2019年、児童相談所における虐待相談対応件数は、過去最多の19万3780件(※1)となりました。



2018年の3月、東京都目黒区で、虐待を受けて亡くなった船戸結愛ちゃんのニュースは、皆さんの記憶にも残っているのではないでしょうか。



しかし、虐待への関心が高まるなか、虐待死などのニュースは後を絶ちません。
2019年の1月には、千葉県野田市で、栗原心愛さん(当時10歳)が、度重なる虐待を受けた末に死亡。今年の8月にも、福岡県中間市で3歳の男の子が、親に頭を殴られて亡くなる事件がありました。



このような、虐待による死亡事例は年間50件を超え、1週間に1人の子どもが命を落としているのです。(※2)



現在、コロナ禍で家にいる時間が増えたことで、周囲の人が虐待に気付きにくくなったことや、虐待の増加、エスカレートなども危惧されています。



そこで本記事では、虐待のさまざまなかたちや、いまメディアなどで問題提起されることが増えた「毒親」についてお話をしていきます。



親から離れた後も続く虐待被害者の苦しみ、そして、虐待防止を目指して行われた法改正などについても触れていきますので、ぜひ目を通してみてくださいね。



■「虐待」のかたちはさまざま



身体的虐待

身体的虐待は、殴る・蹴る、といったような、体に危害を加えるものを指します。



他にも、熱湯を浴びせる・風呂に沈める・首を絞める・冬に屋外へ締め出すなど、さまざまな身体的虐待が存在し、最悪の場合は死に至ることもあります。



身体的虐待は、痣や傷などで周囲が気付きやすい面もありますが、洋服で見えない部分をあえて蹴ったり、傷を隠させたりする親もいるため、注意が必要です。



心理的虐待

心理的虐待は、無視・ひどい言葉を浴びせる・脅す・きょうだい間差別をすることなどを指します。



身体的虐待と違い、目に見えにくいことから、周囲が虐待を受けていることに気付かない場合も多いです。



しかし、心理的虐待は、4つの虐待の中でも1番被害件数が多く(※1)、また、子どもの心をひどく傷付け、殺してしまう可能性もある、とても危険な行為です。



性的虐待

性的虐待は、性的な行為の強要などを指します。



被害者は、女の子だと思いがちですが、男の子が母親から性的虐待を受けているケースもあります。非常にセンシティブな事項であるため、注意が必要です。



性的虐待については、被害に遭った本人が発信しなければ周囲が気付かない場合が多いのが現状。加えて、恥ずかしさなどから助けを求められないこともあるため、何年も我慢し続ける子どももいるのです。



ネグレクト

ネグレクトは、育児放棄や、子どもの行動を制限することなどを指します。



具体的には、保護者が子どもの世話を何日も放棄して出かける、食事を与えない、学校に行かせず家に閉じ込める、車の中に放置することなどが挙げられます。



乳幼児や、小学校低学年の子どもに対して起こりやすく、栄養不足で死に至ったり、熱中症などで死に至ったりと、命の危険が及ぶことも少なくありません。



■「毒親」という存在



毒親とは…

子どもを支配し、悪影響を及ぼす親のことを「毒親」と呼びます。



暴力や性的虐待、過干渉や監視など親の行動範囲は多岐にわたり、子どもが親の毒や異常さに気付かず、大人になって周囲の親の話を聞くことで気付く場合などもあります。



毒親は一見「良い人」だと思われることも

毒親は、周囲から見ると「熱心な親」「良い親」だと思われるケースがあります。



たとえば、極端に子どもの生活に干渉したり、子どもがすることを監視して注意したりする場合でも、周囲の人が「子どもをきちんと見ていて偉いね」と評価するなど、親自体も自分が「毒親」だと気付かないこともあるのです。



■親から解放されても続く「虐待の後遺症」



虐待を、「親から離れればすべてが終わる」と捉えている人はとても多いです。
しかし、虐待被害者は、親から解放されてからも虐待の経験に苦しめられていることがあるのです。



