「自分は老後、いくらぐらい年金をもらえるのか?」と疑問に思う人は多いでしょう。



厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業年報( https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/toukei/nenpou/2008/gaiyou.html )」(2018年)によれば、厚生年金に加入している人の平均年金月額は、全体で14万3761円(うち男性が16万3840円、女性が10万2558円)です。



また、国民年金に加入している人、もしくは専業主婦(主夫)がもらえる平均年金月額は全体で5万5708円(うち男性が5万8775円、女性が5万3342円)となっています。



ただし、これはあくまで平均で、全員が一律にこれだけの金額をもらえるわけではありません。実際にもらえる金額は、これまでの年金保険料の納付状況によって一人一人異なってきます。極端な話をすれば、過去の納付状況しだいで、全く年金をもらうことができない「無年金」ということも…。



そこで今回は、「無年金」「低年金」について考察していきます。



■まずは年金制度の基礎をおさらい



日本の公的年金の制度は、「2階建て構造」になっています。



1階部分は『国民年金』。日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入対象となっています。そして2階部分は『厚生年金』。サラリーマンや公務員などは、国民年金に加え、厚生年金にも加入することになります。



「国民年金の加入者のうち、民間会社員や公務員など厚生年金、共済の加入者」は、国民年金の『第2号被保険者』と呼ばれます。そして、「国民年金の加入者のうち、厚生年金、共済組合に加入している第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者(年収が130万円未満の人)」は、国民年金の『第3号被保険者』、それ以外の、国民年金のみに加入する人が『第1号被保険者』と呼ばれます。



私たちが年金を支給される年齢になった時、『第1号被保険者』と『第3号被保険者』は、国民年金(老齢基礎年金)をもらうことができ、『第2号被保険者』は、国民年金に加えて、厚生年金(老齢厚生年金)を上乗せしてもらうことができる、というわけです。



『第1号被保険者』の年金保険料は一律月額1万6540円(2020年度)です。まとめて前納することで割引が適用されます。(※1( https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/20150313-02.html ))



また、『第2号被保険者』の年金保険料は、個々の収入によって異なり、半額を勤務先の事業主が負担することとなっています。そして、加入者の自己負担分は、給与から天引きされることになります。(※2( https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/hoshu/20150515-01.html ))



なお、『第3号被保険者』は、配偶者が厚生年金保険料を支払っていることで、保険料を支払っているとみなされるため、保険料の負担はありません。



(※1)「国民年金保険料( https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/20150313-02.html )」 日本年金機構
(※2)「厚生年金保険の保険料( https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/hoshu/20150515-01.html )」日本年金機構



■年金受給のための条件とは



年金のうち、国民年金の部分である『老齢基礎年金』は、保険料納付済期間と保険料免除期間の合計が10年以上である場合、65歳になったときに受給することができます。



なお、保険料納付済期間と保険料免除期間の合計が10年に満たない場合は、合算対象期間(※3( https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/kyotsu/jukyu-yoken/20140421-05.html ))を加えて10年以上になれば、この場合も受給が可能となります。



つまり、これらの資格期間を持たない人は、年金が支給されない『無年金』になってしまうということになります。ただ、平成29年7月31日までは、これらの資格期間が25年に満たなければ年金を受給できないとされていました。以前に比べれば、だいぶ条件が緩くなったということがわかります。



(※3)合算対象期間
「昭和61年4月1日以降の期間」「昭和36年4月1日から昭和61年3月31日までの期間」「昭和36年3月31日以前の期間」それぞれにおいて、指定の条件に当てはまっていた場合。

→条件の詳細は日本年金機構ホームページ『合算対象期間( https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/kyotsu/jukyu-yoken/20140421-05.html )』をご参照ください。



■『老齢基礎年金』『老齢厚生年金』金額帯ごとの受給権者数はどのぐらい?



冒頭の「厚生年金保険・国民年金事業年報( https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/toukei/nenpou/2008/dl/gaiyou_h30.pdf )」によれば、厚生年金保険(第1号)(※4( https://www.pfa.or.jp/yogoshu/ta/ta24.html ))と、国民年金の老齢年金の年金月額階級別受給権者数(2018年度末)の受給権者数の分布は以下のようになっています。



どちらも、平均年金月額に近い金額帯がボリュームゾーンとなっている一方で、厚生年金でいえば5万円未満、国民年金でいえば3万円未満など、生活ができるかどうかといったレベルの金額帯の人も、かなりの数存在していることがわかります。



(※4)厚生年金(第1号)
厚生年金保険の被保険者のうち、民間の事業所に使用される者。(企業年金連合会HPより( https://www.pfa.or.jp/yogoshu/ta/ta24.html ))



厚生年金保険(第1号)老齢年金の年金月額階級別受給権者数(2018年度末)

注)厚生年金には、老齢基礎年金の金額も含まれています。



「無年金・低年金」になるのはどんなケース?~当てはまった場合に、今からできること~

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※厚生労働省の資料より編集部作成



国民年金の老齢年金の年金月額階級別受給権者数(2018年度末)

「無年金・低年金」になるのはどんなケース?~当てはまった場合に、今からできること~

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※厚生労働省の資料より編集部作成



【出典】「厚生年金保険・国民年金事業年報(平成30年)( https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/toukei/nenpou/2008/dl/gaiyou_h30.pdf )」厚生労働省



■「ついうっかり」が招く⁈ 『不整合記録問題』



このように支給される金額が少なくなる、もしくはゼロになってしまう原因としては、何らかの事情で年金保険料を納めることができていないことが多いと思われます。しかし、「ついうっかり」が招くケースも存在します。それが、『不整合記録問題(※5)(※6)』です。



不整合記録問題って?

『第3号被保険者』であった人が、「配偶者が退職して会社員ではなくなった」「自営業になった」「基準額以上の収入を得るようになった」ことで『第1号被保険者』となった場合、国民年金保険料の支払いを開始する必要があります。



ところが、その届出を忘れ『第3号被保険者』の“ままのつもり”で年金保険料の支払いをしなかったために、年金保険料の未納期間が発生したとみなされてしまう、というのが『不整合記録問題』です。



しかし、この場合は、最寄りの年金事務所に行き、しかるべき手続きを経ることで、届出をしていなかった期間を、受給資格期間に繰り入れてもらうことが可能です。(ただし、未納期間に納めていない年金保険料の分、支給される額は減額されることになります。)



(※5)「3号不整合記録問題とは何ですか。( https://www.nenkin.go.jp/faq/kokunen/seido/3go-fuseigou/20121205-01.html )」日本年金機構
(※6)「知っておきたい「年金」の手続( https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201309/5.html )」政府広報オンライン



■『追納』で、無年金や年金の減額を防ぐことはできる。



年金支給年齢が近づき、「年金受給のための資格期間が足りない」もしくは「未納期間がある」「年金保険料の免除や支払猶予をうけた」などの理由で、無年金・年金減額となる要因があった場合でも、救済措置は用意されています。それが未納の年金保険料を後払いする『追納(※7)』の制度です。



『追納』は、最寄りの年金事務所に申し込み、厚生労働大臣の承認を受けたうえで、行うことができます。

(※7)「国民年金保険料の追納制度( https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/20150331.html )」日本年金機構



■まとめ



公益財団法人生命保険文化センターの「令和元年(2019年)度 生活保障に関する調査( https://www.jili.or.jp/press/2019/nwl4.html )」によると、夫婦2人の「最低日常生活費」の平均額は22万1000円、「ゆとりある老後の生活費」の平均額は36万1000円となっています。



冒頭の平均年金月額と比較すると、夫婦で平均的な年金を受給できていても、この金額をまかなうことが簡単ではないことがわかります。このうえ『無年金』や『低年金』といった状態になることはできるだけ避けたいところです。



【参考】
「厚生年金保険・国民年金事業年報( https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/toukei/nenpou/2008/gaiyou.html )」厚生労働省
(※1)「国民年金保険料( https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/20150313-02.html )」 日本年金機構
(※2)「厚生年金保険の保険料( https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/hoshu/20150515-01.html )」 日本年金機構
(※3)「合算対象期間( https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/kyotsu/jukyu-yoken/20140421-05.html )」日本年金機構
(※4)「厚生年金(第1号)( https://www.pfa.or.jp/yogoshu/ta/ta24.html )」企業年金連合会
(※5)「3号不整合記録問題とは何ですか。( https://www.nenkin.go.jp/faq/kokunen/seido/3go-fuseigou/20121205-01.html )」日本年金機構
(※6)「知っておきたい「年金」の手続( https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201309/5.html )」政府広報オンライン
(※7)「国民年金保険料の追納制度( https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/20150331.html )」日本年金機構
「令和元年度 生活保障に関する調査( https://www.jili.or.jp/press/2019/nwl4.html )」公益財団法人生命保険文化センター