地獄の淵を見てきたPSGと安定感を見せてきたインテルとで、リーグフェーズこそ対極の状況とはなっていた。しかし、ノックアウトステージではリヴァプール、アストン・ヴィラ、アーセナルと、イングランドの名門3クラブを倒してきた前者。バイエルン、バルセロナと、ドイツとスペインの首位を退けてきた後者。今季のクライマックスにふさわしいカードとなった。
幾多の壁を乗り越え前回のリベンジに燃える両雄の激突。最後に笑顔でビッグイヤーを掲げるのはどちらのクラブか。
典型的な“ほこたて”対決!? 対照的な2チームに見えるが
ノックアウトステージでともに好調なエースの活躍が勝敗の鍵か。PSGの攻撃を牽引するデンベレ(左) とインテルの攻撃を牽引するラウタロ(右)photo/Getty Images
CL決勝はインテル対パリ・サンジェルマンという対照的なチームの激突となった。
インテルは終始安定した戦いぶりだ。リーグフェーズ8試合は6勝1分1敗。
プレイスタイルはインテルが堅守速攻型、PSGは圧倒的な保持力と3トップの破壊力の攻撃型。インテルはセリエA第36節時点で75ゴールのリーグ最多得点と攻撃力を示しているが、CLではリーグフェーズ8試合でわずか1失点の堅守が印象的である。6勝のうち4試合のスコアが1-0。準決勝のバルセロナ戦では2試合で7ゴール、必要とあれば得点する力を持っているが、ゲームをコントロールして着実に勝つ戦い方。
PSGはプレイオフでブレストに2試合合計10-0の圧勝。
ウイング『四銃士』と万能なヴィティーニャ
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アーセナルとの準決勝1stレグ。デンベレはアウェイながら開始早々の4分にクワラツヘリアの折り返しを合わせ、決勝ゴールを決めた photo/Getty Images
PSGが後半戦で急激に調子を上げたのはデンベレの活躍と重なっている。それまで右ウイングが主戦場だったデンベレがCFとして起用されるようになった。その才能は疑いなく、両足利きを活かしたプレイと突破力、得点力には定評があったが、献身的に守備をするようになり、ビルドアップの「出口」になるなど、チームへの貢献度が一気に増したのだ。
CFといっても前線に張っているわけではなく、いわゆる「偽9番」。後方に引くだけでなく左右に流れる、あるいはポジションを入れ替えてウイングとしてプレイしていて、捉えどころがない。デンベレの変幻自在を可能にしているのは他のFWとの関係もある。
クワラツヘリア、バルコラ、ドゥエの3人のうち2人がデンベレとともに前線を形成しているのだが、4人ともウイングプレイヤーである。全員サイドでのドリブルが持ち味で、クワラツヘリアとバルコラは左が得意。ただ、どちらも右サイド、中央でもプレイできる。そのため3人のFWが試合中に頻繁に入れ替わる。
3トップが全員ウイングという珍しい編成。メッシ、ネイマール、ムバッペのときもこれに近かったが、メッシが左でプレイすることはなくネイマールも右には行かない。3トップの互換性は現在の方が高く、守備の貢献度でも上である。
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高い技術と豊富な運動量で、中盤の底から攻守両面を支えるヴィティーニャ photo/Getty Images
1対1に優位性があるウイング3トップはカウンターアタックで威力を発揮する。1人では抑えられないので2人でマークすれば、他の2人にスペースができる。ルイス・エンリケ監督がバルセロナを率いていたころのMSN(メッシ、スアレス、ネイマール)に似ている。デンベレ、クワラツヘリア、バルコラの三銃士に急成長の若手ドゥエが加わった。フランスの冒険活劇小説『三銃士』で四番目の男、ダルタニャンが主人公だったようにドゥエは主役を張れる逸材である。
このアタックラインを支えているのがMFヴィティーニャだ。右足に貼りついているようなボールコントロールと長短自在のパス。抜群のキープ力で攻撃を操る。今季はバルセロナのペドリがバロンドール候補と評価されているが、ヴィティーニャは優るとも劣らない。
