かつて中央アジアから東ヨーロッパにかけて発達した交易路「シルクロード」周辺には、日本ではあまり知られていないが、実は“超”がつくほどの親日国家が3つある。それはトルコ、キルギス、ウクライナだ。
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■「日本人に謝りたい……」“隠れ親日国家”ウクライナ
まずはウクライナを見てみよう。東ヨーロッパに位置するウクライナは、今回紹介する他の2国とは異なり、地理的にシルクロードから若干離れている。かつては旧ソビエト連邦の構成国であり、人口の約8割をウクライナ人が占める。美しい女性が多い「美女の国」としても知られている。
今回紹介する3国のうち、「親日国」としては、日本人の間でもっとも知られていない国だろう。だが、ウクライナの国民は実によく日本の事情を知っている。それもそのはず、この国の教育現場では、日本との友好を深めるために教科書で松尾芭蕉や川端康成が紹介されたりもしている。
ウクライナに住むユダヤ人の間には、ある不思議な言い伝えがある。元帝京大学教授の高山正之氏が、自身の体験を『週刊新潮』の連載「変見自在」に綴っている。それによると、かつて高山氏は米国でタクシーに乗っていた時、いきなり運転手から「日本人に申し訳ないことをした」と謝られた。
このような“兄弟伝説”が、ユダヤ人以外のウクライナ人の間にも一般に浸透しているかどうかは定かではない。しかし少なくとも、日本ではほとんど知られていない“隠れ親日国家”であるとはいえそうだ。
■顔立ちも言葉も日本人ソックリ!? キルギス人
キルギスは、中央アジアに位置する旧ソビエト連邦の共和制国家だ。人口の70%以上を占めるキルギス人(キルギス族)は、後述するトルコと同じテュルク系民族だ。このキルギス共和国にも、ウクライナ同様の言い伝えがある。『日本の中のユダヤ文化』(久保有政著、学研)によると、昔むかし2人の兄弟がいて、1人は山の方へ向かってキルギス人の祖先となり、もう1人は海の方へ向かって日本人となったのだという。
さらに、この言い伝えには次のような別パターンもある。かつて、キルギス族がバイカル湖の近くに住んでいた頃、とある兄弟がいた。魚が好きな兄は東へと旅立ち日本人の祖となり、肉が好きな弟は西へと進んでキルギス族の祖となった――。これはまるで、日本の神話「海幸彦と山幸彦」のようではないか。
また、キルギスに伝わる『マナス叙事詩』という長編の口承叙事詩があるのだが、ここに登場する英雄のマナスという人物は、『旧約聖書』に登場するマナセ族の父祖・マナセと共通する部分が多い。こうしたことから、キルギス族のルーツについて「古代イスラエルの失われた10支族」の末裔だとする説もあるのだ。
今回紹介する3国のうち、外貌からすると日本人と同じルーツをもつ可能性がもっとも高そうに思えるのが、このキルギス人だ。後述するトルコ人と同じくテュルク系民族とされるが、実際はとても東アジア人的な顔立ちをしているのだ。日本社会に混じって生活しても、外国人であると見抜かれないような容貌をした人が非常に多い。実際、日本人がキルギスへ行くと、キルギス人と間違われてキルギス語で話しかけられたりすることも多いそうだ。
キルギス語には、日本語と共通する単語が数千もあるといわれる。言葉も顔立ちも日本人とそう変わらないとなれば、やはり、日本人のルーツの一部がキルギス族と同じだとしても不思議ではないかもしれない。
■国旗でわかる日本とトルコが兄弟である証拠
さて、最後のトルコだが、この国は“世界一の親日国家”だという指摘も多い。トルコで「世界で一番好きな国は?」という世論調査をすると、常に日本が1位になるという。
さらに両国の国旗が、ちょうど明け方の白い空に昇る太陽をモチーフとする“日の丸”と、夕暮れの赤い空に傾く月をモチーフとする“新月旗”であることを対比して、「仲の良い兄弟がモンゴル高原で別れ、太陽を追いかけて東に行った方は日本を建国し、月を追いかけて西に行った方はトルコを建国した」という話もあるようだ。つまり、トルコ人の多くは、中央アジアの草原を駆け回っていた騎馬遊牧民族こそ自らと日本人に共通する祖先だと信じているのだ。そして、トルコ人とキルギス人のルーツも一部共通するといわれている。これは、ますます真実味が増してくるではないか。
