作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。
3月29日(日)の放送は「村上RADIO~ジャズで聴くクラシック音楽~」をオンエア。
今回の放送は、ショパンとバッハを中心に、クラシック音楽をジャズアレンジで聴く、村上RADIOならではの特集。村上さんが選んだ、とっておきの「ジャズ+クラシック」をお届けしました。
この記事では、前半3曲について語ったパートを紹介します。

村上春樹「仕事が捗るのはCDじゃなくて、決まってアナログLP...の画像はこちら >>

「村上RADIO」



◆Gerry Mulligan「Prelude In E Minor」

この前、「ラジオネームがお年玉」の回に読み残したメールをひとつ読みますね。

おさるのツヨシさん(33、男性、埼玉県)
「村上さんこんばんは、ラジオも小説もいつも楽しみにしております。私は最近、虚ろな人生の足しになるかと考え、チェロを習い始めました。つきましては、始めるにあたり購入した中古のチェロに小粋な名前をつけてやってもらえないでしょうか。彼(彼女?)はYAMAHAの電子チェロで、ヘッドホンやアンプに接続できちゃいます。よろしくお願いいたします」

チェロ、いいですね。がんばってものにしちゃってください。「虚ろな人生」の足しになるといいんですけどね。僕は我慢が足りない性格なのか、これまで手にした楽器は何ひとつものになりませんでした。
おかげで人生はそこそこ虚ろです。
あなたのチェロには「松林どんぐり」というラジオネームを差し上げます。どうして松林にどんぐりが落ちるのか、そのへんは不明ですが。
     
ショパンを続けていきます。「前奏曲第4番」ホ短調、有名なメロディーです。これをバリトンサックスの王者、ジェリー・マリガンが演奏します。タイトルはそのまんまというか「Prelude In E Minor」。バリトンサックスの音色がしっくり心に浸みます。アルトサックスやテナーサックスでは、たぶんこういう味わいは生み出せなかったんじゃないかな。



僕はだいたいいつも朝早く、まだ暗いうちに目覚めて、そのまま仕事机に向かうのですが、その前にコーヒーを温めて、レコードをターンテーブルに載せます。で、その時刻にはいつもクラシック音楽を聴きます。それもCDじゃなくて、決まってアナログLPです。
どうしてCDじゃなくて、アナログなのか? 
経験的に言って、そのほうが、仕事がいくぶん捗るからです。どうしてそうなるのか? どうしてでしょうねえ。

◆Maria João Pires「24の前奏曲 作品28 第4番 ホ短調」
◆Antônio Carlos Jobim「How Insensitive」


ショパンの「前奏曲第四番」ホ短調、もうひとついきます。アントニオ・カルロス・ジョビンが演奏する「How Insensitive」(なんて僕は鈍感だったんだろう?)。この曲はショパンのメロディーをそのまま流用しているのではないし、作曲者もアントニオ・カルロス・ジョビンとしっかりクレジットされていますが、でもイントロといい、全体の曲調といい、明らかにショパンの「前奏曲第4番」から着想を得ていますよね。まずマリア・ジョアン・ピリスさんが原曲を演奏し、それからジョビンの演奏に移ります。どこが似ているか、どこが違うか、じっくり聴き比べてみてください。
   


僕が朝に仕事をしながら書斎で聴く音楽は、だいたい室内楽かバロック音楽が多いですね。大オーケストラみたいなのはあまり聴きません。朝は小編成の静かな音楽のほうが仕事がしやすいですから。いちばん頻繁に聴く音楽というと、やはりバッハの平均律あたりかなあ。聴き飽きしませんしね。
モーツアルトのバイオリン・ソナタなんかもよく聴きます。
どうしてCDよりアナログLPを聴いているほうが仕事がより捗るのか、ということでしたね。それはたぶん音色(おんしょく)のせいだと思います。出てくる音の肌あたりがアナログのほうが微妙に優しいっていうのかな。そういう感触があるんです。あくまで個人の感想ですが。

<番組概要>
番組名:村上RADIO~ジャズで聴くクラシック音楽~
放送日時:3月29日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/
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