作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。
12月28日(日)の放送は「村上RADIO~ブライアン・ウィルソン・メモリアル~」をオンエア。
今年6月に亡くなったブライアン・ウィルソンの豊かな音楽性と波乱万丈の人生を、ソロ活動時代の名曲とともに振り返りました。番組では、あえてビーチボーイズ時代のヒットソングは取り上げず、ソロ時代のブライアンの音楽のみを村上さんの選曲でお届けしました。独学のピアノから生まれた美しい楽曲や、孤立と苦悩の時期があったからこそ生まれた深みのある楽曲、あまり世に知られてはいない村上さんのお気に入りの曲などを紹介しながら、ブライアン・ウィルソンの音楽人生をたどりました。
この記事では、後半4曲とクロージング曲などについて語ったパートを紹介します。

村上春樹「ブライアン、たくさんの素敵な音楽をありがとう」心を...の画像はこちら >>

村上RADIO



◆Brian Wilson「You've Got A Friend In Me」
それからディズニーの映画主題歌集です。リリースは2011年。ブライアンはカリフォルニアのアナハイムの近くで生まれて育ちました。アナハイムといえばオリジナルのディズニーランドのあるところですね。彼は小さい頃から何度もディズニーランドに遊びに行って、ディズニー映画を熱心に観ていました。だからディズニー映画の主題歌を取り上げることは、彼にとってはごく自然なことだったんですね。べつにディズニー・レコードと契約したからゴマをすった……というわけではありません。古い映画の主題歌から新しいものまで、どのトラックも愛情を込めて歌っていて、楽しめるアルバムになっています。

このアルバムからランディー・ニューマンのつくった曲を聴いてください。「You've Got A Friend In Me」、1995年のアニメーション映画「Toy Story」の主題歌ですね。第68回アカデミー賞の歌曲賞にノミネートされましたが、残念ながらゲットできませんでした。素敵な曲なんですけどね。日本題は「君はともだち」となっています。

◆The Beach Boys「That's Why God Made The Radio」
さて、2012年に唐突にというか、突然ビーチボーイズは一時的に再結成して、新曲を並べたアルバムをリリースし、ワールドツアーをおこないます。バンド結成50周年記念ということで、関係がこじれていたブライアンとマイクがとりあえず仲直りをしたというか、握手をしたんですね。途中で案の定というか、破綻をきたしたみたいですが。そのアルバムからシングルカットされた曲を聴いてください。
「That's Why God Made The Radio(神の創りしラジオ)」という日本題がついています。

◆Brian Wilson「Somewhere Quiet」
◆Brian Wilson「Half Moon Bay」

ブライアンは2015年にアルバム『No Pier Pressure』を発表します。これがブライアンの音楽人生における、ほぼ最後の作品になります。
No Pier Pressure、桟橋に圧力なし……。これがどういう意味なのか説明し始めると話が長くなるので、しません。すみません。ちょっとした言葉遊びのようなものなんですけど。
そのアルバムの中から「Somewhere Quiet(どこか静かな場所で)」を聴いてください。その昔の「Surfer Girl」なんかを思わせる美しい旋律を持った曲ですね。そして続けてインストルメンタル曲をかけます。「Half Moon Bay」、これも美しい曲です。トランペットを吹いているのはマーク・アイシャム。
この2曲を聴いて、ブライアン・ウィルソンさんに静かに別れを告げたいと思います。本当にお疲れ様でした、ブライアン。たくさんの素敵な音楽をありがとう。
感謝しています。

<クロージング曲>
The Hollyridge Strings「Wendy」
The Hollyridge Strings「Girls On The Beach」

今日のクロージング音楽はホリーリッジ・ストリングズの演奏するビーチボーイズの初期のヒットソング、「Wendy」と「Girls On The Beach」です。作曲したのはもちろんブライアン・ウィルソン。こういう曲を聴いていると、昔のことをあれこれ思い出してしんみりしちゃいますが、年若いリスナーの心にもそれなりに届くといいなと思います。

さて、恒例の「今月の言葉」のコーナーなんですが、今日はこれはお休みにして、別のことを話します。
今年、ブライアン・ウィルソン以外にも、多くの才能ある人たちがこの世を去っていきました。ミュージシャンでいえば、ロバータ・フラック、コニー・フランシス、スライ・ストーン、ロジャー・ニコルズ、マリアンヌ・フェイスフル、ジェリー・バトラー……。みんなこれまで僕が親しく耳を傾けてきた素敵な人々、素敵な音楽です。

そしてこの番組的にいえば、「村上RADIO」を担当してくれていたTOKYO FMの名物プロデューサー、延江浩さんが今年4月に他界されました。その数日前まで一緒に明るくお酒を飲んでいたのですが、突然の訃報でした。まだそんな年じゃないのに、本当にびっくりしました。心臓が弱かったんですね。

延江さんはこの番組をそもそも起ち上げ、番組スタッフを召集し、その大黒柱として精力的に奮闘してこられました。ⅮJなんてできっこないよ、と尻込みする僕を無理矢理、録音スタジオに引きずり込んだのも彼でした。まあ、その熱意は並大抵のものじゃなかったですね。いくつかの特別番組や「村上JAM」なんかも先頭に立って取り仕切ってくれました。
元気いっぱいの延江さんがいなくなって、みんな淋しい思いをしていますが、彼の遺志を継いで、というか、少しでも長くこの番組を続けていきたいものだと、スタッフ一同思っています。

みなさんもどうかお元気で、良い年をお迎えください。それではまた来年。

<番組概要>
番組名:村上RADIO~ブライアン・ウィルソン・メモリアル~
放送日時:12月28日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/
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