日本代表の北中米W杯に向けた新戦力発掘の動きが早くも進んでいる。3月という早い段階でW杯出場を決めたことで、5月のオーストラリア戦、インドネシア戦では再招集や初招集となる選手を数多くピッチに送り出すことができた。
7月には東アジアE-1サッカー選手権が開催されるが、この大会はJリーグでプレイする国内組で戦うことが濃厚だ。

9月にはアメリカ遠征があり、10月、11月には国内で合計4試合の強化試合が行われる。こうしたスケジュールのなか、日本代表のメンバーはどう変わっていくのか。それによって、チームにどんな変化が生まれるのか。サムライブルーに新たな力をもたらすことが期待される選手を本誌ディレクターの飯塚健司が紹介する。

第2GK、第3GKは不透明 安定していた高井&鈴木淳

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オーストラリア、インドネシアと戦った6月シリーズでは多くの初招集、再招集の選手が出場した Photo/Getty Images

 6月のオーストラリア戦、インドネシア戦には日本代表でのプレイ経験が少ない選手、あるいははじめてとなる選手が数多く招集されていた。「再招集の選手たちは経験を積んだことでいかにレベルアップしているか。初招集の選手たちは、ベースのところと自分の武器というところを見させてもらいました」とは森保一監督の言葉で、2試合で各選手がピッチに立ち、それぞれが力を出すことに努めた。

 状況としてはオーストラリアがW杯出場権獲得に向けてしたたかに勝ち点を取りに来たのに対して、インドネシアはすでにプレイオフ進出が決まっていた。また、オーストラリア戦の日本代表は移動疲れや練習日数も短く、コンディションが良いわけでもなかった。こうした事前情報を考慮して話を進めていきたい。

 GKは谷晃生がオーストラリア戦、大迫敬介がインドネシア戦でゴールマウスを守った。どちらも日本代表に招集される常連だが、鈴木彩艶というファーストチョイスがいるため国際Aマッチ出場は少ない。



 日本代表のチームスタイルからGKには足元のうまさ、正確にフィードできることが求められるが、この部分において大迫敬介は冷静なプレイをみせた。CBへのパスだけではなく、ボールを受けに下がってきた遠藤航、佐野海舟の動きがしっかり確認できていて、サイドに逃げるのではなく、狭い相手の間を通して真ん中にパスを出すこともあった。

 大迫の動きでひとつ気になったのは、前半に3バックの裏に出されたボールへの反応が少し遅れ、ギリギリでのクリアになった場面があったこと。足の速いストライカーが相手だったら、入れ違いでボールをロストしていたかもしれない。結果的には難を逃れたが、強者との試合ではひとつの判断ミスが失点につながるだけに良い教訓にしたい場面だった。

 これは谷も同じで、こちらはパスの精度に問題があり、ゴールに近い場所で2度相手にボールを渡してしまった。どちらも失点にはならなかったが、谷はJリーグでも足元のボールコントロールに不安を感じさせるときがある。2人目、3人目のGKの座は、他選手にもまだチャンスがありそうだ。

 CBはケガ人が多いなか、6月のシリーズでは高井幸大、鈴木淳之介が安定したパフォーマンスを発揮した。高井は3月のサウジアラビア戦ですでにW杯予選を経験済みで、臆することなく普段どおりに対人プレイに強いところをみせた。高さがあるのはもちろん、相手を振り向かせない距離感で勝負できるタイプで、自由なボールコントロールを許さずに奪い取ることができる。

 日本代表はボールロストの瞬間に攻守を切り替え、即時奪回することを狙っている。
高井はポジショニングがいいし、ボールが出てくる場所を読む力にも優れている。その後のパス出しも正確なので、カウンターを狙う相手を高いポジションで潰し、逆にカウンターへと繋げることができる。今夏ではないにしろ、近い将来に欧州へと渡ることになるだろう。

 鈴木淳之介の安定感も際立っていた。テクニックに定評がある帝京大可児高校の出身とあって、インドネシアがプレスをかけてきても慌てることがなく、冷静にかわしていた。スピードがあって身体も強く、対人の競り合いでほぼ勝利していた。

 もともとボランチなので、鈴木淳は足元の技術力も高く、パスセンスもある。最終ラインからのビルドアップを任せられるし、効果的なくさびのボールも期待できる。W杯予選中は伊藤洋輝、冨安健洋、谷口彰悟、町田浩樹などにケガが相次ぎ、CBはなかなか固定できていなかった。今後の強化試合では鈴木淳がプレイする時間が増えることが予想される。

待たれていた佐野海の復帰 平河&俵積田も個性を発揮

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自身の価値を再証明した佐野海。彼がいることで日本代表の中盤の強度はさらに上がることは間違いない Photo/Getty Images

