「過ぎたるは及ばざるがごとし(過ぎたるは猶及ばざるが如し)」というのは、中国の古典『論語』の言葉で、やり過ぎることは、やり足りないことと同じように良いことではないという意味。つまり「ほどほどに」が大切ということです。



「ほどほどに」が大切なのは育児においても同じですが、今回注目したいのは「親子の距離感」。家族だと距離感が曖昧になったり、考えなくてもいいと思ってしまいがちですが、やはり「ほどほどの」距離感は必要です。特に親子だと、距離感が近すぎるがゆえに起こる問題もあるでしょう。



■「やってあげる育児」のリスクと時代の変化



親は子どものお世話や遊び、しつけ、生活習慣、習い事、園や学校関係などほぼ全てのことに関わりますから、どうしても距離が近くなりがちです。距離が近くなる一方で、しばしば「勘違い」を起こしやすいのも、また親子関係です。



その一つが、「子どもに何でもやってあげること」。一昔前は「子どものことは何でもやってあげて、手をかけてあげるのが愛情」という風潮がありました。その世代に育てられた現代の育児世代も、「手をかける=愛情」であると、育児に家事につい頑張り過ぎてしまいます。



3児を育てる筆者も、特に第1子の産後は毎食手作り料理を作り、家をキレイに片付けても「まだ足りない」と思い、疲れてレトルト食品を食べた夜は罪悪感を感じるなど、「これで大丈夫」と安心する日はなかなかありませんでした。



一方、今は子どもと少し距離を置いて、「子どもが自分でやるのを見守る育児」が主流になりつつあります。たとえば2歳の子が靴を履くとき、昔は親が履かせてあげるものでしたが、今はうまくできなくても子ども自身に履いてもらい、段々と自分で履けるようになるのを見守ることが大切という傾向になっています。



この2つのアプローチを比較してみると、「何でもやってあげる育児」では子ども自らが体験したり、学んだり、創意工夫する機会が少なくなります。

子どもが挑戦する機会を親が奪ってしまうことになり、子どもが「自分でできた」と思える機会も減るでしょう。



「見守る育児」は時間も手間もかかりますが、少しのあいだ見守れば子ども自身でできることが増え、逆に親も助かります。子どもがやれば上手くできないこともありますが、大きな心で見ながら少しずつ教えると、子ども自身は自分で考えて工夫し、「自分でできた」という達成感や自信を身につけるようになるでしょう。



子育てのゴールは「自立」と考えると、何でもやってあげて親が子どもとの距離を詰めすぎるよりは、子ども自身に経験してもらう方がゴールに近きやすいのではないでしょうか。



■子どもを怒って言うことを聞けば、満足?



もう一つ、怒って子どもに言うことを聞かせるというのも、一世代前は当たり前でした。ドラえもんで度々繰り広げられる、のび太のママがのび太に「勉強しなさい!」と怒るシーンが分かりやすいでしょう。



のび太のテストの点が悪かったり、宿題をしないたびに、ママは「の~び~太~!」と怒ります。しかし何度も見ていると、ママがいくら怒ってものび太はいつも勉強をしませんし、テストは大体0点です。それでものび太のママは毎回のび太を怒りますし、のび太は「ママに怒られる! 助けてドラえも~ん」と逃れようとします。



つまり、根本的な問題である「のび太が勉強する習慣を付ける」といったところには至らず、ママは怒り続け、のび太は逃げることの繰り返しです。



もちろんドラえもんはマンガですから、のび太とママの間に起きる無限ループを笑って見ていられます。しかし、もしこれが現実世界で、仮にお隣の家から毎日のようにこんなやり取りが聞こえてきたらどう思うでしょうか?



「親は『勉強しなさい!』と怒っておけば良い、と思っている」「怒っておきさえすれば、自分は親の役目をはたしている」ように見えますし、「子どもが勉強をするようになる具体的な援助をしていないのでは?」という疑問が湧くかもしれません。

そして我が身を振り返ってみると、同じようなことをしている可能性もあります。



こうしたときに大切なのは怒って言うことを聞かせるのではなく、子どもが勉強する習慣作りができるように、親子で一緒に試行錯誤していくことなのでしょう。



また、「怒って言うことを聞かせる」のではその場限りですし、根本的な解決にはなりません。親子の距離を縮めすぎると「親は子どもを支配できる」という勘違いをしやすく、子どもの方もそれを感じ取り、本来あるべき信頼関係を築くことが難しくなるでしょう。



親に怒られた子どもは、反発するか、責任転嫁をするなどしてうまく逃れる方法を考えるか、逆に言うことを聞き続けて親の言う通りのことしかできない「指示待ち」になってしまうかもしれません。



子どものときに身についたことは、大人になっても続くものです。支配関係の中で育ってしまうと、相手を支配したり、執着や依存をしたり、マウントやモラハラの加害者や被害者になることもあるでしょう。怒って言うことを聞かせたり、子どものことを何でも決めるような支配は、やるのは簡単ですがリスクが大きいものです。



■距離感のお手本「子育て四訓」



親子の距離感のお手本として、分かりやすく的確なのが「子育て四訓」と言われるものです。



乳児はしっかり 肌を離すな 
幼児は肌を離せ 手を離すな 
少年は手を離せ 目を離すな 
青年は目を離せ 心を離すな

自分が子どもの立場になって考えてみれば、子育て四訓はありがたいと身にしみて分かります。確かに、青年になったら目を離してもらいたいですが、心は離さないでいてほしいものです。



近すぎず、遠すぎない距離感というのは、決して簡単ではありません。

普段は近くなりすぎるのが親子ですが、「子どもの自主性」を意識すれば、その距離感は適度に離れたものになるでしょう。



子どもにやってもらう、子どもの意見を聞く、子どもと一緒に考える。そういった態度は、ほど良い距離感を保つためにプラスになると言えるでしょう。



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