財政赤字を家計の赤字に例えるのはミスリーディングであり、父ちゃんの赤字に例えるなら可能だ、と筆者(塚崎公義)は考えています。



財務省のホームページで財政赤字を家計の赤字に例えている



財務省のホームページには「日本の財政を家計に例えると収入が○万円、支出が○万円で不足分を借金で賄っていて、借金が巨額です」といった説明がなされています。



何兆円という数字を見せられてもイメージがわかない人が多いでしょうから、身近な数字に置き換えることによってイメージを持ってもらおうということなのでしょう。その努力は評価しますが、これはミスリーディングです。



家計が赤字なら、勤務先と賃上げの交渉をすれば良いのです。勤務先の決算は悪化するかもしれませんが、赤の他人ですから知ったことではありません。あるいは飲み屋に行く回数を減らせば良いのです。飲み屋は赤の他人ですから、彼らの収入が減っても知ったことではありません。



しかし、財政赤字を減らすためには増税するか歳出を減らすかする必要があります。増税相手は勤務先とは異なり、赤の他人ではない国民ですし、歳出削減先も飲み屋とは異なり赤の他人ではない国民です。



つまり、財政赤字を減らすためには国民に犠牲を強いなければならないのです。そこが家計の赤字とは決定的に異なるところです。それを家計の赤字に例えるのは極めてミスリーディングだと言えるでしょう。



■筆者なら父ちゃんの赤字に例える



筆者が財政赤字を例えるならば、父ちゃんの赤字でしょう。

父ちゃんは給料を受け取り、生活費を母ちゃんに渡しています。それだけではありません。母ちゃんの家事育児には報酬を支払い、爺ちゃんと子供には小遣いを渡しています。したがって、給料では足りず、借金をしています。



母ちゃんは、パートで働いた収入や家事育児の報酬があるのに生活費を負担していないので、豊かです。父ちゃんに金を貸し、残りは銀行に貯金しています。爺ちゃんも子供も、受け取った小遣いで余った分は銀行に貯金しています。



これでは父ちゃんがかわいそうですね。母ちゃんに「パートで稼いだ金は生活費として差し出せ」と要求する、爺ちゃんと子供に小遣いの減額を要求する、といったことが必要でしょう。



母ちゃんに生活費を負担させるのは政府が増税するのと似ていますし、爺ちゃん等の小遣いの削減は政府が歳出削減するのと似ていますね。「それによって父ちゃんの赤字と政府の財政赤字を減らすことが必要だ」と訴えれば、人々の共感を得られるのに、財務省の宣伝は上手とは言えませんね(笑)。



■対外的には何も問題がない



前回の拙稿『日本は「赤字」? それとも「黒字」? ありがちな誤解を解く( https://limo.media/articles/-/18844 )』で示したとおり、日本国と外国との取引は黒字ですから、外国に借金をしているわけではありません。

この家計も消費者金融等から借金をしているわけではなく、むしろ家計全体としては貯金をしているわけです。



家庭内の言い争いは絶えないかもしれませんが、家族としてみれば対外的には極めて健全な家族だと言えるでしょう。



もうひとつ、この例えの優れたところは、最後にはすべての問題が解決する、ということです。爺ちゃんと父ちゃんと母ちゃんが死に、すべての財産と借金を子供が相続すれば、子供は無借金で貯金を持っているわけですから、何の問題もなくなるわけです。



財政赤字も、極端な話ですが数千年後に少子化によって日本人が最後の一人になり、その子が死ねば、すべての財産と借金が政府のものになりますから、政府の借金はあっさり消えて何の問題も残らなくなるのです。



数千年待つ話は極端だとしても、「財政赤字は子孫にツケを残すものだから、増税をして子孫の負担を減らすべき」という主張が誤りであることもわかります。



父ちゃんが母ちゃんに生活費を負担させれば、父ちゃんの借金は減りますが、母ちゃんの資産(父ちゃんへの貸付)も減るので、子供が相続できる金額の合計は変わらないからです。



「財政赤字は将来の世代への増税だ」というのは正しいのですが、それを避けるために現在の世代に増税すると、将来世代が受け取れる遺産が減るので、遺産相続のことまで併せて考えれば財政赤字を減らすことにそれほどの意味はないわけです。



以上、いかがでしたでしょうか。家計の赤字としてしまうと家庭の外への借金が生じてしまいますが、家庭内の貸し借りだとすれば、外への借金は生じないので、筆者の案の方が現実をスッキリ説明できていると思うのですが。



本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。

また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。



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