東京メトロ有楽町線の延伸事業が、いよいよ具体化に向けて動き出しました。
延伸線は有楽町線豊洲駅で分岐し、東西線東陽町駅を経て半蔵門線住吉駅にいたる約5.2キロ(駅間営業キロ。建設区間は約4.9キロ)の地下鉄道新線です。本コラムでは、延伸事業の概要とともに有楽町線の生い立ち、延伸線建設の意義などを考えたいと思います。
1974年に開業、1988年までに全線開通
最初に、メトロ有楽町線のプロフィール。路線は、和光市(埼玉県和光市)―新木場(江東区)間28.3キロです。和光市―小竹向原間は、同じメトロの副都心線と線路を共有します(小竹向原で副都心線を分岐)。
交通政策審議会の前身にあたる都市交通審議会(都交審)の路線番号では、小竹向原―新木場間が8号線、和光市―小竹向原間が13号線。現在は全線を8号線・有楽町線と称するようです。最初の開業は1974年10月の池袋―銀座一丁目間。1988年6月までに和光市―新木場間の全線で営業運転を開始しました。
東武東上、西武有楽町線と相直
有楽町線は東京の地下鉄らしく、多くの路線と接続。和光市で東武東上線、小竹向原で西武有楽町線(池袋線の分岐線)と相互直通運転、池袋でメトロ丸ノ内、副都心線、JR線、東武東上線、西武池袋線、東池袋で都電荒川線(東京さくらトラム東池袋4丁目停留場)、飯田橋でメトロ東西、南北線、都営大江戸線、JR線に乗り換えられます。
市ヶ谷―新木場間では、市ヶ谷でメトロ南北線、都営新宿線、JR線、永田町でメトロ半蔵門、南北線(銀座線と丸ノ内線の赤坂見附にも改札内で連絡)、有楽町でメトロ千代田、日比谷線(日比谷)、都営三田線(日比谷)、JR線、銀座一丁目でメトロ銀座、日比谷、丸ノ内線(銀座)、新富町でメトロ日比谷線(築地)、月島で都営大江戸線、豊洲でゆりかもめ、終点の新木場で東京臨海高速鉄道りんかい線、JR線に接続します。
1972年には豊洲―住吉間地下鉄線の構想があった!!
ところで、豊洲―住吉間の分岐線(都の資料に「メトロ有楽町線の分岐線〈豊洲―住吉間〉」とあるので、本コラムも分岐線と表記します)、いつごろから構想があったのか。1962年の都交審答申に中村橋から錦糸町をつなぐ新線が登場します。江戸川橋―飯田橋間の1駅間だけですが、これが有楽町線のルーツのようです。
話は飛んで(といっても10年後ですが)、1972年の都交審答申には、豊洲―東陽町―住吉町―押上間が追加されました。お気付きの方も多いと思いますが、追加区間のうち住吉町(住吉)―押上間はメトロ半蔵門線として開業済み。当時、半蔵門線の発想はなく、有楽町線を分岐させる計画でした。
つまり分岐線のルートは、1972年には考えられていたわけです。見出し風に表現すれば、「半世紀来の悲願 メトロ有楽町線の分岐線 いよいよ建設へ」になるのかもしれません。
分岐線の線形は〝座いす型〟

東京都の説明会資料をもとに、分岐線のあれこれを報告します。ルートは図の通り。東陽町駅南側で大きく曲がり、線形はL字型というより〝座いす型〟のように見えます。途中駅は豊洲方から枝川、東陽町、千石の3駅ですが、東西線の既存駅・東陽町も含め、現時点では仮称です。
路線図では、枝川―東陽町間でJR京葉線と並走するようですが、分岐線は汐見運河の下、京葉線は地上(汐見運河を渡ったところで地下に入ります)なのでお互いに見えません。
新駅は、枝川駅が江東区枝川2丁目で、JR京葉線潮見駅に徒歩移動できそうです。同区東陽3丁目の東陽町駅は交通結節点。分岐線が開業すれば、地下鉄2線と路線バスが集結します。江東区役所が間近です。千石駅は、同区千石2丁目交差点付近に設けられます。
駅部は開削工法、駅間はシールドトンネル

資料では、建設方法も明らかになりました。新駅3駅部分は地上からトンネルを掘る開削工法、中間部は地中を掘り進むシールド工法を採用します。
シールドトンネルは豊洲―枝川―東陽町―千石間が直径約10メートルのトンネル内に複線の線路を敷く複線シールド、千石―住吉間は直径約7メートルのトンネル内に単線の単線シールド2本を建設します。開削工法の駅部は箱型トンネルで、幅11~19メートルです。


最近の地下鉄としては、オーソドックスな工法でしょう。着工や完成時期の資料記載はありませんが、工期約10年とすれば、準備期間を考慮しても、2030年代半ばには分岐線が開業しそうです。
豊洲駅にホーム1面増設

有楽町線延伸事業では、豊洲駅改良も同時施工します。本来の豊洲駅は上下線それぞれのホーム両側に線路が敷かれる2面4線の構造です。現在は、真ん中の2本を使用停止して、2面のホームの間を渡し板でつなぎ、実質1面2線として使用します。
駅改良では渡し板をはずして本来の2面4線に戻すとともに、もう1面ホームを増設。3面4線の乗換駅として混雑を緩和します。
住吉―豊洲間は所要20分が9分に

分岐線の整備効果を考えます。住吉で接続する半蔵門線は東武スカイツリーラインと相直するので、スカイツリーライン沿線から臨海部へのアクセスが便利になります。
現在、住吉から豊洲への移動は、都営大江戸線を経由、清澄白河と月島で2回の乗り換えが必要ですが、分岐線が完成すれば乗り換え不要、所要時間も現在の約20分からおよそ9分に半減できます。
整備効果2番目は東西線の混雑緩和。コロナで若干状況が変わっていますが、朝ラッシュ時の東西線木塲―門前仲町間は乗車率199%で、全国トップクラス。延伸線が完成すれば180%程度への混雑緩和が期待できます。
3番目がリダンダンシー(代替輸送手段)確保。豊洲エリアは都心部との移動手段が有楽町線か、ゆりかもめだけです。分岐線があれば、有楽町線の輸送トラブル時も半蔵門線や東西線で都心部に移動できます。
最後は鉄道空白地帯の解消。枝川、千石駅付近は住宅地で、近隣住民にとっては分岐線で通勤通学が便利になります。
今後は、都市計画案作成、環境影響評価書の作成、都市計画決定といった手順を踏んで工事着手になります。
スカイツリーラインと東上線を直通運転!?
最後に、鉄道ファン目線で分岐線を考えましょう。それは東武鉄道にとって長年の悲願だった、スカイツリーラインと東上線をつなぐルートの誕生です。
東武には戦前、西新井~上板橋をつなぐ連絡線を敷設し、本線系統と東上線を直結させる「西板線」の構想があったようですが実現はかなわず(大師線は西板線の一部)、現在は車両の移動など両線の行き来は秩父鉄道を経由します。
あくまで現時点での想像ですが、分岐線が完成すれば、例えば栗橋発住吉、豊洲経由川越市行の列車などが考えられるでしょう。ファンは空想の中で一足早く2つの路線をつないでダイヤや停車駅を想像。分岐線着工、そして開業の日を待ちたいと思います。
記事:上里夏生