しかし、悲願のリーグタイトルを目指すうえで、特に働きがカギとなりそうな選手が数人いることがここまでの戦いで見てとれる。代役がいないわけではないが、今季のアーセナルで戦術的にも欠かせない存在となる選手たち。分厚いスカッドのなかで支柱となるような、その重要性を考察してみたい。
最後の砦ラヤが好調 ティンバーは出色の出来
今季加入のギェケレシュとアーセナルの象徴サカ、どちらも重要なピースだ Photo/Getty Images
現在のアーセナルの特色のひとつは、失点が極端に少ないことだ。昨季も一昨季もプレミア最少失点のチームだったが、今季は11試合を終えて「5」とひときわ少ない。第11節でサンダーランドに今季初の複数失点を喫するまで、公式戦8戦連続クリーンシートという堅さだった。これは決して特定の選手の働きだけによるものではなく、チーム全体の守備組織の成果であることは間違いないが、やはり最後の最後で決定的な働きを見せるのはGKだ。
GKダビド・ラヤは2シーズン連続でゴールデングローブを獲得しているが、先述のとおり今季のアーセナルはクリーンシートを積み重ねていることから、やはり今季も受賞の最有力候補だ。第10節バーンリー戦で最後の最後にフリーキックを止めたように、シュートに対する反応速度はピカイチ。開幕戦でマンチェスター・ユナイテッドFWマテウス・クーニャの決定的なシュートを指先で逸らしセーブしたときには「正直どうやってセーブしたのかわからない」と発言していたが、ラヤが咄嗟の場面で動けているおかげで何度もチームは救われている。カバーエリアもセンターサークル付近まで飛び出すことがあるなど異様に広く、上背のわりにクロス対応も堅実。
ビルドアップでもカギとなっており、相手のプレスをかわすようにU字に回していくだけでなく、素早く中盤にボールを差し込むプレイも多く見られる。ロングボールで最前線のFWヴィクトル・ギェケレシュに当てたり、ワイドに開いたFWガブリエウ・マルティネッリの裏を狙っていくこともできる。こうしたキック精度もラヤの大きな特長であり、セービングだけでなく保持の局面でも貢献できるのがアーセナルでポジションを守り続ける理由になっている。
そんなラヤとともに強力な守備ユニットを形成するのがDFウィリアム・サリバ、DFガブリエウ・マガリャンイスの2CBで、ここがまさにアーセナルの堅守のコアとなる部分だ。彼らがいるからこそアーセナルは前がかりに人数をかけて攻撃できるのであり、それはここ数シーズン変わらない強みなのだが、今季は彼らのほかに右サイドバックのDFユリエン・ティンバーにも注目したい。
今季は右サイドバックとしてスタメン起用されるティンバー。現状ではDFベン・ホワイトと序列が逆転しており、攻守両面で高いパフォーマンスを発揮している。
各種データサイトによれば、チームでもっとも多くのタックルを記録しているのがティンバーだ。1試合平均3.5回、タックル成功18回(成功率73.3%)を記録しているが、ヒートマップを見ると右サイドのハーフウェイライン付近がもっとも濃くなっている。つまりティンバーは、ゴールからまだ遠いうちにボールを刈り取り、ピンチを未然に防いでいるプレイヤーだと言うことができる。
加えて、攻撃面での貢献も見逃せない。
実はここまでもっとも多くのスルーパス(8回)を成功させているのもティンバーだ。決定的なチャンスが作れるMFマルティン・ウーデゴーやMFエベレチ・エゼといった選手にはどうしてもマークが集中しがちなところ、ティンバーは効果的なサブウェポンとして攻撃においても多大な貢献を果たしていることがわかる。セットプレイのターゲットになることもあり、第2節リーズ戦では2ゴール。サリバとガブリエウの存在はもちろん重要だが、今季はそこに加えてティンバーが大きな働きを見せていることを数字が表している。
代わりのいない2人のMF スビメンディとライス
素早いターンでマークを剥がすスビメンディ。ここから展開することでアーセナルの攻撃にリズムが生まれる Photo/Getty Images