ここからは、虐待後の影響についてみていきましょう。



「心」への影響

虐待の経験が、精神面に影響を及ぼすことがあります。



暴力を受けたトラウマなどから精神面が不安定になり、抑うつ状態やフラッシュバックに苦しみ続ける人もいるのです。



また、幼少期に虐待を受けた人の中には、心のバランスを崩して精神疾患を発症する人も少なくありません。虐待の経験が大人になってからも生活に大きな影を落とすことになります。



精神科を受診している人やカウンセリングを受けている人、対人恐怖症で仕事に就けない人など、虐待は親から解放されてからも苦しみ続けるものなのです。



周りの無理解

虐待の後遺症は、周りから理解してもらえないことも多いです。



友人や職場の同僚に、虐待の経験を話したり、いまも精神科に通っていることを伝えたりしても、「いつまで引きずっているの?」「いい加減忘れなよ」「過去の話でしょ」と、ひどい言葉をかけられることもあります。



その結果、周囲の人をさらに信頼できなくなる、ストレスになる、1人で抱え込むようになる、ということも少なくありません。



負の連鎖

虐待は、連鎖すると言われています。



子どものころに虐待を受けていた人が、親になってから、自分の子どもに同じように虐待をしてしまうケースがよく聞かれます。



「自分は親のようにはならない」と覚悟を持っていても、いざ親になると、しつけの方法が分からなかったり、愛し方が分からなかったりするために、親が自分にしていたこと(暴力など)をそのまま子どもにしてしまうことがあるのです。



■児童虐待防止のための取り組みや活動



児童虐待防止法・児童福祉法の改正

後を絶たない児童虐待問題への対応強化のため、「改正児童虐待防止法」と「改正児童福祉法」が2020年4月から施行されました。

(※3)



<主な改正内容>



  • 親権者などによる体罰防止(虐待につながる可能性があるため)
  • DV対策と連携を強化(虐待がある家庭ではDVも起きていることが多いため)
  • 児童相談所の体制強化
  • 子どもを一時保護する「介入」と、保護者支援の職員を分離(職員が、親権者との関係を考慮して子どもの保護をためらわないように)

オレンジリボン運動

オレンジリボンを、児童虐待防止のシンボルマークとして広めることで、虐待をなくすことを呼びかける市民運動です。(※4)



「国や自治体・企業などに対して、虐待のない社会を目指すためのさまざまな取り組みを促す」「内閣総理大臣への制度改正提言」「虐待の広報・啓発活動」などをおこなっています。



■さいごに



児童虐待は後を絶たず、過去最多の件数となりました。



目に見える虐待から、周囲が判断しにくい虐待まで、被害内容は一人一人異なります。しかし、多くの被害者に共通していることは、虐待親や毒親から解放された後も後遺症等に苦しんでいるということです。



周囲の人が、虐待の被害に遭った人たちの心を「完全に」理解することは難しいかもしれません。しかし、関心を持ち、理解しようとする姿勢が大切です。



また、虐待を見つけた場合は、通報義務もありますので、児童相談所虐待対応ダイヤル「189(イチハヤク)」を覚えておくと良いでしょう。



虐待件数を減らすためには、親の意識だけでなく、周囲の理解や協力が重要です。皆さんも虐待に関心を持って頂けると幸いです。



【参考】
(※1)「令和元年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数<速報値>( https://www.mhlw.go.jp/content/000696156.pdf )」厚生労働省
(※2)「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第16次報告( https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000533873.pdf ))」2020年9月厚生労働省
(※3)「児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律の公布について〔児童福祉法〕( https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc4360&dataType=1&pageNo=1 )」厚生労働省
「児童福祉法( https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000164 )」「児童虐待の防止等に関する法律( https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC1000000082_20200910_502AC0000000041&keyword=%E5%85%90%E7%AB%A5%20%E8%99%90%E5%BE%85 )」 e-GOV法令検索
「改正児童虐待防止法 4月から施行( https://www.komei.or.jp/komeinews/p60884/ )」公明党
(※4)「オレンジリボン運動( https://www.orangeribbon.jp/ )」認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク



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