5節を終えて5勝全勝。勝ち点15で首位に立つリヴァプールは、2位アーセナルに勝ち点5差をつけていた。
3節にあった直接対決にも1-0で勝利しており、プレミアリーグは連覇を目指す王者リヴァプールを中心に今季も回っていくと考えられた。

 ところが、続く6節クリスタル・パレス戦から9節ブレントフォード戦までいずれも1点差で競り負ける試合が続き、4連敗と大失速した。さらに、カラバオ杯4回戦のクリスタル・パレス戦にも0-3で完敗。その後も立て直せず、15節を終えて7勝2分6敗。10位に順位を下げ、首位アーセナルとは勝ち点10差となっている。

 CLのリーグフェーズでは聖地アンフィールドでPSVに1-4で大敗する一戦もあった。アルネ・スロット監督には解任論が浮上し、Xデーが近いのではないかとされている。現状のリヴァプールは明らかにうまくいっていない。プレミアリーグではアーセナルの独走以上に、リヴァプールの失速が目を惹くトピックとなっている。

監督とエースが確執か!? サラーが現状の不満を吐露

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昨季王者リヴァプールが、まさかの絶不調に陥っている Photo/Getty Images

 チーム状態が悪いことで選手が不満を抱えるのか、選手が不満を抱えることでチーム状態が悪くなるのか。サッカーでは前者のケースが多いように感じる。今回のリヴァプールもここまで失速していなければ、モハメド・サラーが定位置を外されることはなく、監督批判の言葉は出てこなかったはずだ。

 6節からの4連敗やその他の敗戦を受けて、アルネ・スロット監督はチームを修正しなければならなくなった。

フロリアン・ヴィルツ、ウーゴ・エキティケ、アレクサンデル・イサクなどを加えたチームとしての最適解は、どこにあるのか。下した決断は、長年チームを支えてきた大エースのサラーをベンチスタートにすることだった。

 たしかに、今季のサラーは以前なら決めていたという決定機を外すシーンがあり、「どうしたんだ?」と懸念されていた。身体の切れ味、スピードともにトップコンディションではない様子がうかがえ、パフォーマンスが低下していた。とはいえ、10節を終えて4得点2アシストしており、数字上の結果は残していた。鉄人・サラーのことである。試合をこなすうち、徐々に本領を発揮するのではという考え方もできた。

 一方で成績が出ない指揮官は状況を打開しなければならず、大敗したCLリーグフェーズのPSVから中三日で迎えた13節ウェストハム戦でサラーをベンチスタートとした。そして、途中出場もなく2023-24の27節フォレスト戦以来の欠場となった。負傷や病欠(新型コロナ)、代表招集での不在を除き、ベンチにいながらピッチに立たなかったのは2019-20の30節エヴァートン戦以来のことだった。

 サラーは14節サンダーランド戦もベンチスタートとなり、途中出場で45分間プレイするにとどまった。さらに、15節リーズ戦は点の取り合いとなるなか、最後まで出番がなくまたしてもベンチでチームメイトの戦いを見守るだけだった。
このリーズ戦が終了間際に追いつかれて失意の3-3で終わり、アフリカ・ネーションズカップ(12月21日開幕)を戦うエジプト代表に合流するためチームを離脱する日が近いこともあって、試合後に多くの取材陣に囲まれたサラーは自身が抱える不満を口にすることとなった。

「なぜこんなことが起きているのかわからない。誰かがすべての責任を私に押しつけたかったのは明らかだと思う」「マネジャー(スロット監督)とは良い関係だったのに、突然なにもなくなってしまった。(私に)このクラブにいてほしくないと考えている人がいるのだと思う」「チームの問題は私であると責任を押しつけられている。でも、私が問題だとは思わない。このクラブのために多くのことをしてきたので、リスペクトしてほしい」

 サラーが発したコメントは、試合直後から速報として世界に向けて発信された。これを受けてクラブがどう対応するかわからないが、サラー自身は16節ブライトン戦後にチームを離れる。あるいは、本人がいない間に成績不振を理由にしたスロット監督の解任、サラーへのクラブ独自の制裁など、大きな動きがあるかもしれない。仮に両者がコミュニケーションを取ってスロット監督のままサラーがスタメンに復帰したとしても、「突然なにもなくなってしまった」(サラー)という関係は、もう元に戻せないだろう。
 

右SBはスクランブル態勢 ヴィルツはいまだ不完全燃焼

[特集/4大リーグ前半戦TOPICS 01]王者リヴァプールまさかの大失速! なぜチームの歯車はかみ合わないのか

14節サンダーランド戦でようやくゴールに絡んだヴィルツ。ペナルティエリア内でボールを受け、寄せるDFをかわして左足で決めた Photo/Getty Images

 リヴァプールの失速は本当にサラーの責任なのかと言えば、決してそんなことはない。スロット監督もそれはわかっていて、いつかは“代わる人材”をみつけなければならないサラーを先発から外すという荒療治を決断したのだろう。しかし、現実的な問題としていまのリヴァプールには相応な右ウイングがいない。



 サラーを外した3試合ではいずれもドミニク・ショボスライがこのポジションで先発したが、器用であるがゆえに任された印象で、ボランチ、インサイドハーフ、トップ下などもっと能力が生かされるポジションがある。今季のリヴァプールはこのショボスライの起用方法にチーム編成がうまくいっていないことが表れている。

 ボランチ、右サイドバック、トップ下、右ウイング。ここまでショボスライは複数のポジションで先発してきた。システムが変化して試合途中からインサイドハーフを務めることも珍しくない。どこでプレイしても安定したパフォーマンスをみせているが、裏を返せばショボスライに埋めてもらわないと人材がいないポジションがそれだけあるということ。今季とくに顕著なのは、右サイドバックだろう。

