「2001年以来のスクデットを――」。ローマの街では、そんな声が少しずつ現実味を帯びて語られ始めている。


 今季からジャン・ピエロ・ガスペリーニを迎えたチームは開幕から力強く走り出し、第12節終了時点で11年ぶりの単独首位に立った。


「最少失点のチームが優勝する」と言われることが多いイタリアで、12試合を終えて6失点という堅守は、夢を語る資格がある数字だ。


 しかし、“堅い守備”だけで現状を説明するのは正確ではない。アタランタ時代の手腕をベースに、新たな色を加えつつチームを変貌させている“ガスペリーニ・マジック”の正体を掘り下げたい。

セリエA最少失点 「ローマ=堅守」なのか?

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開幕ダッシュに成功し優勝戦線に絡むローマ。11年ぶりの単独首位も経験した Photo/Getty Images

 ガスペリーニといえば、高強度のマンツーマン守備と鋭い縦への意識で名を馳せた指揮官で、[3-4-2-1]を軸に状況に応じてシステムを可変する“カメレオン”と称されてきた。


 しかし、特殊なスタイルゆえに適応には時間がかかり、ローマでも浸透には数カ月必要だろうという見立てが一般的だった。ところが、蓋を開けてみれば開幕から絶好調。第14節終了時点の失点数は8で、依然としてリーグ最少を維持している。

 だが、実際に試合を見ると「ローマ=堅守」というイメージは崩れるかもしれない。


 相手の攻撃を組織戦術で封じている印象は薄く、GKミレ・スヴィラールの神がかり的セーブに救われるシーンが多く見られる。2024-25シーズンのセリエA最優秀GKに選ばれた絶対的な守護神がいなければ、いまの数字はあり得ないと言い切れるほどの活躍だ。

 では、ガスペリーニがローマにもたらした“最初の変化”とは何か。

新監督がもたらす“能動性”と表裏一体のリスク


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能動的な守備が根付いたことで、マンチーニのインターセプト回数は飛躍的に増えた Photo/Getty Images

「相手のミスを待つのは好きではない」と語るガスペリーニは、最終ラインにも自ら仕掛けることを望む。


 象徴的なのが主将のジャンルカ・マンチーニで、得意とするインターセプト数は昨季の1試合あたり0.9から今季1.9へと急増した(第14節終了時点『SofaScore』より)。
 

 それゆえに、一発で相手に裏を取られるリスクを抱える。だが、スヴィラールが背後に構えて超人的な反応でセーブしてくれるため、問題が表面化しにくい。戦術が浸透すれば、その“綱渡り”感は徐々に薄まっていくだろう。


 そもそもガスペリーニは、堅守が売りというわけではない。実際、アタランタを率いた2024-25シーズンは第14節終了時点で2位だったが、36得点16失点の攻撃的集団だった。

 では、ローマの攻撃はどうか。こちらは、守備以上に成熟途上の段階だ。


 ガスペリーニはビルドアップの段階で相手を片方のサイドに集め、あえて密集をつくり出すことが多い。連動して局地的に数的優位を生み出して打開し、ファイナルサードで反対サイドの広大なスペースで勝負するのが一つのパターンだ。


 そのカギとなるウイングバックでは、新加入ウェズレイ・フランカが期待以上の活躍を見せている。右だけでなく左でもプレイし、攻撃の厚みを生み出す存在となった。



 マヌ・コネやブライアン・クリスタンテのパスを出したあとの動き出しが新たなパスコースを生み、個で違いを生むマティアス・スーレへとボールがつながっていく。

 しかし、ガスペリーニの攻撃を完成させる上で決定的に足りていないのがセンターフォワードだ。


 アルテム・ドフビクもエヴァン・ファーガソンも「エース」と呼ぶには成果が乏しい。


 第12節クレモネーゼ戦で初ゴールを決めたファーガソンはポストプレイでも良い兆しを見せたが、第14節カリアリ戦ではシャドータイプのトンマーゾ・バルダンツィが最前線で起用されたことからも、ガスペリーニが解決策を模索しているのが分かる。

 また、左サイドの機能不全も課題だ。コスタス・ツィミカスがウェズレイほど相手に脅威を与えられていない点も改善したい。スーレを最大限に活かすため、左に相手を寄せたいローマだが、そこが機能しないと、相手の守備につかまるだけとなる。ウェズレイを左に回す試行は、その課題への明確なアプローチと言える。

ライバルは一歩先? ローマの完成はまだこれから

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イタリアの地でも格の違いを見せつけるモドリッチ。ミラン好調の原動力となっている Photo/Getty Images

 今季のセリエAは例年以上の混戦だ。


 ミランはマッシミリアーノ・アッレグリ監督の招へいやルカ・モドリッチの加入で勝負強さを見せている。昨季王者のナポリは、選手層を厚くしたことでシーズン序盤こそ苦しんだが、アントニオ・コンテ監督が適応させた。インテルはクリスティアン・キヴ監督がシモーネ・インザーギ前監督体制の戦術を踏襲しながら自身のエッセンスも加えて好スタートを切った。

また、セスク・ファブレガス監督率いるコモは、組織的な守備とビッグクラブも注目する超才能ニコ・パスの活躍もあって、サプライズを起こしている。

 こういったほかの上位勢と比べると、ローマの完成度はまだ低い。だからこそ、開幕ダッシュに成功した意義は大きい。


 良い結果はチームの雰囲気を上向かせ、ガスペリーニの要求する高強度のサッカーに対する選手のモチベーションも保ちやすくなる。


 好位置にいれば、1月の移籍市場でクラブが指揮官の要望に応じる可能性は高くなり、センターフォワード問題が解決するかもしれない。

鍵を握るのは前指揮官!? ラニエリというクッション

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前監督ラニエリはチーム内で重要な役割を果たしていると思われる Photo/Getty Images

 ローマは、クラブもファンも熱狂的なところが強みであり、魅力だ。その反面、一度歯車が狂うと良くない方向にヒートアップしがちで、一気に崩れる脆さも併せ持つ。


 ガスペリーニの性格も似たようなもので、間違いなくイタリアを代表する名将だが、強烈な個性を持ち、頑固な性格なことでも知られる。周囲との衝突も一度や二度のことではない。


 いわば磁石の同極で、監督就任の噂が出た時点で、反発し合う可能性を危惧する声はあった。

 そのなかで重要なのが、現在アドバイザーを務めるクラウディオ・ラニエリの存在だ。昨季途中に監督に就任してチームを立て直し、さらにガスペリーニを連れてきた名伯楽は、生粋のローマっ子であり、クラブの情熱も空気感も理解している。

同時に全体を俯瞰してみる冷静さも持ち合わせており、クラブとファン、そして監督のあいだに立つ“安全弁”の役割を担える。


 これにより、ガスペリーニは落ち着いて成熟を目指せる可能性が高い。

 ローマは、まだ完成には程遠い。それでも、ガスペリーニが落とし込んだ能動性と、選手個々のクオリティが戦術の中で噛み合ったとき、このチームはさらに高いステージへ到達する可能性を秘めている。


 伸びしろと脆さ――その両方を抱えるからこそ、ローマは今季のセリエAで目が離せない存在だ。

文/伊藤敬佑

※電子マガジンtheWORLD312号、12月15日配信の記事より転載

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