作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。
3月29日(日)の放送は「村上RADIO~ジャズで聴くクラシック音楽~」をオンエア。
今回の放送は、ショパンとバッハを中心に、クラシック音楽をジャズアレンジで聴く、村上RADIOならではの特集。村上さんが選んだ、とっておきの「ジャズ+クラシック」をお届けしました。
この記事では、後半1曲と「今日の言葉」について語ったパートを紹介します。

村上春樹「高校生のときにリヒテルの演奏で初めてこの曲を聴いて...の画像はこちら >>

「村上RADIO」



◆LEO「塔~「版画」より」

次はドビュッシーを聴いてください。「版画」というピアノのための組曲の中から「塔(パゴダ)」です。演奏するのはLEOさん、本名は今野玲央さん。楽器は和楽器の琴です。この人は16歳にして全国邦楽コンクール最優秀賞をとったという、まさに神童でして、現代箏曲(コンテンポラリーな琴の音楽)を極めておられます。しかし琴でドビュッシーを弾くというのはどんなものかなと思っていたんだけど、実際に聴いてみるとこれが見事にはまっているんです。聴いてください。ドビュッシーの「版画」より「パゴダ」。
僕は高校生のときに、スヴィアトスラフ・リヒテルの演奏で初めてこのドビュッシーの曲を聴きまして、その鋭いタッチに心惹かれたことを覚えています。
「版画」はいくつかのエキソティックな光景を、まるで印象派の絵のようにピアノの音でカラフルに描写していく音楽なんだけど、「パゴダ」はその名前通り、東洋的な塔(パゴダ)を描く音楽になっています。だから琴の音色がピタリと音楽に合ってしまうんですね。

<クロージング曲>
Louis Van Dyke「Pavane」


今日のクロージング音楽はオランダのピアニスト、ルイス・ヴァン・ダイクが演奏するフォーレの「パヴァーヌ」です。ちなみにフォーレはサン=サーンスよりも年下で、ドビュッシーよりも年上です。

さて今月の言葉は、ジョージ・ハーバートさんの有名な言葉です。ハーバートさんは17世紀初め頃の英国の詩人です。彼はこう言っています。

「優雅な生活が最良の復讐である」
Living Well Is the Best Revenge.

もしあなたが誰かに何かひどいことをされても、ひどいことを言われても、復讐しようとか、言い返そうとか、そんなことを考えてはいけない。我関せず、どこ吹く風と、なるたけ豊かで満ち足りた、心地よい生活を送るべく努めなさい。そして相手に「私を傷つけることなんて、あなたにはできないのだよ」と余裕を見せつけてやるのです。それがいちばんの復讐になるのだーーということですね。

「優雅な生活が最良の復讐である」

うーん、個人的な話をしますと、かなり前のことですが、ある英国の作家が「ニューヨーク・タイムズ」の書評欄で僕の本をけちょんけちょんにけなしました。
でも僕はそのことを知らなかったんです。批評ってまず読まないから。知らないものだから、後日その作家の本をどこかで「これはとても面白い本だ」と褒めたんです。そうしたら某作家に感心されました。「ハルキは偉い、あれほど悪し様(あしざま)に言われて、なおかつその相手の本を褒めるんだから」とね。そう言われても、僕は自分がけなされたことを知らなかっただけなんですけどね。でも結果的にはそれで良かったんでしょうね。おかげで度量が広いと、僕の評価が少しでも上がったわけですから。
みなさんも誰かに何か嫌な目にあわされても、復讐してやろうとか、そういうことは考えず、ゆったり構えて、心愉(たの)しく優雅に暮らしておられたほうが何かとよろしいのではないでしょうか。

それではまた来月。

<番組概要>
番組名:村上RADIO~ジャズで聴くクラシック音楽~
放送日時:3月29日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/
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