リーグ優勝の可能性が高いアーセナル Photo/Getty Images
伝統の崩壊か
「かつてハイベリーで育まれたアーセナルの気品と伝統は、いまや見る影もなく崩壊している」。そう断じるのは『The Telegraph』のジョージ・チェスタートン氏だ。
さらに同氏は「勝ち点を1つ落とすたびにパニックに陥り、審判やメディアが自分たちを陥れようとしているという根拠なき陰謀論を振りかざす姿は、フットボール界の“地球平面説信奉者”と同レベルだ」と断言した。
こうした歪んだ文化の背景には、ミケル・アルテタ監督の指導スタイルがあるという。チェスタートン氏は、指揮官に感化されたクラブスタッフがファンとの間に自己陶酔的な共生関係を築き上げ、その結果、アーセナルを「サッカー界における10代の心気症患者」に変えてしまったと表現する。
象徴的な場面として挙げられるのが、マンチェスター・ユナイテッドに2-3で敗れた試合後の振る舞いだ。アルテタ監督は選手たちと“グループハグ”を交わし、その光景を「美しく、励みになるもの」と公言。クラブ施設の廊下には「我々の時代だ」といった自己啓発本さながらのスローガンが並び、実力以上に自分たちを特別な存在だと思い込ませる「モア・ザン・ア・クラブ」の幻想をファンに植え付けている。チェスタートン氏は、これこそがかつてアーセナルが持っていたストイシズムを失わせた元凶だと指摘している。
さらに、YouTubeメディア『AFTV』に代表される過激なファン層の台頭が、この無様なイメージを加速させている。昨季のチャンピオンズリーグ準決勝で披露された失笑を禁じ得ない“小さな大砲”のコレオグラフィーや、2022年に急造されたアンセムを、あたかも長年の伝統であるかのように扱う不自然さは、他クラブのサポーターから冷笑の的となった。リヴァプールやバルセロナのような重厚な歴史的背景を持たないにもかかわらず、選民意識だけを肥大化させる姿は、もはや病的ですらあると同氏は語る。
チェスタートン氏は、もし今シーズンに大きな勝利を収めることができれば、これまで巻き起こってきた一連の騒動も結果によって正当化されるだろうとしつつ「もっとも、問題はまさにそこにある」と続ける。
同氏は「ミケルには同情を覚える」としながらも「だが、もっとひどい未来もあり得る」と警鐘を鳴らす。「その最悪のシナリオとは、君たちがスパーズになることだ」。そう皮肉を込めて論考を締め括っている。
チェスタートン氏が指摘するように、ガナーズが取り戻すべきなのは空虚なスローガンではない。かつてクラブが誇っていた、誇り高い沈黙と謙虚さこそが、失われたアイデンティティの核心なのではないだろうか。

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