ようやくピッチに立ったのは、11節フライブルク戦。83分に交代出場し、左SBのポジションに入った。すると、直後の84分に精度の高いロングパスを右ウイングのマイケル・オリーセに出し、得点をもたらした。復帰直後に記録したアシストであり、ヴァンサン・コンパニ監督やチームメイトの信頼を得るのに十分なワンプレイだった。その後はCBやSBで5試合に先発し、交代出場も4試合ある。19節アウクスブルク戦ではCKから今季初ゴールも奪っている。絶対王者のなかで、伊藤はそのユーティリティ性を活かして攻守両面で勝利に貢献している。
3度の骨折を経て復帰 手薄な左SB、CBを埋める
3度の負傷から復帰した伊藤は左SB、CBで出場を重ねている。19節アウクスブルク戦ではオリーセが蹴ったCKに頭で合わせて今季初ゴールをマークした Photo/Getty Images
2024-25にバイエルンが伊藤洋輝を獲得したのには、明確な理由があった。ダヨ・ウパメカノ、キム・ミンジェ、エリック・ダイアー。当時はCBを本職とする選手が3人しかおらず、最終ラインならどこでもこなすヨシプ・スタニシッチはまだしも、レオン・ゴレツカがCBを務める試合もあったほどだ。
人手不足なだけではなく、多くの試合でコンビを組んだウパメカノ、キム・ミンジェの両名はどうも安定感がなく、とくに後方に蹴られたボールの処理に難を抱えていた。
伊藤が加わった昨季のバイエルンは、こうしたチーム事情にあった。だからこそ期待が大きかったが、シーズン開幕前の7月下旬に行われたトレーニングマッチで右足の中足骨を骨折してしまった。そして、ここからリハビリ→復帰→再負傷→リハビリという負のサイクルに陥ってしまった。
最初に復帰したのは同年11月で練習を再開していたが、ふたたび中足骨を痛め、再手術となってしまった。ようやくバイエルンでデビューしたのは2024-25の22節レヴァークーゼン戦(2025年2月15日)で、左SBで先発した。この時期は本来左サイドでプレイするアルフォンソ・デイビスもケガをしており、CBや左SBができる伊藤の復帰が待望されていた。ちなみに、この試合での最終ラインの並びは左から伊藤、キム・ミンジェ、ウパメカノ、コンラッド・ライマーだった。
続く23節フランクフルト戦でも左SBで先発し、CKからのルーズボールを押し込んでバイエルンでの初ゴールをマークした。その後も左SBで先発したり、交代出場でCBを務めたりと順調に出場を続けていた。しかし、またも右足中足骨を骨折し、27節ザンクトパウリ戦を最後に戦線離脱することとなった。
再発を繰り返していたこともあり、ここからのリハビリは長く、2025-26が開幕しても伊藤はプレイできる状態ではなかった。
安定感抜群のターの加入は大きく、今季のバイエルンはウパメカノ、ターの両名がCBを務める[4-2-3-1]を基本布陣にしていて、この2人が21試合中12試合に先発している。キム・ミンジェが先発したのは8試合で、伊藤が復帰するまでDFB杯、CLも含めてこの3人以外がCBで先発した試合はなかった。
今季のバイエルンはCBのポジションよりも、デイビス、伊藤が負傷離脱していることで左SBの人材がいなかった。スタニシッチ、ライマー、トム・ビショフなどが務めてきたが、スタニシッチは複数のポジションで稼働するマルチロールで、ライマーはどちらかというと右サイドの選手だ。ビショフも中盤の選手で、いわば本職ではない選手たちが左SBを務めてきたことになる。
CBを3人でまわしていて、本職の左SBがいない。こうした状況だったところに、11節フライブルク戦でCBと左SBをどちらもこなす伊藤が復活した。3度の骨折を経てピッチに戻ってきた伊藤は、そこからコンパニ監督の期待に応えるパフォーマンスをみせている。
いよいよエンジン全開か CLではついにフル出場
伊藤は11節フライブルク戦で今季初出場を飾り、精度の高いロングパスで1アシストを記録した Photo/Getty Images
バイエルンはブンデスリーガにおいて相手に主導権を握られる試合はほぼなく、押し込んでいる時間が長い。伊藤が復帰した11節フライブルク戦は先に2点をリードされたが、83分にアレクサンダル・パブロビッチに代わってピッチに立ったときにはすでに4-2と逆転済みだった。この日はビショフが左SBを務めていたが、交代出場した伊藤が同ポジションに入り、ビショフはパブロビッチが務めていたボランチに移った。
伊藤は復帰しただけではなく、左サイドから精度の高いロングパスを右ウイングのオリーセに出し、1アシストを記録した。近くに相手はいたが身体を寄せてくるわけではなく、ノー・プレッシャーで出したパスだったが、ビタッとオリーセの足元に収まる見事なキックだった。守備だけでなく、こうした高精度のボールを蹴れるのも伊藤の特長だ。得点を見届けたベンチ前のコンパニ監督はニヤッと嬉しそうな表情をみせており、ゴールもそうだが、伊藤の正確なロングパスを喜んでいるようだった。
続くザンクトパウリ戦は出場がなかったが、13節シュツットガルト戦は83分にウパメカノと交代でピッチに入り、CBを務めた。コンビを組んだのはキム・ミンジェで、伊藤が左CB、キム・ミンジェが右CBとなり、残り時間をしっかりとゼロで抑えている。
