東海道・山陽新幹線の黄色い新幹線、ドクターイエローが引退する。報道が出たのは2024年6月13日(木)朝で、鉄道ファンだけでなく一般層にも広く知れ渡った。
ドクターイエローは「新幹線のお医者さん」とも呼ばれる。他の新幹線と同じように線路を走行しながら、軌道の歪みや電気設備などの状態をチェックする。営業運転のために走る車両ではないから、一般の旅客が乗車することはできない。頻繁に走るわけではなく、出会う機会は稀だ。「見ると幸せになる」という都市伝説まで生まれた。
引退の理由は老朽化だ。T4編成は2001年に運用開始、T5編成は2005年に登場したから、およそ25年程度で引退することになる。
保存や展示についてはまだ公式の発表はないものの、これだけ人気のある車両で歴史的価値もあるとなれば、どこかで保存される可能性は高そうだ。いまリニア・鉄道館にいるT3編成の先頭車のように、700系顔のT4編成やT5編成がドクターイエローを知らない子供たちをお出迎えする……2040年頃にはそんな未来がやって来るかも知れない。
引退後の仕事は営業車両が引き継ぐ
ドクターイエロー引退後の世界を想像してみよう。T4編成・T5編成が引退すると、新幹線が走る線路や電気設備などのチェックは何が担うのか。
答えは営業用の車両だ。
具体的にはどのような機能が追加されるのか。導入はまだ先だが、すでに発表されているものもある。2023年12月には、JR東海から「架線三次元検測装置」と「電車線金具異常検知装置」を開発したという発表があった。時速300kmの高速走行中でも、架線同士の位置関係や電車線金具など、架線の細部にわたって変形や破損などの異常がないかどうか検査できる。
2024年3月には「軌道材料モニタリングシステム」を開発。車両の下部に計測装置を搭載し、レールやマクラギ、ボルトなど軌道を構成する材料の状態を把握する。もちろん時速300kmの高速走行でもデータは取れる。人力での目視確認なども減るため、作業者の負担も減らせる。
本当に検測専門の車両がいなくても大丈夫なの? と不安になる方もいるかもしれないが、先行事例もある。たとえば2022年9月に開業した西九州新幹線では、複数の営業車両に検測装置を分散して搭載している。約66キロという短い路線で、設備も新しいというアドバンテージがあるとはいえ、ドクターイエローやJR東日本の「East i」のような検測用の車両を仕立てなくとも問題なく営業運行ができている。
ドクターイエローのスジはどうなる?
検測用のドクターイエローが引退し、その業務を営業車両が担うようになる。となると、ドクターイエローのスジが空く。「この時間、この路線は検測用の列車が走るので営業列車が入れられません」という状況がなくなれば、営業列車を増やせる。
JR東海の東京広報室からは「東海道新幹線の輸送力は増強したい」という回答をいただいた。現時点で具体的な計画が決まっているわけではないだろうし、影響も小さいかもしれないが、JR西日本のT5編成引退後に今よりさらに本数が増えるようなダイヤ改正が来るかもしれない。
(鉄道チャンネル)