 中盤では久しぶりの招集となった佐野海が「再招集の選手はいかにレベルアップしているか見させてもらった」(森保監督)という要求に高いパフォーマンスで応えた。というか、ブンデスリーガで1年間フル稼働し、結果を残している選手である。

可能であれば、W杯予選の最中にもっと早く呼びたかったというのが現実だろう。

 攻守の切り換えが凄まじく速く、味方がボールを失った瞬間にスッと姿を現し、ドンと身体をぶつけて奪い返す。オフ・ザ・ボールの動き、ポジショニングがよく、佐野海が中盤でボールを回収するため、とくに90分フル出場したインドネシア戦は日本代表にピンチらしいピンチがなかった。

 遠藤との連係もよく、お互いがパス交換することがあれば、お互いのポジションを考慮して縦関係になることも。インドネシア戦の66分には高いポジションで久保建英からのパスを受け、そのままドリブルで力強く前進して自分でフィニッシュしている。得点にはならなかったが、こうした強引さ、シュートを打つ積極性は日本代表にとってアクセントになる。 最終予選を通じて、ボランチは遠藤、守田英正、田中碧、鎌田大地がおもにプレイしてきた。佐野海はここに十分に食い込めると考えていい。

 中盤の両サイドでは、平河悠、俵積田晃太が森保監督の言う「自分の武器」をみせた。オーストラリア戦で右サイドハーフを務めた平河は、持ち味である縦へのドリブル突破とともに、インサイドに入ってミドルシュートを放つ場面もあった。慣れていないピッチコンディションでしっかりと自分のプレイができており、ベースの高さを示したと言える。90分フル出場しており、森保監督が信頼を置いていることもわかる。


 同じオーストラリア戦の左サイドでプレイした俵積田も立ち上がりから積極的にドリブル突破を仕掛け、チャンスを作ろうとしていた。インドネシア戦でも後半途中からピッチに入り、「自分の武器」を発揮して80分に左サイドを切り裂いて細谷真大の得点をアシストしている。

 この場面とともに目を引いたのは83分で、自陣のまだ真ん中あたりでボールを持つと、一気に加速して前方にボールを運んだ。後方からスライディングタックルで止めようとした相手も置き去りにし、左サイドから斜めにドリブルして相手陣内の中央、もう少しでペナルティアークというところまで到達した。自分で打つ選択肢もあったなか、右サイドにパスを出してフィニッシュには繋がらなかったが、試合終盤を迎えて疲労する相手にとってこれほど嫌なプレイはない。「個」の力で状況を一変する俵積田らしいドリブルだった。

 両サイドのポジションには、伊東純也、堂安律、菅原由勢、三笘薫、中村敬斗、前田大然、浅野拓磨などがいる。久保が右サイドに配置されるときもあるし、6月のシリーズでは森下龍矢、三戸舜介もそれぞれ自分の力を発揮した。競争は激しいが、長い距離を勢いよくドリブルできる俵積田は、試合終盤に入ると効果的だ。均衡を破るジョーカーとして、貴重な役割を担うかもしれない。

町野の成長で前線も充実 2トップもテストされた

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細谷も久々の招集でゴールをマークした。前線の2トップは引いた相手を崩すための切り札となるかもしれない Photo/Getty Images

 トップ下でプレイする2シャドーは、南野拓実、久保、鎌田が担ってきた。どの組み合わせも連係がよく、インドネシア戦では久保-鎌田が相性の良さを示した。

堂安、田中、三笘、中村、旗手怜央なども同ポジションで起用されたことがあり、6月のシリーズではオーストラリア戦で鈴木唯人が先発し、インドネシア戦では佐野航大や三戸も務めた。

 このポジションの選手には攻撃におけるアイデアとともに、ボールをロストした瞬間に切り替える守備力の高さも求められる。南野、鎌田、久保はゴールに向かう姿勢が強いのはもちろん、奪われたあとの反応が早く、ガツガツと取り戻しにいく。

 そういった意味では、プレイ時間は短かったが佐野航は切り替えの早さ、球際の強さを感じさせた。ピッチに入ってすぐにゴール前に飛び出してヘディングシュートを放つなど、ゴールへの意欲もあった。サイドでもプレイできる佐野航は汎用性が高く、いろいろなポジションでいろいろな役割が担える。ここも競争が激しいポジションだが、ひとりいてくれると助かるタイプだと言える。

 1トップにはボールを収めることが求められるなか、これまでは上田綺世と小川航基で戦ってきた。両名ともに懐が深く、ポストになることができる。同時に、得点力も高い。この2人がいないなか、6月のシリーズでは大橋祐紀、町野修斗、細谷が前線でプレイした。

