しかし、その心配とは裏腹にしっかり結果を残してみせる。就任1年目の昨季は2023-24シーズンに12年ぶりの無冠に終わっていたチームを見事リーグ王者へと返り咲かせた。そして、2年目の今季はより攻撃的なチームで無敗でシーズンを折り返し、首位を独走。前半戦だけで得失点差がすでに「53」という驚異的な数字も残している。また、チャンピオンズリーグでも敵地アーセナル戦こそ落としたもののその破壊力は抜群で、残りの7試合は全て勝利。危なげない戦いで2位通過し、ラウンド16へのストレートインを決めた。
バイエルンの強さの秘密はなんなのか。コンパニ戦術に迫る。
想定以上の流動性と圧倒的な攻撃力
バイエルンの指揮官として2年目に突入したコンパニ photo/Getty Images
ブンデスリーガ第21節時点で79得点、試合平均3.76ゴールと攻撃力が図抜けている。トップスコアラーはハリー・ケインで24得点、ケインはリーグトップでもある。さらにリーグ2位のルイス・ディアスが13得点、4位のマイケル・オリーセが10得点。
バイエルンの攻撃の特徴は流動性だ。ポジションの流動性は他のチームにも見られるが、いわゆるポジショナルプレイの域を出ないものが大半である。つまり誰がどこへ動くかは予め決まっている場合が多いのだが、バイエルンはもっと自由度が大きい。動き方が決まっていないわけではないが、幅と不規則性が大きすぎてもはやポジショナルプレイの枠に収まっていない。
例えば、ゴールキックからのビルドアップに対して、守備側がマンツーマンでプレッシングすることが近年多くなった。それに対する攻撃側の打開策の1つとして、CFを下げる方法が使われている
「偽9番」というより、もっとはっきりとDFの近くまで下がる。するとマンツーマンの守備側はCBがどこまでCFについていくかという問題が生じる。ついていけば守備バランスが大きく崩れる。しかしついていかなければCFがフリーになってしまう。どこかでMFとマークを受け渡す手はあるが、マークが曖昧になった瞬間にCFにパスが入ってしまうリスクがある。
この下がるCFの役割には適性があるので、誰がやっても上手くいくというわけではない。マークにつかれてもパスを受けて失わない能力が必要だ。フリーだった場合、そこから攻撃を構築するセンスが問われる。パリ・サンジェルマンではウスマン・デンベレがこの役割をこなしているが、バイエルンにもおあつらえ向きのケインがいるわけだ。
しかしバイエルンが特異なのは、ケインだけではなくトップ下のセルジュ・ニャブリも引いてくることがあるのだ。下がるCF×2。最前線から1人が下がるのは相手もある程度想定している。CBがつききるか、受け渡すならどうするかは決めている。
ところが、2人となると話は違う。CBが2人とも敵陣までマークにつくことはほぼない。最後尾の中央ががら空きになってしまうからだ。他の選手がカバーするにしてもCB適性があるとはかぎらず、困惑の度合いは引いていくCFが1人か2人かで大きく変わってくるわけだ。
ボールの動きとともに多発する即興のポジションチェンジ
攻撃面で圧倒的な数字を残しながら守備面でもしっかりチームに貢献。ディアスは現代サッカーにおいて最も重宝されるアタッカーのひとりだ photo/Getty Images
バイエルンのビルドアップは2人のCBの間、または横にMFが引く3枚回しでスタートする。ダヨ・ウパメカノとヨナタン・ターの間にジョシュア・キミッヒが引くといった具合だが、これ自体は多くのチームがやっていることで珍しくはない。
最後尾が3人になるのに連動して両SBは高い位置へ移動する。その際、大外に張るか1つ内側のレーンに入るか。SBのポジショニングはウイングと連動していて、SBが外ならウイングは中、SBが中ならウイングは外が原則だ。中央のボランチは1人が下がるので、もう1人はアンカーポジションに入る。最前線にはCFのケインとトップ下。形としては2トップに近い。
敵陣に押し込んだときには、左右のサイド、ハーフスペース、2トップが前線に出る6トップのようになる。ただ、6人全員が前線に貼りつくわけではなく、隣同士は同じ高さで横並びにはならない。例えば、ケインがインサイドハーフの位置に下がると、相方のニャブリ(またはレナート・カール)はトップに出る。
