最後の最後まで勝負はわからない プレミア勢が成し遂げた大仕事
PKをセーブされた後、同点弾を押し込んだシャビ・アロンソ photo/Getty Images
1996-97に現行のUEFAチャンピオンズリーグ(以下CL)に名称変更されたヨーロッパ・チャンピオンズリーグは、世界最高峰のフットボールがくり広げられる珠玉の舞台。
その魅力はクオリティだけではない。
一発勝負のファイナルと、そこに至るアウェイゴール方式でのホーム&アウェイの戦いでは、信じられない逆転劇がしばしば起きる。
過去23シーズンを振り返って、歴史的大逆転を5カード厳選。改めて味わっていきたい。
これから挙げる5つの試合。勝ったチームのファンは思い出すたびに、ビールやワインが際限なく進むはずだ。その中でも極めつけが1998-99シーズンのファイナル、マンチェスター・ユナイテッドとバイエルン・ミュンヘンの一戦だ。
0-1で迎えたアディショナルタイム、ユナイテッドはベッカムのふたつのCKから立て続けにゴールを奪い、崖っぷちから強引にトロフィーを奪い取った。
この試合を見たほとんどの人は終盤、優勝はバイエルンのものだと確信しただろう。1点差だが彼らの戦いぶりは盤石で、81分には38歳の鉄人マテウスを下げ、優勝へのカウントダウンに入る。
トロフィーにバイエルンカラーのリボンが巻かれるのを横目で見たベッカムは「気分が悪くなり、吐きそうになった」とのちに明かした。
だが、最後の最後に勝負がひっくり返ったのだから、世界中が仰天した。タイムアップとともにバイエルンの選手たちは崩れ落ち、ガーナ代表クフォーは号泣しながら、こぶしをカンプ・ノウのピッチに叩きつける。
この勝利によって、ユナイテッドはプレミアリーグ、FAカップと併せてトレブル(3冠)達成。イングランド勢、初の偉業となった。
時は流れて2019年、「カンプ・ノウの奇跡」が起きた5月26日、ユナイテッドは本拠地オールド・トラッフォードで「トレブル20周年記念試合」を行なった。
相手はもちろんバイエルン。20年前のメンバーのほとんどが顔をそろえた再戦は、5-0でユナイテッドが圧勝。6万人を超えるファンを喜ばせた。
ユナイテッドの永遠のライバル、リヴァプールもまた2004-05シーズンのファイナルで世紀の逆転劇をやってのけた。
イスタンブールでの決戦は、ミランが前半に3ゴールを決め、圧勝ムード。だが後半、大胆に布陣を変更したリヴァプールが猛反撃に出る。一気に流れを変えて、60分に3-3に追いついてしまった。
PK戦勝利の立役者となったのは、ミランのキッカー3人を失敗させたGKデュデク。両手を大きく広げ、左右にせわしなくステップを踏む“怪しい動き”で、対峙するキッカーを動揺させた。
“デュデク・ダンス”とも呼ばれたこの動きは、実はクラブのレジェンドゆずり。PK戦直前、CBキャラガーはデュデクに「グロベラーを思い出せ」と耳打ち。グロベラーというのは1983-84シーズンのファイナル、怪しい動きでPK戦勝利をたぐり寄せた名GK。選手は代替わりしても、勝利の経験が受け継がれるのだ。
ちなみに赤と赤が激突した大一番、スタンドの多くを占めたのはリヴァプール・ファンだった。勝ち慣れたミラニスタと違い、タイトルを渇望する彼らは、チケットのないファンまで勢い余ってイスタンブールに駆けつけていた。
だがあまりの情熱の強さゆえ、多くのファンが前半の3失点に絶望。前半が終わって席を立ち、スタジアムをあとにしたファンは少なくなかった。つまり、奇跡の勝利を飲み屋のテレビで見守る羽目になったファン、それどころか歓喜の瞬間に酔いつぶれていたファンがいたのだ。
この一戦で、世界中のファンがフットボールの真理を再認識することになった。「勝負はゲタを履くまでわからない」と。
ドラマチックな一戦 マドリードは白一色に
マドリード・ダービーのファイナルはまさに意地と意地のぶつかり合いだった photo/Getty Images
2013-14シーズンには、CLファイナル史上初めて同都市のクラブが激突。前人未到10度目の優勝を狙うレアル・マドリード、悲願の初優勝をめざすアトレティコ・マドリードという、マドリード勢が激戦をくり広げた。
優位と見られたレアルだが、36分に失点。反撃を試みるがアトレティコの固い守りに手を焼き、時間が過ぎていく。だが終盤の猛攻が残り2分に身を結ぶ。
終了間際のセルヒオ・ラモスの一撃で甦ったレアルは、延長戦で一気に畳みかけ、しぶといライバルを4-1で押し切った。
マドリード市内はデシマ(10度目の優勝)を達成したレアルの白一色となり、アトレティコのファンは悔し涙に暮れることになった。
CLファイナルは、長く険しいシーズンの最後に用意された一大決戦。それまでのシーズンの流れが勝負を左右するケースも少なくない。このマドリード・ダービーもそうだった。
