12月28日(日)の放送は「村上RADIO~ブライアン・ウィルソン・メモリアル~」をオンエア。
この記事では、オープニングトークと前半2曲について語ったパートを紹介します。
村上RADIO
こんばんは、村上春樹です。今年ももうそろそろ終わりですね。何だかあっという間に1年が過ぎてしまいました。この1年いろんなことがありましたが、6月にビーチボーイズの中心人物だったブライアン・ウィルソンがこの世を去りました。ブライアンは1942年生まれ、亡くなったとき82歳、デビュー以来60年以上にわたる豊かな、そして波乱に富んだ音楽人生でした。今夜は彼を偲んで、「ブライアン・ウィルソン・メモリアル」というタイトルで番組をお送りします。
番組全体が彼の思い出にささげられます。今回はビーチボーイズ時代のよく知られた曲は思い切ってそっくり外して、彼がグループを離れてソロ活動に移ってからのものに絞って選曲しました。
<オープニング曲>
Brian Wilson「I Just Wasn't Made For These Times」
というわけで、今夜のテーマ音楽はいつもと違います。ブライアン・ウィルソンが1人でピアノを弾いて演奏する「I Just Wasn't Made For These Times(僕はこの今の時代に向いてないんだ)」です。これはビーチボーイズ時代の曲ですが、2021年にリリースされた『At My Piano』というピアノソロアルバムに収められています。彼は正式なピアノのレッスンを受けなかったけれど、独学で自分なりの演奏法を見つけ出し、以来その楽器は孤独な10代の少年が心の丈を打ち明ける大切な相手になりました。テクニック的には決して上手なピアニストとは言えませんが、自宅の居間にあったその古いアップライト・ピアノから、数多くの美しい曲が生み出されました。
◆Brian Wilson「Love And Mercy」
ブライアンは1966年に、ビーチボーイズを率いてリリースしたアルバム『ペット・サウンズ』で音楽的に高く評価されますが、そのあと深刻な精神的なトラブルに見舞われ、ドラッグとアルコールに溺れて、創作エネルギーは徐々に奥に追いやられ、ビーチボーイズの他のメンバーとの関係ももうひとつしっくりしないものになっていきます。この時期にも優れた曲、印象に残る曲は数多く生み出されているのですが、残念ながらかつてのサーフィン・ミュージック時代のような幅広い人気は得られませんでした。
でも精神科医の治療を受けて、それなりに回復を遂げ、1988年にリハビリのようなかたちで、彼にとっての最初のソロ・アルバムを発表します。アルバムのタイトルはそのものずばり『Brian Wilson』、その中から「Love And Mercy」を聴いてください。この曲は前にも一度かけたことがあるんですが、良い曲なのでもう一度かけます。愛と慈(いつく)しみ。ブライアンはそういうものを真剣に必要としていたんですね。
ブライアンは自分のバンドのステージの締めくくりに、この「Love And Mercy」をピアノの弾き語りで、1人静かに歌いました。そして曲の終わりに客席に向かって「グッドナイト」と言います。それはいつも、ほんとに素晴らしいコンサートの終わり方でした。
<番組概要>
番組名:村上RADIO~ブライアン・ウィルソン・メモリアル~
放送日時:12月28日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/
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