中盤では、今季加入のMFマルティン・スビメンディが絶対的な存在になりつつある。アンカーのポジションでは他にクリスティアン・ノアゴーがいるが、ノアゴーはもっとオーソドックスなアンカータイプであり、同じポジションに入ることはできてもプレイ面でスビメンディの代わりにはなれない。今のところ、スビメンディはアーセナルにおいて代わりがいない数少ない選手であると言うことができそうだ。
スビメンディの特長とは、ボールを効果的に動かせることだ。自ら配球するだけでなく、横や縦のスライドで有効なポジションを取ることも抜群にうまい。これが加入後すぐにアーセナルに溶け込めた理由だろう。
自ら決定的なチャンスを演出するシーンは決して多くないので数字には表れにくいが、決定機に至るその一歩手前の状況を作り出すのがスビメンディであり、まさにゲームメイカーだ。ノアゴーもカバーリングなどに優れた素晴らしいアンカーだが、配球の面ではどうしても「横パスばかり」といった印象になってしまうところは否めない。どちらが優れているということではなく選手の特性の違いだが、ボールをポゼッションして敵陣に攻め込むことが基本となるアーセナルではスビメンディの方が先発するのは道理であり、今のところ先発にスビメンディ、ゲームを締めるクローザーとしてノアゴーを交代出場させるという流れが定着しつつある。
必然的に出場時間は増えがちであり、第11節まででラヤとガブリエウに次ぐチーム3位の937分の出場時間を記録している。疲れが見えることもあり、このあたりをミケル・アルテタ監督がどうマネジメントしていくかがポイントとなりそうだ。
スビメンディとともに中盤に欠かせないのがライスだ。先述したようにチームトップのチャンスメイク数を記録しているのがライスで、ダイナミックなボールキャリーやゴール前のスペースに入り込んでいく動きでアーセナルの攻撃に厚みをもたらしている。一方で今季はスビメンディと並ぶやや低めのポジションを取ることも多く、タックル成功11回はティンバーに次ぐチーム2位の数字だ。攻守両面でライスは欠かせない存在となっており、今やイングランド屈指のボックス・トゥ・ボックスと言っていいだろう。
アーセナル最大の武器であるセットプレイで、キッカーとしてボールを供給するのもライスの役割だ。ロングパス113本中57本、半分以上が成功しているというデータからも、ライスがどれだけセットプレイから決定機を作り出しているかがわかる。いくらゴール前に入る選手の動きを工夫しても、キックが正確でなければセットプレイを強みにすることはできない。
カギを握るアタッカーは2人 ギェケレシュとサカ
局面、局面で最適なプレイを素早く選択できるのがサカの強み。シュートの判断も迷いがない Photo/Getty Images
FWレアンドロ・トロサールのような熟練のベテランから15歳のフレッシュなMFマックス・ダウマンまでアーセナルの攻撃陣はまさに多士済々だが、マンチェスター・シティのFWアーリング・ハーランドのように絶対的な点取り屋といえる存在はいない。しかし、代えがきかないパフォーマンスを見せることができる選手が2人いる。
ひとりは今季加入したスウェーデン代表FWのギェケレシュだ。昨季ポルトガルで驚異の公式戦54ゴールを記録したストライカーに期待されたのは、もちろんゴールだった。しかし、今季はまだリーグ戦4ゴールにとどまっている。それでもチーム最多スコアラーなのだが、ファンは当初、もっと圧倒的にゴールを積み重ねる怪物ストライカーの姿を期待していただろう。加入まもないころは消えてしまう試合も多く、その点で批判も集中していた。
しかし、試合を積み重ねるにつれてギェケレシュのまた違った有用性が明らかになってきた。ギェケレシュは大柄な体格を持ちながら、足を止めることがない。攻撃の局面では常にボールを収めるために、または裏抜けを狙って動き続ける。
特に裏抜けを積極的に狙うプレイについては、FWカイ・ハフェルツとはまた違うものをチームにもたらしている。元イングランド代表FWアラン・シアラー氏は、まだギェケレシュはハーランドやキリアン・ムバッペほどのレベルにはないとしながらも、次のようにその重要性を指摘した。
「アーセナルに合っている彼の強みの1つは、実際に裏に抜け出すことだ。そうすることで、他の選手にスペースが生まれる。(自陣ゴールと)逆方向に走っていると、相手はどんどん下がっていき、他の選手がプレイできるスペースが生まれる。そういう意味では、彼はアーセナルを成長させたと思う」