 いずれも再招集の選手だったが、ブンデスリーガで二桁得点を記録した町野の強さが目立った。
身体を張って足元にボールを置き、素早い判断でサポートに来た選手へ落とす。日本代表ではときに狭いスペースで正確にフリックすることを求めれるが、町野は所属クラブのキールでFWだけではなく、シャドーやサイドハーフでプレイしたこともある。上田、小川に加えて、町野の成長は森保監督の選択肢を増やすことになる。

 実際、インドネシア戦では町野&細谷の2トップで戦った時間があった。「最後に2トップで戦えたことは、チームにとって戦術的にプラスになったと思います」とは試合後の森保監督である。2人が前線に張り付いているとスペースがなくなるが、程よい距離間、立ち位置を調整すればゴール前の人数が増えることになる。

 上田、小川、町野、細谷。さらには、大橋も2トップの一角であればより生きるかもしれない。このポジションには前田、古橋亨梧もいる。今後は引いて守備を固める相手には2トップで攻勢をかける試合があるかもしれない。

国内組で戦うE-1選手権 新戦力の台頭はあるか

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鹿島の早川は瞬発力高いセービングだけでなく足元にも強みがあり、代表のスタイルに合っている Photo/Getty Images

国内組で戦うE-1選手権 新戦力の台頭はあるか

 7月にはE-1選手権で香港、中国、韓国と対戦するが、この大会はスケジュールの都合上、各国が国内組で戦うことになる(クラブW杯に参加する浦和からの招集はないと考えられる)。22年7月に日本で開催された前回大会では、町野、相馬勇紀が得点王となり、両名はそのままカタールW杯を戦っている。今回も同じ流れが生まれてもおかしくない。

 6月のシリーズに参加した国内組の選手たち、谷(町田)、大迫(広島)、高井(川崎)、鈴木淳(湘南)、俵積田(FC東京)、細谷(柏)、佐藤龍之介(岡山)はケガやコンディション不良がない限り招集されるはずだ。彼らには日本代表のスタイル、狙いがすでにインプットされており、E-1選手権ではチームを引っ張る存在にならなければいけない。

 他にも活躍が期待される選手は多い。GK早川友基(鹿島)は身長こそないが、シュートへの反応が早く、至近距離から打たれても反応できる。足元の技術力が高く、フィードが正確なのも日本代表向きだと言える。同じ理由から小島亨介(柏)の招集も期待される。リカルド・ロドリゲス監督の就任でしっかりとパスを繋ぐサッカーをするなか、小島は精度の高いキックで攻撃の起点になっている。過去に招集されたこともあり、コーチングスタッフがリストアップする“ラージグループ”に入っていると考えていい。

 最終ラインでは岡村大八(町田)や安藤智哉(福岡)に身体の強さがあり、中野就斗(広島)であればCBだけではなく、サイドハーフでも機能する。本来はサイドバックの佐々木旭(川崎)もスクランブルでCBをこなしたことがあり、両サイドハーフや4バックの両サイドバックなど、複数のポジションをカバーできる。中野、佐々木ともに身体を張った守備ができるし、縦への推進力もある。

 サイドハーフでは濃野公人(鹿島)、三浦颯太(川崎)が面白い。どちらも負傷明けとなるが、トップコンディションであれば「個」の力で状況を打開できるドリブルを持っている。三浦は24年1月1日に開催されたタイ戦ですでに代表デビューしており、森保監督の狙いもわかっている。濃野もどこかのタイミングで日本代表でのプレイを見たいが、負傷から復帰したばかりで判断が難しいところだ。

 伊藤達也(川崎)、川辺駿(広島)、奥川雅也(京都)といった欧州でのプレイ経験があり、今季Jリーグで結果を残している選手もいる。こうした選手たちは短い練習期間や準備で自分の力をチーム内で発揮する術を心得ている。北川航也(清水)も再招集が期待されたが、6月1日のC大阪戦で負傷交代となっている。

 試合出場はなかったが、川﨑颯太(京都)も23年に一度日本代表に招集されたことがある。中盤でプレイし、攻守の切り替えの早さ、守備における強度の高さ、いずれもレベルアップしていて今季から京都でキャプテンを務めている。ボランチはもちろん、インサイドハーフでも機能するハイスペックな23歳で、E-1選手権を戦う日本代表でもチームの中心になる可能性がある。

「選手層を厚くしながら最強チームを作ることが日本サッカーの底上げになります。底上げをしながら勝つことを考えて活動しています」(森保監督)

 現在の日本代表は主力のクオリティが高く、なかなか食い込む余地がない。しかし、彼らもすそ野から山道を登り、日本サッカーのトップ・オブ・トップにたどり着いた選手たちだ。将来の日本代表を背負って立つ次世代のスターは、いまはまだ山頂にはいない。前回の町野や相馬のように、E-1選手権で活躍して北中米W杯にたどり着く選手が出てくることを期待したい。そうした流れが、日本代表のレベルアップに繋がることになる。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD306号、6月15日配信の記事より転載

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