鉄道会社が手掛けるレジャー事業の定番中の定番といえば「遊園地」……。
この書き出しが通用したのは一昔前。
締めくくりで2024年3月19日にオープンしたのが「夕陽の丘プレイランド」。小さな子どもも楽しめるアトラクションをそろえ、ファミリー客に楽しく過ごしてもらう趣向です。本コラムはプレイランド開業にあわせ、ゆうえんちの近況から成功の秘密を探ります。
ファミリーで楽しめる「遊具」
「夕陽の丘プレイランド」には何がある? 場所はウルトラマン・ザ・ライドの映画館型アトラクション「夕陽館」のすそ野です。

夕陽の丘は、狭山丘陵に沈む夕陽が美しく見えるのが命名の由来。ゆうえんちスタッフも、「一日を楽しく過ごした子どもたちに、夕陽とともに思い出を持ち帰ってもらえれば」と期待します。
(アトラクションと呼ぶより、この名がふさわしい)「遊具」は全部で13種類。ブランコ型の「スイング・スイング」、高さ10メートルから降下・上昇を繰り返す「スプリング・ライド・タワー」もありますが、いわゆる「絶叫型マシン」は他エリアにお任せ。

園内では、大道芸を思わせるパフォーマンスも。セレモニーを兼ねた3月18日の取材会では、西武鉄道キッズクラブの子どもたちが風船を持ったパフォーマンスで、新ゾーンの誕生をアピールしました。
「歴史」と「古さ」を逆手に取る

鉄道会社と遊園地……。かつて遊園地は、鉄道会社のレジャー事業の定番でした。目的は、鉄道の利用促進と沿線イメージアップ。しかし、1990年代後半から多くは苦戦を強いれらます。
理由はさまざまですが、共通項を探せばバブル経済崩壊から新型コロナにいたる環境変化。さらにはレジャー多様化や大型テーマパーク開園が挙げられるでしょう。
西武園ゆうえんちも、例外ではありません。戦後6年目の1950年に開業、2020年に70周年を迎えた名門ながら、1988年に年間194万人を数えた入場者数は、2019年度には37万8000人まで落ち込みました。
ばん回に向けて打ち出したのが3年強をかけた全面改装で、2021年5月にリニューアルオープンしました。
仕掛人が、レジャー業界の仕事師・刀(かたな=企業名)の森岡毅さんです。大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を再生させた経営手法は数多くの経済書で紹介されますが、西武園ゆうえんちで採用したのは徹底したマーケティング(市場調査)と顧客志向です。
ゆうえんちのイメージ調査で挙がったキーワードは「歴史」や「古さ」。ならばそれを逆手に取ろうと、前回東京オリンピックのころをモチーフに、入り口広場に路面電車、エントランス空間に約30店舗の昭和の商店街を配置しました。園内各所に祖父母・父母・子ども(孫)の3世代ファミリーが、懐かしさに浸れる仕掛けを取り入れました。
リニューアル3年目の「とびっきりスゴYEAR!」、打ち出した新機軸は今回のプレイランドを含め全部で13弾。これだけイベントが続けば、「また行ってみよう」と考えるリピーターが数多く現れます。
西武園事業本部マーケティング部の話では、2024年度にも新しい企画が目白押し。期待して待ちましょう。
「所沢から日本の観光大国化を実現」(西武HD)
西武ホールディングス(HD)は、「西武園ゆうえんちを起点に、所沢をはじめとする埼玉を中心にした関東の活性化、日本の『観光大国』化」を企業目標に掲げます。具体的には、「所沢エリアを通過する街から『働きたい、住みたい、訪れたい』街へ、そして選ばれる沿線へ」。
西武園ゆうえんちへの移動手段は、西武鉄道ほぼ一択。池袋線、新宿線の主要2路線どちらからもアクセスでき、鉄道に相乗効果をもたらします。
所沢エリア開発では、西武園ゆうえんち以外にも所沢駅東口、西口双方の開発、ベルーナドームのボールパーク化などの話題が目白押しです。
「アフタヌーンティーをグレードアップ」(黄昏号)
ラストは、本サイトでも話題を呼んだ「食堂車レストラン 黄昏号」の最新情報。コンセプトは、「豪華列車の旅の体験と食が実際に味わえる極上のエンターテインメントレストラス」。1960年代の豪華列車の食堂車がモチーフで、車窓のディスプレーには昔の東京の街並みやレンガ造りのホームなどが映し出されます。
乗車時(レストランへの来店時)、乗客のテーブルにアフタヌーンティーセットが用意されますが、今春からスイーツ類のメニューをグレードアップ。ストーリー仕立てで演じられる、90分間の豪華列車の旅への期待をふくらませてくれます。

もう一つ、鉄道ファンにお勧めアトラクションが「チャレンジトレイン 出発進行!」。一周約200メートルの線路を発車、警笛鳴らせ、停止といった指示に従いながら走行します。

記事:上里夏生