作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。
12月28日(日)の放送は「村上RADIO~ブライアン・ウィルソン・メモリアル~」をオンエア。
今年6月に亡くなったブライアン・ウィルソンの豊かな音楽性と波乱万丈の人生を、ソロ活動時代の名曲とともに振り返りました。番組では、あえてビーチボーイズ時代のヒットソングは取り上げず、ソロ時代のブライアンの音楽のみを村上さんの選曲でお届けしました。独学のピアノから生まれた美しい楽曲や、孤立と苦悩の時期があったからこそ生まれた深みのある楽曲、あまり世に知られてはいない村上さんのお気に入りの曲などを紹介しながら、ブライアン・ウィルソンの音楽人生をたどりました。
この記事では、中盤3曲について語ったパートを紹介します。

村上春樹が推す「ヒットしなかった名曲」ブライアン・ウィルソン...の画像はこちら >>

村上RADIO



◆Brian Wilson「Melt Away」
次に1995年にDon Wasがプロデュースしてつくった『I Just Wasn't Made For These Times』から「Melt Away」を聴いてください。あまり知られていない曲ですが、隠れた名曲というか、僕は個人的に気に入っています。

これ、素晴らしい曲だと思うのですが、この曲もさっきの「Love And Mercy」も世間的にはあまり注目されず、ヒットチャートには、かすりもしませんでした。レコード会社があまり熱心にプロモートしなかったということも、その原因のひとつかもしれませんね。気の毒です。「Love And Mercy」とほとんど同時期にリリースされた、ブライアン抜きのビーチボーイズが歌った「ココモ」なんて、そんな大した曲じゃないのに、映画主題歌として派手に宣伝されて、全米チャートの1位を取っています。そりゃブライアン、がっかりしちゃいますよね。にゃーお(猫山)

◆Brian Wilson「Your Imagination」
◆Brian Wilson「Lay Down Burden」

僕が人生で最初に聴いたビーチボーイズの曲は「サーフィンUSA」、1963年くらいだったかな、まだ中学生のときです。
ラジオで聴いて、一瞬でぶっ飛びました。こんな音楽これまでに聴いたことないぞ!みたいな感じでね。少しあとでビートルズの『Please Please Me』を初めて聴いたときも同じくらいぶっ飛んだけど、個人的にはビーチボーイズのほうが肌に合っているような気がしました。
以来『ペット・サウンズ』くらいまでは熱心に彼らの音楽を聴いていたんだけど、そのあとラジオでは彼らの曲はあまりかからなくなり、僕も1960年代後半にはストーンズとかドアーズとかジミヘンとか、そのへんを興味深く聴くようになって、ビーチボーイズにはちょっとご無沙汰していた時期がありました。でも今になってその時期の彼らの音楽をあらためて聴いてみると、ぜんぜん悪くないんですね。ブライアンはストレスフルな状況の中でベストを尽くしているし、その才能はしっかり健在です。ただ内面的になりすぎて、時代のダイナミックな流れに同調できなかっただけで……。僕としては「あまり熱心に聴かないで悪いことしちゃったなあ」と、あとになって反省しております。

1998年に発表したアルバム『Imagination』から2曲聴いてください。「Your Imagination」と「Lay Down Burden(心の重荷を下ろして)」です。このアルバム、僕は好きです。ウィルソンの声は長年にわたる不摂生のために、若い頃の張りを失っていますし、売り物だった美しいファルセットも出なくなっていますが、でも人生の年輪みたいなものがそれを補っています。
まあ僕らとしては、ブライアンが健在で、新しいアルバムを発表してくれるだけで嬉しかったんですけどね。はっきり言って、ブライアンが音楽家として復活を遂げるとは、ほとんど誰も予期していなかったんじゃないかな。もちろん期待はしているんだけど、まあもう無理だろう、とね。彼は一時期、世捨て人のような、世間から孤立した生活を送っていましたからね。でもそんな大方の予想に反して、彼は奇跡的に再生を果たします。
そんな再生したブライアンの音楽を2曲続けて聴いてください。
「Your Imagination」と「Lay Down Burden」。

<番組概要>
番組名:村上RADIO~ブライアン・ウィルソン・メモリアル~
放送日時:12月28日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/
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