今年に入り、ミャンマークーデターや新疆ウイグルの人権問題などを巡り、米国や英国・EUなどがミャンマー国軍幹部や中国当局者たちに経済的な制裁を発動。それに伴って日本企業の行動にも変化が生じ、一部では制限を受ける事態となっている。
たとえば、キリンはミャンマー国軍系企業との合弁解消を発表し、ウイグル人権問題を巡り、カゴメやミズノなどはウイグル産のトマトや綿花の使用を今後停止するとしている。
一方、ファーストリテイリングはユニクロの綿製シャツが米国で輸入差し止めになったことが明らかとなり、フランスでは人権問題に関連して現地人権NGOなどから告発される事態も発生した。
現時点でそういった影響を受けている企業はごく少数かもしれない。また、内閣官房の国家安全保障局にも経済班が設置されるなど、行政機関も経済安全保障に本格的に力を入れ始め、それに関する出版本や記事も世間では増えてはいる。
それでも、大きな影響を受けていない分、経済安全保障を経営的視点から真剣に考えている企業は決して多くないのが実態だろう。
筆者は海外に展開する日系企業向けの、地政学的・治安上のリスクに関するコンサルティング業務に従事しており、実際に企業担当者たちと話していて肌で感じることがある。
それは、彼らの多くは経済安全保障の重要性を知ってはいるものの、経済的かつ経営的な影響を受けていないということから実感がないということだ。
もちろん中には熱心に考えている方々もおられるが、全体として経済を安全保障と関連させて考える動きは依然として少ない。
■経済安全保障への危機感が薄い?
経済安全保障の議論の中には、バイデン政権が脱中国のサプライチェーン強化を進めているように、半導体など重要品目の国産化や脱中国化の話も出てくる。
ただ、それに関係する経済活動従事者たちからは、「多少の制限やリスクがあったとしても、停止すれば経営的損害が計り知れない」「撤退や規模縮小、生産・製造拠点の移転、調達先の変更・多角化は、そんな簡単な話ではない」との声が多く聞かれる。
海外に展開する企業が直面するリスクは多様だ。それは、現地の労働・雇用リスク、生活・文化リスク、法務リスク、治安リスク、情報システムリスク、感染症・医療リスク、自然災害リスクなど多岐にわたる。
また、各企業によって、さらには進出先や時期によっても、どんなリスクがあるかは大きく異なるだろう。
経済安全保障リスクもその1つ。企業の経済活動において経済安全保障は1つのファクターとして考えられるべきものであり、撤退や縮小などを促す万能薬ではない。
しかし、国家間の競争が経済や貿易の領域で行われ、それが今後さらに激化する恐れも指摘されるなか、各企業は経済安全保障の動向をこれまで以上に危機管理意識を持って注視していく必要があろう。