レアルもアトレティコも、ファイナルは実にシーズン59試合目。疲労が大きくのしかかり、選手層が大きく問われた。その意味で、アトレティコは厳しい状態だった。ファイナル1週間前のリーガ最終節で、バルセロナとタイトルを賭けた大一番を戦っていたのだ。
この試合を引き分けたことで、アトレティコは実に18シーズンぶりのリーガ制覇を成し遂げた。
待ち焦がれたタイトル。だが、失ったものも大きかった。シーズン36ゴールを決めたエース、ジエゴ・コスタとトルコ代表の名手アルダが負傷したからだ。
迎えたレアルとのファイナルに、アルダは欠場。ジエゴ・コスタはスタメンに名を連ねたが、わずか9分でケガのため交代。二兎を追う難しさを痛感することになった。
一方のレアルは、ベイル、ベンゼマ、クリスティアーノ・ロナウドの“BBC”がそろい踏み。
指揮官アンチェロッティは2003、07年のミランに続く、3度目のCL制覇。異なるふたつのクラブでCLを制した、史上5人目の監督となった。
不可能を可能にしたバルサ 国中を熱狂させたローマ
ファイナルでの逆転劇を3つ紹介したが、近年ではホーム&アウェイのノックアウトステージでも大逆転が起きている。
2016-17シーズンのラウンド16では、バルセロナがパリSGを失意のどん底に叩き落とした。敵地での第1戦を0-4で完敗し、敗退ほぼ確実と思われたが、第2戦で信じられない巻き返しを見せ、6-1。2試合合計6-5という壮絶な撃ち合いを制したのだ。
この大逆転劇には、ふたつのポイントがある。
ひとつは、4点差の逆転はCL史上初だったということ。CLのノックアウトステージでは、第1戦で4点差以上がついた試合が過去に20度ある。だが第2戦で逆転したのは、このときのバルサが初めてなのだ。
もうひとつは、第2戦で痛いアウェイゴールを失ったということ。
バルサは50分までに3点を奪い逆転ムードが高まったが、62分に失点。これで勢いを大きくくじかれた。というのも、さらに3点が必要になったからだ。
時間は無情にも過ぎていき、間もなくタイムアップ……という土壇場で2ゴール、そして90+5分、歴史に残るセルジ・ロベルトの6点目が決まる。
最後の7分間で3ゴール。マンガのような出来事が起こったのだ。
このときスタジアム半径1キロ圏内の地震計は、微震を計測したという。ゴールが決まってスタジアムが揺れることはままあるが、周辺の大地が揺れたというエピソードはほとんど聞かない。セルジ・ロベルトの一撃は、文字通り大地を震撼させたのだ。
今日の勝者は明日の敗者。
史上最大の逆転劇を演じたバルサは、翌シーズンの準々決勝、今度はローマに足もとをすくわれる。
カンプ・ノウでの第1戦で、ローマは1-4と完敗。だが、80分のジェコのゴールが大きな意味を持つことになった。
本拠地オリンピコでの第2戦。大胆にシステムを変更し、巻き返しに出たローマは、バルサを粉砕。3-0でビハインドを跳ね返した。
第1戦の結果を受け、敗退をなかば覚悟していたロマニスタたちは、大金星に狂喜した。翌日、ローマ市内には「3-0」という行き先表示を掲げたバスが数多く走ることになった。このあたりの喜びようは、さすがは情熱のイタリア人。
興味深かったのは、この勝利に対するイタリア中の反応だ。
この国はヨーロッパの他国に比べて都市間の対抗意識が強く、ユヴェントスやミラノ勢、ローマ勢といった強豪が国際試合を行なうと、敵の敵は味方とばかり対戦相手を応援する人々が少なくない。
だが、このときは違った。本来、ローマを敵視するミラノやトリノの人々も、ローマに声援を送ったのだ。
理由はふたつある。
ひとつはローマが、バルサを相手に胸を打つような奮戦を見せたこと。彼らの素晴らしい戦いぶりが、イタリア中の人々を巻き込んでいった。
もうひとつ、忘れてはいけない理由がある。
この年はワールドカップイヤー。だが、イタリア代表はあろうことか出場権を逃していた。長年、当たり前のように参加してきたパーティに加われない失意はあまりに深く、チャンピオンズリーグでイタリア勢を後押しする機運が国中に高まっていた。
バルサを蹴落とし、イタリア希望の星となったローマは続くリヴァプールとの準決勝で敗退する。だが、アウェイでの第1戦では0-5から2点を返し、本拠地オリンピコでの第2戦では4-2と、あと一歩のところまで迫った。
ファイナルへの夢は絶たれたが、カルチョの意地を見せたローマは国中の喝采を浴びたのだった。
文/熊崎 敬
※電子マガジンtheWORLD244号、4月15日配信の記事より転載
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