ヴィティーニャと組んで中盤を構成するファビアン・ルイス、ジョアン・ネベスもクオリティが高い。ベテランCBマルキーニョス、GKドンナルンマ、さらにSBとして世界トップクラスのハキミ、ヌーノ・メンデスと穴がない。今季随一のボール保持力が目立つが、本領はカウンター、さらに守備耐性も強い。ファイナリストに相応しいチームに変貌している。
堅実さと大胆さを兼ね備える高い試合コントロール力
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自らゴールを奪うだけでなく、恵まれた体格を生かしたポストプレイでカウンター攻撃の起点にもなるテュラム photo/Getty Images
インテルは爪を隠しているチームといえるかもしれない。得点力はある。ただ、それで押し切ろうとはしない。デュエルには強いが、無理なハイプレスも行わない。リトリートして5バックになるとスペースを埋めて比較的ゆったりと守る。試合をコントロールして確実に勝つというイタリア伝統のスタイルだ。
堅守速攻型だが、ビルドアップが上手い。バストーニ、アチェルビ、パヴァール(ビセック)の3バックのフィード力が高く、とくにバストーニは左足で縦につけるパスが鋭い。
しばしばビルドアップの「出口」になるのがFWテュラム。長身でコンタクトに強いテュラムに斜めのクサビを当てて押し上げていく。2トップを組むラウタロ、MFから飛び出してくるバレッラ、ムヒタリアンとの連係で一気に切り裂いていくカウンターが持ち味だ。ビルドアップ能力は高いが、保持率はさほど高くない。前進できるときは一気に攻め切ってしまうからだろう。守備型ではあるが実は攻撃力は高く、一刀両断の切れ味がある。
ただし、全く無理はしない。カウンターにスピードがあるため無駄に人数もかけていない。
各マッチアップにも注目! 相性はややインテル有利か
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インテルの平均年齢は今大会で最も高くほぼ30歳だが、とにかく走る。バルセロナ戦で同点ゴールを決めた37歳のアチェルビも走れる“おじさん軍団”を象徴する選手のひとりだ photo/Getty Images
ブックメーカーなどの予想ではPSGがやや有利となっているようだが、相性からするとむしろインテルに分があるのではないか。
PSGがボールを保持する展開になるのはまず間違いない。ただ、PSGの強みであるサイド攻撃に対してインテルはすでに耐性をみせている。バルセロナ戦ではヤマルに苦戦を強いられたが、ディマルコとムヒタリアンのダブルチームで何とか対抗できた。PSGの右サイドはハキミの加勢があるのでそこをどう抑えるか。
ヌーノ・メンデスとダンフリースの攻防も面白い。サラーとサカ、プレミアリーグ最高の右ウイングを抑えきったヌーノ・メンデス。迫力満点の攻め上がりで決勝進出に貢献したダンフリース。どちらが主導権を握るかも注目される。
保持して押し込むことになるPSGは高い位置からプレスをかけてくると予想される。PSGのMFヴィティーニャ、ジョアン・ネベス、ファビアン・ルイスはインテルのチャルハノール、バレッラ、ムヒタリアンにマンツーマンでつく。この奪うか剥がすかの攻防もポイントだが、インテルはこうしたハイプレスに対するビルドアップが上手い。無理はしないが、行けると判断した時の推進力がある。
インテルが明確に有利というわけではないが、PSGの保持力やハイプレスに対抗できる守備力とビルドアップ力を持っていて、やりにくさはないと思われる。PSGのキーマンはやはりデンベレだろう。違いを作れる選手で、予想外の何かをやってくる可能性が最も高い。両チームのプレイスタイルからして、噛み合ったファイナルが期待できそうだが、僅差でインテルが勝利と予想する。
※電子マガジンtheWORLD305号、5月15日配信の記事より転載