ギェケレシュは第10節バーンリー戦で負傷してしまったが、この時点までのデータが興味深い。『Opta』のデータによるとギェケレシュはボールを持たない状態でペナルティエリアに54回走り込んでいた。これはプレミア最多の数字だという。
これをダイレクトに使うプレイもあれば、ギェケレシュの走り込みによってDFを引きつけ、サカやエゼがスペースを活かすプレイも増えた。サカは昨季、常にダブルマークにさらされ、それを剥がすのに苦労していたが、ギェケレシュへのマークが厚くなることでサカへのマークは軽減された。しかしギェケレシュを欠いて臨んだ第11節サンダーランド戦では、再びサカはダブルチームのマークにさらされることになっている。
ギェケレシュは守備での貢献度も高い。同じく『Opta』のデータによれば、ハイプレスの回数が199回でプレミアトップ。そしてペナルティエリア内でのプレス回数も90回でトップだった。足を止めないのはボールを失った守備の局面でも同じなのだ。
苛烈なハイプレスからのボール回収はアーセナルの守備においてカウンターを防ぐために重要であり、ここで走力を見せることができるのは大きい。それだけに筋肉を痛めて離脱したのは気になるところで、スビメンディと同じく今後のアルテタのマネジメントは重要となるはずだ。
最後の1人はサカだ。アカデミーの最高傑作であるサカはアーセナルそのものを表象する存在であり、未だ獲得に至っていないリーグトロフィーをサカが掲げることはファンの長年の願いでもあるはずだ。
主に右ウイングを任されるサカは総じて能力が高くなんでもできる選手だが、決して圧倒的なスピードがあるわけでも、理不尽なドリブルを見せるわけでもない。単純に突破力だけで測れば、ノニ・マドゥエケの方が上かもしれない。しかし身体能力だけに目を奪われていると、サカの凄さを見誤ることになる。
サカの凄さとは、常に「最善を選択し続けることができる」ところにある。決して利己的なプレイに走らず、ボールをチームメイトに預けることが最善であると判断すればそうするし、シュートが最善と判断すれば迷いなく打つ。すべてのプレイが高精度なのは、判断を間違えないからだ。だからサカは卓越した個人技も見せるが、同時に常にチームプレイヤーでもある。
守備をサボることもない。チームが勝つことが最優先事項であり、そのために何をするのが最善なのか、サカはわかっているからだ。自陣コーナーフラッグ付近まで懸命に戻って守備をするサカの姿はよく見られるが、サカは今季プレミアリーグで12回のタックルを記録しており、これはFWでありながらチームで上から5番目の数字。全力で献身するサカの姿は、まさにチームの模範と言うべきものだ。
クラブ史上最高額での契約延長が準備されているとも報じられているが、これはサカ=アーセナルであり、アーセナルはこれからもサカとともにタイトルを目指し続けるという意思表示に他ならない。サカはアーセナルにとって特別な選手であり、ポジション上の代わりはいても存在としての代わりはいないのだ。クラブのシンボルとなれる存在は、今のところサカ以外にいない。これがスカッドの中でもサカがひときわ重要である理由だ。
アルテタ監督は「彼は謙虚でありながら、ボールを要求し、決断する勇気を持っている」と称賛している。また、アカデミーの後輩であるDFマイルズ・ルイス・スケリーは、サカをロールモデルだと称賛し、「大きな支えになった」と明かしている。驕るところのないサカの謙虚な人柄は人を惹きつけており、それはピッチ内外でチームに好影響を与えているようだ。
主将のウーデゴーが度重なる負傷によって思うように出場できない今季、チームの顔とも言えるサカの存在は監督やチームメイトにとってもこれまでになく大きいものになっている。その存在の大きさにおいても、唯一無二と言えるサカ。彼がシーズンの終盤まで好調を保つことができれば、アーセナルは03-04シーズン以来のリーグタイトルに到達することができるはずだ。
文/前田 亮
※電子マガジンtheWORLD311号、11月15日配信の記事より転載

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