すると、コンパニ監督は14節マインツ戦の先発CBを伊藤、キム・ミンジェとした。最終ラインの並びは左からビショフ、伊藤、キム・ミンジェ、スタニシッチで、今季はじめてター、ウパメカノの両名が先発から外れた試合となった。さらに、この試合ではデイビスが途中交代で長期離脱から復帰。後半途中に3枚交代が行われ、最終ラインは左からデイビス、キム・ミンジェ、スタニシッチ、ライマーとなった。結果は2-2だったが、いろいろ試運転できた一戦となった。
その後の伊藤は15節ハイデンハイム戦には左SBで先発し、73分までプレイしてデイビスと交代。16節ヴォルフスブルク戦は77分にウパメカノに代わってピッチに入り、CBを務めた。コンビを組んだのはターで、伊藤&ターのCBで戦うのははじめてだった。とはいえ、交代出場した時点で6-1とリードしており、難なく試合を終えた。
ここまでくるとすでにコンパニ監督のなかで伊藤の評価はかなり高く、17節ケルン戦では左SBで先発となった。バイエルンのSBは高いポジションを取ること、縦はもちろん、斜め前方に動いて中盤に加わってビルドアップにからむことが求められるが、伊藤も長短の正確なパス、的確なポジション取りで攻撃にからんだ。1-1で迎えた71分にはショートコーナーからディアスがファーサイドに送ったクロスに頭で合わせ、ゴール前にいたキム・ミンジェのゴールをアシストしている。
18節ライプツィヒ戦、19節アウクスブルク戦も左SBで先発し、アウクスブルク戦ではオリーセが蹴ったCKに高い打点で合わせてヘディングで今季初ゴールをゲット。競り勝った相手は身長194センチのCBで、駆け引きのうまさが際立った一発だった。
バイエルンに加入後、ケガでなかなかプレイできなかったが、いまは左SB、CBで出場を重ねている。CLでも段階を踏んで出場時間を伸ばしていき、リーグフェーズ最終戦のPSV戦では左SBでついにフル出場している。ブンデスリーガではまだ90分プレイした試合はないが、厳しい戦いが増えてくるシーズン終盤を前に、伊藤がどんどんコンディションをあげているのはバイエルンにとって大きなプラスだと言える。
伊藤、デイビスの共存も可能 バイエルンは“幅”が広がった
伊藤はどんどんプレイ時間が増えている。CLリーグフェーズの最終戦、PSV戦ではついにフル出場を果たした Photo/Getty Images
伊藤の復帰だけがバイエルンにとって明るいニュースではない。時期を合わせるようにデイビスが十字靱帯断裂からカムバックし、こちらも徐々に出場時間を増やしている。さらには、ポジションは違うがジャマル・ムシアラも腓骨骨折の大ケガから戻ってきた。「デイビス、ムシアラ、伊藤などが戻ってくると選手層が厚くなる。3人の復帰はうれしい。準備万端という感じになる」とは12月時点でのコンパニ監督のコメントで、現在はその3人が復帰した状態にある。
実際、コンパニ監督は伊藤、デイビスの復帰を受けて、最終ラインの組合せをいろいろと試している。前述した14節マインツ戦は左からビショフ、伊藤、キム・ミンジェ、スタニシッチでスタートし、後半途中からデイビス、キム・ミンジェ、スタニシッチ、ライマーとなった。ビショフ、R・ゲレイロも入れるとシーズン開幕当初よりSBやCBで稼働する選手が多く、組合せの種類も増えている。
驚きだったのは19節アウクスブルク戦で、左から伊藤、キム・ミンジェ、ター、デイビスという最終ラインでスタートした。左利きのデイビスは左サイドのスペシャリストで、中盤左のサイドアタッカー、左ウイングでプレイすることはあっても、右サイドで起用されたことはこれまでなかった。
デイビスが右でいければ、左に伊藤、右にデイビスという同時起用ができる。しかし、実際はこの配置は難しく、アウクスブルク戦では61分という早い段階でデイビス→キミッヒという選手交代が行われている。伊藤、デイビスを同時にピッチに立たせるのであれば、伊藤がCB、デイビスが左SBとなるのが通常だと考えられる。
これまでのところ、この並びになったのは短い時間しかない。21節ホッフェンハイム戦でデイビスが左SBで先発しているところに、ターに代わって伊藤が入り、CBを務めている。左からデイビス、伊藤、ウパメカノ、スタニシッチという並びになったが、その後にデイビスが交代で退いたためこの組み合わせで戦った時間は20分もなかった。しかし、共存は可能だと示した時間でもあった。
CBのコンビについても、ター、ウパメカノ、キム・ミンジェの3人で先発はまわしていたが、伊藤が加わったことで選択肢が増えている。バイエルンと戦う相手はだいたい前線にひとりを残すが、ここにどちらかのCBが厳しくチャレンジし、もうひとりのCBがカバーするのが徹底されている。
伊藤はこうした狙いを忠実に実行できるタイプで、チャレンジするときは相手の1トップを徹底的に追いかけ、相手陣内の中ほどにポジションを取るときもある。左SBでもCBでも、求められる役割をしっかり果たせるのが伊藤の持ち味で、誰と組んでも特長を発揮できる。抜群のユーティリティ性を備えた伊藤の復帰でバイエルンはチームとしての“幅“が広がったと言える。
文/飯塚 健司
※電子マガジンtheWORLD314号、2月15日配信の記事より転載

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