それにしてもトルコ人たちは、本当にそこまで日本と日本人が好きなのだろうか? ある日、その疑問を確かめるために筆者はフェイスブック上の友達である美女、スメイイエ・トパロールさんに取材してみた。
――トルコ人と日本人のルーツがどこかで繋がっているという話に興味があります。
スメイイエ 私の知り合いの日本人のおじさんは、そういうことをよく知っていましたけど、亡くなりました。おじさんから、日本人のルーツは3つのルートがあると聞きました。そのうち1つは、トルコ人のルーツと同じだと。
――シルクロードの他の国にも、とある兄弟が東と西に分かれ、東に行った者が日本人になったという、よく似た伝説があるようです。
スメイイエ イヌイットたちも同じルートから枝分かれしたそうです。寒いところに行った兄弟だと。それにトルコ語には、日本語と同じような言葉もありますよ。
――同じ言葉? 私は以前、トルコ人と一緒にシステムエンジニアとして仕事をしていました。そういえば彼は、外国人訛りのない美しい日本語を話していたのですが、トルコ語と似ているから簡単だと言っていました。
スメイイエ 同じ単語がたくさんあります。文法も似ています。
日本語とトルコ語によく似た単語が多いことは、あるトルコ人の論文でも指摘されている。たとえば、トルコ語の「アチ(aci)」は日本語の「味」、「ワル(var)」は「在る」、「ジジク(cicik)」は「乳」、「ハラ(hara)」は「原」、「ナシ(nas)」は「無し」、「ヤマチ(yamac)」は「山」というように、音も意味も類似する単語が非常に多いという。
スメイイエさん自身も日本文化に非常に造詣が深く、以前から日本語を勉強してきた。前述のインタビューも、チャットを通して彼女がひらがなで入力する形で行ったものだ。とりわけ日本で過去に流行した歌が好きなようで、いつかは日本へ行きたいと語っていた。
■単なる仮説では済まされない! さらなる調査を
さて、このように日本との“兄弟伝説”が、地理的にも文化的にも異なる3つの国で言い伝えられてきたことは非常に興味深い。シルクロードは、古くからユダヤ人の商人などが旅したルートでもあった。伝説の元となる何かしらの事実が、果たして存在したのだろうか。
かつてウクライナ出身のユダヤ人で、ヨセフ・アイデルバーグという人物がいた。彼は「古代イスラエルの失われた10支族」が世界のどこへ消えたかを調査していたが、ある時、アラビア半島バハラ地方に暮らす少数ユダヤ人の言い伝えを知った。それによると、「古代イスラエルの失われた10支族」は囚われの身となってアッシリア帝国から逃れ、東の方へとさまよい、長年アジア大陸を放浪した後で、最後に「中国の彼方にある神秘の国」に定着したというのだ。アイデルバーグは独自に調査を行い、その最大の候補地を日本と特定し、10支族の末裔を探すために来日した。日本に住み、京都の神社の見習い神官として仕えたこともあり、生涯を日本に渡来した10支族の研究に捧げた。彼の研究によれば、ひらがなとカタカナはヘブライ文字を元に作られたものであり、日本語とヘブライ語には音と意味が類似する単語が数千もあるという。その研究成果は『日本書紀と日本語のユダヤ起源』(徳間書店)などの著書として出版されているため、興味のある方は手に取ってみるとよいだろう。
日本とトルコの共通点として前述した「言葉」について掘り下げるならば、トルコ語は「アルタイ諸語」に属するが、日本語もこれに含める説もある。つまり、それだけ本当によく似ているということだ。
トルコ人は人種的には白人に近く、日本人とまったく似ていないではないかという意見もある。だが、トルコ人は歴史を通じて様々な民族との交流があり、コーカソイド(白人)を含めてさまざまな民族の血が混ざっていったとされるのだ。
今回紹介した3国の“兄弟伝説”を単なる仮説として切り捨てることはできないように思われる。「古代イスラエルの失われた10支族」と日本との関係も含めて、さらに探求する価値はあるだろう。
(文=百瀬直也)
※イメージ画像:「Thinkstock」より