会を開くが、そこまで大きなマーケットを抱えていないメーカーを集めて合同展示会を開催するのが『テニック』という、いわゆるテニスの問屋さん。
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ある年のテニック展示会……、坊主頭でクリクリした目を持つ青年が、タオルがかかったハンガーの前に立っている。話してみると、もとは大手テニスメーカーに勤めていて、実家である大阪泉北忠岡町の『谷野政毛織』という創業75年の老舗織物メーカーを継ぐために戻り、新たな商品分野として、テニスに必須のタオルや、ブランケット(膝掛け)を手がける御曹司「谷野博紀氏」だった。
テニスプレイヤーたちが使うタオルは、テニスブランドのデカロゴが入ったものが多いが、その品質について深く求める人はほとんどいないだろう。谷野氏は、そこに「可能性がある!」と判断したのだが、言ったとおり、タオルはたいがいの人が「テニス用」をイメージして購入するため、彼は「ブランケット」に新たな市場を求めた。秋から冬のテニスシーズンに必要なのは「防寒用ブランケット」で、彼は持ち歩くのに便利な「軽量で暖かい」膝掛けを、その展示会に持ってきていた。

「目の付けどころが面白い!」と感じた筆者は、以降、彼を応援することになる。
数年前の展示会で、彼はニヤニヤしながら「これ、作っちゃいました」と見せてくれた。それは、デイパックにまでブームを巻き起こした「山の北側部分」を意味するブランドのパロディ……と思わせる【THE PORK FACE】。文字列の横から「ブタの顔」が覗いているタオルではないか!
筆者は真剣に「これ、大丈夫なの?」と訊いたが、谷野氏は軽く目をつぶりながら「問題ありません!」と言う。まぁ「シャレってことで」と、仲間内で遊んでいたようだが、どうにも人気が高まってしまい、彼が育ててきた【blan&co.】ブランドで、堂々と販売し始めてしまった。
「泉州タオル」って、ここが違う! だからテニスで高評価
そもそも『谷野政毛織』は「泉州タオル」で有名な大阪府堺よりももう少し南にある泉佐野地区に生まれた、タオルや毛布の老舗だ。品質の高さには定評があり、地元 忠岡町「ふるさと納税」の返礼品にも選ばれている。タオルというと「今治タオル」が全国的に有名に思えるが、誕生したのは『泉州タオル』のほうが古く、130年の歴史があり、「日本タオル産業発祥の地」とされている。
今治タオルと泉州タオルは、どちらも高品質なタオルとして評価されている。ただ両者には大きな違いがあり、それが「晒し(さらし)」の工程。

「晒し」とは、タオルを織るときに、綿糸に付着した油分や不純物を取り除いて、綿糸そもそもの色である「生成り色」を「白く」する工程のこと。今治タオルは先に晒しを行ない、白くなった糸を着色してから織る「前晒し製法」。対して泉州タオルは、タオルが織り上がった後に晒して、最終的に不純物を洗い流す「後晒し製法」で作られる。
泉州タオルでは、タオルを織る際、綿糸そのままでは糸切れしやすいため、強度を増して、滑りやすくして糸への負担を減らしている。それには糊や蝋(ロウ)で糸をコーティングすることが必要だが、「後晒し」することによって、仕上がったときに糊や蝋が残らず、タオルに「綿本来の吸水性」を与えることができる。一般的に「新品タオルは、使う前に一度、洗え!」と言われるが、泉州タオルは、新品そのままを使っても、十分な吸水性があり、安心感と清潔感がある。
一方の今治タオルの新品は、洗ってから使わなければならないが、フンワリとした高級感があって見栄えがよいため、贈答品などに使われることが多く、そこから有名になった。ただテニスにおけるタオルの実用性を考えるならば、「吸水性に優れた泉州タオル」はとても嬉しく、すっきり汗を拭ってくれる高い吸水性と、シャワー後の水滴を気持ちよく拭き取ってくれる心地よさがあり、仲の良い友人には、「ぜひ泉州タオルをっ!」と薦めたくなる。
スポーツの祭典 in PARIS で「気にいっちゃった!」色の組み合わせ
さて、ここで紹介する【THE PORK FACE】スポーツエディションだが、この色の組み合わせ……、どこかで見た覚えがないだろうか?
そう、昨年、パリで開催された「世界的スポーツの祭典」で、出場選手たちが使用していたタオルと同じ配色だ。じつは谷野氏が「あれカッコいい!」「欲しい!」と思ってネットを探したが、どうやって探しても発見できない。テニスのグランドスラム大会で使用されるタオルは、会場のお土産品としてスゴい人気があり、輸入ネット通販などからでも手に入れることはできるけれど、「スポーツの祭典で使われたもの」となると、出場者しか触れることができない激レアものだった。
「欲しいっ!」という衝動が強すぎたせいか、自分がタオル屋であることを忘れていた谷野氏。興奮が収まってみると、「そやっ、自分で作ったらええやん」ということで、憧れをそのまま実体化したのだという。
彼は、いろいろ拝借するのが得意である。だが、「自分が欲しいと思うものを実体化する」なんてことは、我々一般人には叶わぬこと。作ってみたら、この「どっかで見たことのあるタオル」が、テニスプレイヤーの間で大人気となった。とかく日本人は「他人と同じものを持つことで安心感を得る人種」と言われるが、レアなアイテムで、周りの仲間を笑顔にすることができ、しかも「肌触りが優しく」「おろしたてで抜群の吸水性がある」とくれば、そりゃもう大満足でしょ。
今回は、タオルのことも勉強させてもらったし、オモロい企画は「高品質なものでも可能だ」ということも教えてくれた、楽しいアイテムだった。
THE PORK FACE Sports Edition
◎ カラー チェリーピンク×アッシュグレー、アッシュグレー×チェリーピンク
◎ 素材 国内紡績 熟成綿 100%
バスタオル
◎ サイズ 約120×60cm
◎ 価格 3,960円(税込)
フェイスタオル
◎ サイズ 約80×34cm
◎ 価格 1,760円(税込)
ハンドタオル
◎ サイズ 約34×35cm
◎ 価格 1,100円(税込)
文=松尾高司
1960年 生まれ。『月刊テニスジャーナル』で 26年間、主にテニス道具の記事を担当。試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。「厚ラケ」「黄金スペック」の命名者でもある。テニスアイテムを評価し記事などを書く、おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー。