十分な収入があるのにもかかわらず、「思うように貯金ができない」「生活に余裕がない」と感じている人もいるのではないでしょうか。総務省の「家計調査報告( http://「年収が1000万円を超えていても、貯蓄は100万円未満」 )」によると、「年収が1000万円を超えていても、貯蓄は100万円未満」などという世帯が一定数あるようです。



収入が増えると生活レベルを上げていく人は少なくありません。ただし収入に見合わないほどリッチな生活をしていれば、お金が貯まらないのはむしろ当然です。今回は、年収層ごとの支出の傾向などのデータを交えながら、「高収入でも生活が苦しい」ケースの背景をみていきます。



■年収が上がると増える支出って・・・?



年収が上がると、どんな支出が増えやすいのでしょうか。総務省統計局の「家計調査 家計収支編2019年( http://stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00200561&tstat=000000330001&cycle=7&year=20190&month=0&tclass1=000000330001&tclass2=000000330019&tclass3=000000330020&result_back=1 )」をもとに、年間収入五分位階級別の1世帯当たり品目別支出金額をご紹介します。



五分位階級とは、年間収入の低い世帯から高い世帯へと順に並べて5等分した階級を指します。もっとも年収の低いⅠ階級は年収357万円まで、もっとも高いⅤ階級は年収863万円以上です。



「高収入なのに貯まらない!?」~どうして誤算が起きてしまうのか~

拡大する



※総務省統計局の資料より編集部作成 



ここでは、下記の5つの品目を取り上げています。



  • 食料
  • 被服および履物
  • 教育
  • 教養娯楽

どの階級でも、支出がもっとも多いのは食費です。食料にかけるお金は年収が上がるにつれて増え、V階級ではI階級の約2倍のお金をかけている状況です。被服や履物、教養娯楽の出費は3倍ほどになっています。階級格差がもっとも顕著な項目は教育費です。

年収が上がれば、子どもにそれなりの教育を受けさせたいと考える親は多くなっていくでしょう。V階級は、I階級の19倍以上のお金を教育費にかけているようです。



とはいえ、収入が上がっても無計画にお金を使っていると、「こんなはずではなかった」という誤算につながりかねません。家計に余裕がなくなり貯蓄が増えにくくなると、病気や事故、失業などのアクシデントに対処するのが難しくなります。



そもそも、継続的に高収入が得られるとは限らない時代です。生活レベルを上げるのは簡単ですが下げるのは非常に難しいこと。ぜいたくな暮らしに慣れてしまうと、急に質素な暮らしを強いられることは、精神的なダメージにつながる恐れも。



また、「せっかく入学した私立の学校に子どもを通わせることができなくなった」というような事態はできるだけ避けたいものですよね。



■高収入だと国の支援制度の対象外になる?



国や自治体からの支援制度が利用できなくなることも、高収入の誤算の一つです。サポートが減るため、その分家計からの持ち出しが増える結果になります。とくに、「児童手当」「高等学校等就学支援金制度」「給与所得控除」については注意が必要です。



児童手当

中学校卒業までの子どもを扶養している世帯には、市区町村から児童手当が支給されます。0~3歳未満の児童は1人につき月額1万5000円、中学生までは1人につき月額1万円が基本です。

ところが、手当を受ける人が所得制限を超えていると制度の対象外になります。所得制限は、扶養対象となる人の数によって決められています。



たとえば、児童1人を扶養している親の年収(目安額)が875万6000円(所得額660万円)を超えると対象外となり、児童1人につき月額5000円の特例給付しか支給されません。



参考:「児童手当Q&A( https://www8.cao.go.jp/shoushi/jidouteate/ippan.html#:~:text=%E6%89%8B%E5%BD%93%E3%82%92%E5%8F%97%E3%81%91%E5%8F%96%E3%82%8B%E4%BA%BA%E3%81%AE%E6%89%B6%E9%A4%8A%E8%A6%AA%E6%97%8F%E7%AD%89%E3%81%AE%E6%95%B0,%E3%81%8C%E8%A8%AD%E5%AE%9A%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82&text=%E2%97%8B%20%E4%BE%8B%E3%81%88%E3%81%B0%E3%80%81%E5%B0%82%E6%A5%AD%E4%B8%BB%E5%A9%A6%E4%B8%96%E5%B8%AF,%E9%A1%8D%E3%82%82%E5%BC%95%E3%81%8D%E4%B8%8A%E3%81%8C%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82 )」内閣府



高等学校等就学支援金制度

高等学校等就学支援金制度は、高校の授業料を国が支援する仕組みです。これまでも、公立高校の授業料にあたる11万8800円は国が負担するため、年収目安910万円未満の世帯に公立高校に進学する子どもがいる場合、授業料は実質無償化されてきました。



これを拡充させた形で、2020年4月からは年収目安は590万円以下の世帯を対象に、私立高校の授業料についても最大29万7000円の支援金が受けられるようになり(引き上げ後の支援額は39万6000円)、保護者の負担が大幅に軽減されるようになりました。(私立高校授業料実質無償化)



参考:「変わります!高等学校等就学支援金制度( https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/__icsFiles/afieldfile/2019/06/24/1418201_1_2.pdf )」 文部科学省



給与所得控除

2020年分の年末調整から給与所得控除の仕組みが大幅に変わります。今後、年収850万円を超える世帯では所得税が実質的に増税となるケースが出てくるもようです。



参考:「令和2年度所得税の改正のあらまし(17ページ)( https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shotoku/r2kaisei.pdf )」税務署
「給与所得控除( https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/1410.htm )」国税庁



■支出を減らして貯蓄をするために



「貯蓄ができない」「生活に余裕がない」と思っているなら、支出をカットする必要があるでしょう。むやみに節約をしても長続きしないため、メリハリをつけることが大切です。



「どんな支出なら減らせるのか」「何にお金を使うのか」は、その人の考え方や価値観によって変わってきます。たとえば、支出に占める割合が高い食費を減らせば、大きな節約ができるかもしれません。とはいえ、おいしい食事をするために仕事をがんばっている人もいるでしょう。ゆずれないと思うものにはお金をかけ、それほどでもないものは思い切ってカットすることがポイントです。



一方、食費を節約したい場合は、安い食材をまとめ買いして冷凍したり、作りおきやアレンジレシピを活用したり、と楽しみながら無理なく継続できることを探しましょう。



現金派の人なら、財布に大金を入れないようにすると使いすぎを防げます。また、「シェアやレンタルを賢く利用する」「ポイントの還元率を意識した、『ポイ活』をはじめる」など、新しいサービスを賢く取り入れることも効果的です。



口座を貯蓄用と生活費用に分けることも重要なポイントです。毎月の給与が入ったら、まずは貯蓄用口座に貯蓄分を入金してしまいましょう。残ったお金で生活できれば確実に貯蓄ができます。



■さいごに



収入が上がったときこそ、家計の収支をしっかり見直す必要がありそうです。受けられるはずの支援が受けられなくなることなども考慮に入れながら、「お金を使う優先順位」をつけていきましょう。メリハリのある支出を心がけていきたいものですね。



【ご参考】貯蓄とは

総務省の「家計調査報告」[貯蓄・負債編]によると、貯蓄とは、ゆうちょ銀行、郵便貯金・簡易生命保険管理機構(旧郵政公社)、銀行及びその他の金融機関(普通銀行等)への預貯金、生命保険及び積立型損害保険の掛金(加入してからの掛金の払込総額)並びに株式、債券、投資信託、金銭信託などの有価証券(株式及び投資信託については調査時点の時価、債券及び貸付信託・金銭信託については額面)といった金融機関への貯蓄と、社内預金、勤め先の共済組合などの金融機関外への貯蓄の合計をいいます。



【参考】
「家計調査報告(貯蓄・負債編)―2019年平均結果―(二人以上の世帯)( https://www.stat.go.jp/data/sav/sokuhou/nen/index.html )」総務省
「家計調査 家計収支編2019年( https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00200561&tstat=000000330001&cycle=7&year=20190&month=0&tclass1=000000330001&tclass2=000000330019&tclass3=000000330020&result_back=1 )」 総務省統計局
「児童手当( https://www8.cao.go.jp/shoushi/jidouteate/annai.html )」総務省
「高等学校等就学支援金制度( https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/1342674.htm )」文部科学省
「変わります!高等学校等就学支援金制度( https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/__icsFiles/afieldfile/2019/06/24/1418201_1_2.pdf )」 文部科学省
「給与所得控除( https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/1410.htm )」国税庁



編集部おすすめ