というのも、バイエルンの流動化はボールとともに起こるからだ。ボールとともに人が動き、その人の動きに連動して周囲の流動化が起きている。例えば、ルイス・ディアスが左サイドから中央のケインにパスして中へ入っていくなら、空いた左外のスペースにはSBが上がる。これはごく当たり前の連動だが、パスと動きが続いていくことで流動化が進み、最初の状態から大きく変化していく。
単純なポジションの入れ替えではなく、それがボールの動きとともに多発していくので、守備側は対処が難しくなるわけだ。もちろんパスがつながることが条件。攻撃が流動化しているので、バイエルンは必然的に守備も流動化する。
ケインが左SBの場所で守っているというケースもしばしば起きている。CBだけは固定的だが、他はすっかりポジションが入れ替わったまま守備をしている状況も起きる。
一方、79得点は二番目のホッフェンハイムの44得点とは35点もの開きがあり、守備面のリスクはあっても攻撃面のメリットがはるかに大きい。また、ポジション変化による脆弱性もさほど顕在化しておらず、選手個々の攻守のレベルの高さ、フィジカルの強さでカバーできている。
トータルフットボールの発展形 止まっていた戦術進化が動き出す
現在のバイエルンは流動的にポジションを変えるため、攻撃面で圧倒的な数字を残すドリブラーのオリーセですら守備への意識が高い photo/Getty Images
攻撃における流動性は歴史的にスーパーチームのトレードマークだった。1940年代に「ラ・マキナ」と呼ばれたリーベル・プレート、50年代のハンガリー代表(マジック・マジャール)、そして74年W杯のオランダ代表、82年ブラジル代表......。とくに74年オランダは現代サッカーの原型だった。前進守備(プレッシング)とそれに伴うディフェンスラインの押し上げによるコンパクトネス、攻撃のトライアングル形成と流動性はあまりに先進的で「トータルフットボール」と称賛された。
リヌス・ミケルス監督がこのプレイスタイルをアヤックスで作り始めたころ、同じようなアイデアを持った指導者は他にもいて、その1人がディナモ・キエフやソ連代表、ウクライナ代表監督を務めたヴァレリー・ロバノフスキだ。
ロバノフスキは「トータルフットボールは74年オランダで完成した」と述べ、「今後はユニバーサルフットボールへ向かう」と話していた。ユニバーサルフットボールとは、「例えばアンドリー・シェフチェンコをSBに起用することはないが、SBのポジションにいたらSBのように守れなくてはならない」ということらしい。
ポジションが流動化した後の、選手のオールラウンド適性を課題としてあげていたわけだ。
かつて、バルセロナは「ティキ・タカ」による流動的な攻撃で一世を風靡した。ただ、あのバルセロナはポジション流動性よりもボールを動かすことの意味の方が大きかった。トータルフットボールがそのままユニバーサルフットボールにならなかったのは、ゾーンディフェンスの区分けが浸透して、ポジションは流動化ではなく固定化へ向かったからだが、ティキ・タカはゾーンの規則性を逆手にとって崩壊へ追い込んでいる。
ヨハン・クライフの言ったように「ボールは人より速い」特性を利用し、ボールを動かすことでゾーンを操って機能不全にした。ティキ・タカは結果的に流動性があったが、人の動きよりもボールを動かす方がはるかに重要だった。
その点、バイエルンはバルセロナよりもトータルフットボールに近い。ポジショナルプレイの浸透にともなってマンツーマンの守備が増加した背景があると思う。人に意識が強いぶん、流動性に効果がある。完全なゾーンならば、ポジションの流動性にさほど影響は受けない。守備戦術が70年代風になったために、途切れていたトータルフットボールの流れがつながったということなのだろう。
文/西部 謙司
※電子マガジンtheWORLD314号、2月15日配信の記事より転載

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