ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみがパーソナリティを務めるinterfmのラジオ番組「NY Future Lab」(毎週水曜日18:40~18:55)。ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみが、ニューヨークZ世代の若者たちと一緒に、日本も含め激動する世界をみんなで見つめ、話し合います。
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9月3日(水)のテーマは「アメリカで差別が復権? あのジーンズCMはなぜ“人種差別的”なのか?」。全米でニュースになったアメリカン・イーグルのジーンズの広告の大炎上と、その背景にあるものを探っていきました。

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※写真はイメージです



◆「炎上クイーン」シドニー・スウィーニーってどんな人?

アメリカのZ世代の間で「炎上クイーン」とまで呼ぶ人もいる人気女優であり、現代のセックスシンボルとも呼ばれるシドニー・スウィーニー。彼女がモデルを務めたアメリカン・イーグルのジーンズの広告が大炎上しました。炎上の理由は「メッセージが差別的だから」。しかし、CMへの反応は数年前のアメリカとは明らかに違います。いったい何が変わったのでしょうか?

まずは話題の人物、シドニー・スウィーニーってどんな人なのか、ブレイクしたきっかけはなんだったのか? 「炎上クイーン」ならではの他の炎上案件も含め、ラボのみんなに教えてもらいましょう。

ノエ:シドニー・スウィーニーがブレイクしたきっかけは、ゼンデイヤ主演の『ユーフォリア』というヒットドラマ。スウィーニーは問題を抱えた高校生役で、薬にハマって転落していく役だったよね。舞台はゴシップだらけの高校で、イケメンスポーツ選手や派手な女子グループも出てくる。そのドラマを通してスウィーニーが「現代のセックスシンボル」的存在になっていったんだよね。


ヒカル:最近、シドニー・スウィーニーって本当にどこにでも出ているよね。

テオ:オファーされた広告は全部受けているんじゃないかな? セフォラ(海外コスメの人気ショップ)に行ったら、彼女の顔がプリントされた違う商品が5種類くらいズラっと並んでいたし。

ミクア:あと「バスウォーター・ソープ騒動」もあったよね。

テオ:「このバスウォーター・ソープには、スウィーニーがお風呂に入ったときの湯水の一滴(風呂の残り湯)が入っています」ってキャッチコピーだったやつね。

ミクア:ここまで人気が出た理由のひとつは、彼女自身が自分をめちゃくちゃセクシーに売り込んでいるからだと思う。バスウォーター・ソープもそうじゃない。でも、実際に「彼女のお風呂の水入りソープ」を買う人がいて、しかも売り切れたのは正直ちょっと気持ち悪いな。

ノエ:でも僕は逆にギャグとして面白いと思った。本人もきっと「ワハハ、バカどもが私の体に触れた水の一滴に大金を払っているよ!」って笑っていそう。

ゼンデイヤが主役のヒットドラマ「ユーフォリア」をきっかけに、現代のセックスシンボルに上り詰めたシドニー・スウィーニー。たくさんのCMの他、この春は自分のお風呂の水を入れたバスウォーター・ソープを発売し、SNSで炎上しましたが商品は大ヒットして完売。

でも、それとは比較にならないくらいの大炎上になり、いまだに論争が絶えないのが、この夏のアメリカン・イーグルのジーンズの広告です。


アメリカの炎上クイーン「優良な遺伝子CM」で批判殺到 大炎上中のデニム広告の背景にあるものとは?

(左から)ミクア、シェリー、ヒカル、ノエ、シャンシャン、メアリー/©NY-Future-Lab



◆ジーンズ広告の大炎上は「Wミーニング」にあり?

テオ:CMの「私はいいジーンズを持っている」というセリフ。このジーンズって、実は同じ発音で遺伝子という意味の「ジーンズ」にかけているんだよね。つまりジーンズと遺伝子の言葉遊びで、「私は良い遺伝子を持っている」というふうにも聞こえるわけ。

これが彼女の「私は青い目で痩せていて美人」という自己演出にもなっていて、それが「白人の遺伝子の方が優れている」というメッセージを出していると大批判されたんだよね。

でもさ、あのバスウォーター・ソープもジーンズも、わざと物議を醸してバズらせる作戦じゃない? 人が怒ったり議論すればするほど、彼女にも企業にも商品にも注目が集まる。だから「うわ~」って話している時点で、もう無料で宣伝してあげているようなもんだよ。

メアリー:あと、彼女とよく比較されるのが、サブリナ・カーペンターね。二人とも金髪で青い眼だけど、売り方が真逆なんだよね。「シドニー・スウィーニーは男性の視線向け」で逆に「サブリナ・カーペンターは女性の視線向け」。

スウィーニーは共和党員だし、彼女のお母さんの誕生日パーティーも白人至上主義っぽいテーマで炎上したんだよね。しかも彼女は見た目も「白人の中でも優れているとされる、アーリア人っぽい完璧な美人」って言われている。さらに、セリフの中で「この遺伝子が私を美しくしている」なんて言うもんだから、余計に炎上したわけ。


シェリー:それって「ありのままの体を受け入れよう」というボディポジティブに逆行しているとも取れるよね。

メアリー:スウィーニーは、いわゆる「“男らしさ”を誇示するアルファ男性」が理想とする“完璧な女”っぽい雰囲気を出している。痩せていて、金髪で、胸が大きくで、典型的な「男にとっての理想像」を体現しているんだと思う。一方でカーペンターはもっとおちゃめで子供っぽくて、「私は究極のセックスシンボルです!」なんて押し出してはいない。その差が大きいかな。

ジーンズ広告の炎上の背景には、広告のキャッチコピー「スウィーニーは素晴らしいジーンズを持っている(Sydney Sweeney Has Great Jeans)」が、遺伝子という意味のGenesとかけた言葉遊びがあり、「スウィーニーは素晴らしい遺伝子を持っている」という意味にも取れてしまうことにあります。

この表現が優生学的で白人至上主義、つまり人種差別的なメッセージを含んでいると指摘する声や、ナチスのプロパガンダを連想させるという批判も出て大炎上しました。一方で、トランプ大統領はこの広告を称賛し、アメリカン・イーグルの株価は一時的に上昇しました。

トランプ政権の今年の方針で、多様性政策の徹底的な攻撃が強まるなか、こうした差別的な表現を許容したり、あえて論争を煽ろうとする風潮も出てきています。ラボのZ世代はそのあたりのことをよくわかっているので、踊らされないようにクールに現実を見ているのがよくわかります。

しかし、それでもアメリカが多様な国であることには変わりなく、差別への怒りは確かに存在します。その証拠に、株価は上がっても店舗への集客は減少したと伝えられています。


また興味深いのは、この炎上直後にGapがリリースしたジーンズのCMです。フィーチャーされているのは、グローバルガールズグループのKATSEYEのメンバー6人で、ご存じのとおりKATSEYEは多様性あふれるメンバー構成なので、シドニー・スウィーニーの炎上CMへの回答として今大注目を集めています。

シェリーは「こうした政治的な影響が文化にどれほど現れていくのか、今後も追っていきたいと思います」コメントし、話題を締めくくりました。

<番組概要>
番組名:NY Future Lab
放送日時:毎週水曜日18:40~18:55放送
出演:シェリーめぐみ
番組Webサイト: https://www.interfm.co.jp/nyfutureweb
特設サイト:https://ny-future-lab.com/
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