 昨季までトレント・アレクサンダー・アーノルドが務めたこのポジションは、本来ジェレミー・フリンポンが受け継ぐはずだった。しかし、序盤戦で負傷したこともあり、プレミアリーグ出場は4試合、プレイ時間わずか84分にとどまっている。そろそろ復帰が見込まれるが、リーズ戦ではまだベンチ入りしていなかった。

 もうひとりの右サイドバック候補であるコナー・ブラッドリーも筋肉系のトラブルで戦列を離れていた(リーズ戦で先発復帰)。そのため、13節ウェストハム戦、14節サンダーランド戦ではジョー・ゴメスが右サイドバックを務め、その前方にショボスライという右サイドだった。
昨季までほぼアレクサンダー・アーノルド、サラーで戦っていた右サイドが、人選変更とサラーのパフォーマンス低下により変革期を迎えている。まずはここに昨季との違いがある。

 より大きな改善点となっているのが、鳴り物入りで加入したフロリアン・ヴィルツの生かし方だ。サンダーランド戦で待望の初ゴールをマークしたかと思ったが、オウンゴールに訂正されてしまった。ただ、相手DFが密集するゴール前の狭いゾーンにドリブルで入り込んでフィニッシュしたボールがDFに当たったもので、実質ヴィルツのゴールだった。プレイエリアが広くて高い技術力を持ち、正確なボールコントロール、俊敏な動きでコンスタントに得点にからむ。本来、幻となったこのゴールシーンのような持ち味がある。

 リヴァプールでも献身的に足を動かし、ボールを受けるべくピッチのいろいろなポジションに顔を出すが、ここまでは0得点0アシストとゴールに絡めていない。ようやくと思ったプレイもオウンゴールとなってしまった。

 スロット監督はヴィルツがもっとも生きるポジションを探っていて、トップ下、インサイドハーフ、ゼロトップ、左ウイングなどで起用してきた。しかし、左ウイングで先発した6節パレス戦、11節マンC戦にはいずれも敗れており、こうした運用を通じて適正ポジションはより自由に動けるトップ下やインサイドハーフという答えに落ち着いたとみられる。ここ最近は3試合連続でトップ下を務めており、パフォーマンスも悪くなかった。


 このヴィルツに加えて、今季のリヴァプールは1トップの人材も代わり、新加入のウーゴ・エキティケ、アレクサンデル・イサクのどちらかが状況に応じてピッチに立つ(同時出場でエキティケが左ウイングのときもある)。要は、[4-2-3-1]の前半分、[3-1]の部分においてサラーのコンディションがあがらず、ヴィルツの生かし方も見つかっていなかった。加えて、前線もエキティケ、イサクという新加入組でチームでの醸成期間が希薄。さらには、マルチな能力を持つショボスライは日替わりでプレイするポジションが変わるという状態。

 最終ラインの両サイドにも変化があり、前述のとおり右サイドバックはケガ人が出て固定できず、左サイドバックはこれまた新加入のミロシュ・ケルケズである。いかにリヴァプールといえども、昨季からこれだけ変化があるとチーム力を維持できない。ゆえに、試合を通じるごとにひずみが出てきたということだ。

復調するか低迷するかの分岐点 サラー不在をどう乗り切る!?

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解任も囁かれるスロット監督。ここからチームを立て直すことができるか、それとも…… Photo/Getty Images

 今後のリヴァプールに関して確実なのは、エジプト代表に合流するサラーがしばらく不在になるということ。さらには、負傷していたフリンポンがすでに練習に合流しており、ブラッドリーと合わせて右サイドバックのコマが揃うということ。

 こうした状況を考えると、スロット監督はおそらく右サイドはフリンポン(ブラッドリー)+ショボスライの組合せでいくだろう。ヴィルツはトップ下で、左サイドがケルケズ(アンドリュー・ロバートソン)+コーディー・ガクポ。

ボランチにアレクシス・マクアリスター、ライアン・グラフェンベルフ。CBはフィルジル・ファン・ダイク、イブラヒマ・コナテで、GKにアリソン・ベッカー。1トップを除き、これがファーストチョイスになるだろう。

 イサク、エキティケに優先順位はなく、1トップは両名をローテーションしながら連携を高めていくしかない。エキティケは左ウイングで稼働することもあるが、この選択も連携面に関してはまだ十分ではない。攻撃陣ではシーズン序盤に好調だったフェデリコ・キエーザ、ブレイクが期待された17歳のリオ・ングモハなどをもっと起用したいところだが、そんな余裕はなくなってしまった。サラー抜きの布陣を固めるためにも、しばらくはあまり変化を加えないほうがいいかもしれない。

 いずれにせよ、今後のリヴァプールにはビッグニュースがあるだろう。浮上の気配がなければスロット監督はもうクラブに長くはいられない。チームが好転して続投となったら、アフリカ・ネーションズカップを終えたあとのサラーがどんな決断をするのか。監督との確執がクラブへの不信感にまで発展してしまうと、冬の移籍期間であるいはという流れも十分にあり得る。というか、サラー不在中に浮上するようなことがあれば、それはリヴァプールの新時代を告げるものになる。

 まだチーム離脱前にも関わらず、サラーは12月9日に行われたCLリーグフェーズのインテル戦にエントリーされなかった。そして、この試合にリヴァプールは終了間際に得たPKを決めて1-0で勝利している。「今日は私たちにとって結果を得ることがとても大事だった」。これは、試合後のスロット監督のコメントである。そこには、いろいろな意味が込められているのは間違いない。
 
文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD312号、12月15日配信の記事より転載

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