水沼貴史の欧蹴爛漫042
今年1月よりバルセロナを率いているキケ・セティエン監督 photo/Getty Images
ナポリ戦で“ある課題”が浮き彫りに
水沼貴史です。2019-2020シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ・ラウンド16の1stレグが終わりましたが、昨シーズンの覇者リヴァプールがアトレティコ・マドリードに、ユヴェントスがリヨンに0-1で敗れるなど、いくつかのメガクラブが躓いていますね。
直近の公式戦10試合で7勝1分け2敗、リーガ・エスパニョーラでは現在首位と、成績自体はそれほど悪くないのですが、磐石なパフォーマンスを見せているとは言い難いというのが私の感想です。彼らがぶち当たっている壁とは、一体何でしょうか。
1月にエルネスト・バルベルデ監督を解任し、ポゼッションサッカーの信奉者であるキケ・セティエン監督を招聘した彼ら。ヨハン・クライフやジョゼップ・グアルディオラという名将のもとで、自陣後方から丁寧にショートパスを繋いでいくサッカーを磨きあげて一時代を築きましたが、バルベルデ監督が指揮を執った2シーズン半はポゼッション色が薄れていました。1月の監督交代劇は、ポゼッション色の薄いバルベルデ監督のサッカーにソシオ(バルサのサポーター会員)が不満を抱き、彼らの反発にクラブ首脳が押されたことによって生まれたものだと私は思っています。
セティエン監督の初陣となったグラナダ戦(リーガ・エスパニョーラ第20節)で1000本以上のパスをチーム全体で繋いだことからも分かる通り、今のバルセロナの戦いぶりからは「自分たちがボールを持ち続けてさえいれば失点しない」という信念であったり、テンポ良くショートパスを繋いでいくことで相手を疲弊させようという狙いが感じられます。ですが、今月25日に行われたナポリ戦(CLラウンド16)ではこの狙いに固執するあまり、相手の守備ブロックを崩しきれなかった印象がありますね。
[4-5-1]という布陣を敷き、最終ラインと中盤の間のスペースを徹底的に消しにきたナポリに対し、バルセロナはショートパスを繋ぎながら相手の陣形に隙が出来るのを待っていたのですが、サイドチェンジのパスを使って相手の陣形を横に広げるであったり、最終ラインの背後やサイドの深い所へ長めの縦パスを送り込むシーンが少なく、攻撃に“ダイナミックさ”がないような気がしました。積極的に最終ラインの背後へ走り、リオネル・メッシからの長めのパスを呼び込める左サイドバックのジョルディ・アルバが怪我でいなかったこと、そして彼の代わりに出場したジュニオール・フィルポはスペースに走るというよりも、一度足下でボールを受けてドリブルで対峙選手を剥がしていくタイプの選手だったことは、長めのボールが敵陣の深い所に供給されなかった要因の一つかもしれません。
また、この試合では3トップの一角に入ったアントワーヌ・グリーズマンや、インサイドハーフのフレンキー・デ・ヨングあたりが最終ラインの背後へ走るシーンが何度かあったのですが、そこへパスを出すシーンがチーム全体として少なかったですね。これは私の推測ですが、相手にカットされるかもしれない中・長距離のパスを使うよりも、より安全にボールを保持できるショートパスを主体に攻めることを、セティエン監督が選手たちに徹底させているふしがあります。
クライフの信奉者でもあるセティエンを迎え入れ、1月に再スタートを切ったバルセロナ。ひと昔前のフィロソフィーだった“圧倒的なボールポゼッションを軸としたサッカー”を再び磨き上げ、新たな黄金時代を築こうという意思が窺える彼らの行く末を、私も皆さんと一緒に見届けたいと思います。
ではでは、また次回お会いしましょう!
水沼貴史(みずぬま たかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。
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